軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の託宣

「教皇様! 手紙が届きました!」

仮眠から目覚めて作戦本部に戻った矢先、息も絶え絶えに白神官が手紙を握って滑り込んで来る。

わしはそれを受け取ると、皆に聞こえるように声に出して手紙を読んだ。

「なになに。ハートからじゃな。賊が国境を越えた……。なんと! 国がらみの犯行の可能性があるだと!」

わしの叫びにその場にいた誰もが耳を疑った。

ヘンゼッタ王国は教会に 盾付(たてつ) くきか?

あの国は聖女がいないから、災害時は周辺国から聖女を派遣してるのに。

気でも 触(ふ) れたか。

恩を仇で返しおって。

「モーラス司教! 教会のヘンゼッタ王国支部に手紙を! 情報をかき集めるのじゃ!」

神官達が一斉に動き出す。

わしはハートに宛てた手紙を書くと急いで自室に戻り、金庫の中にあるわしの魔力にしか反応しない教皇印と “神の託宣” を取り出した。

教皇印に魔力を流しながら判を押すと “神の託宣” がほんのり光る。

手紙と共に “神の託宣” を綿毛に付けてハートに宛てて窓から飛ばした。

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この “神の託宣” があればハートは神と同じ権限を持つはずじゃ。

これで神の名の下に、何でも出来て何処にでも入れる。

この国の第一を除いた全聖騎士団を向かわせる。

敵を追い詰め過ぎてマリーに危害が及ばぬよう上手くやるのじゃぞ。

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医務室で俺達はウトウトしながら、リリーが目を覚ますまで待っていた。

「うぅ。頭が痛い」

「起きたぞ!」

爺さんの声にみんながリリーのベッドの脇に駆け寄る。

俺は焦る気持ちを抑えて深呼吸をした。

使われた薬はどこでも手に入る魔獣用の毒物だった。

人用ではなかった為、特定に時間がかかった事が悔やまれる。

「リリー。マリーはどこだ?」

「あれ? ガイン。マリーは?」

リリーは本気で驚いていた。

目を覚ますとはっきり分かるが、表情も仕草もマリーとは違う。

完全に別人だ。

「何があったか覚えているか?」

「えー? 急に言われてもよく分かんない」

こいつ、口封じをされた事すら気付いていないのか?

リリーの呑気な態度にフェルネットが苛立っている。

「落ち着け。悪いが爺さんを外に連れだしてくれないか?」

フェルネットは頷くと、爺さんの肩を叩いてドアの外を親指で差した。

あいつはリリーといるとおかしくなるから、これ以上一緒にいさせたくないな。

それに、爺さんにはこれからする事を見せたくない。

シドさんと目が合うと同じ意見のようだった。

「ねー、ハートは? 私の護衛は?」

「リリー。そんな事よりその服はどうした? 何を覚えている?」

俺は焦る気持ちを抑えながらリリーの目を真剣に見る。

「ハートを呼んで。うふふふ。ハートを呼んでくれたら教えてあげるから」

今までリリーがハートに惚れていた素振りなんて無かったのにどうしたんだ?

シドさんを見ても肩をすぼめて分からないといった表情だ。

仕方ない。気が進まないが……。

リリーに伸ばしかけた俺の手をシドさんが力強く掴んだ。

「下がってろ」

殺気立ったシドさんは、いきなりリリーの髪を乱暴に掴むと思いっきり顔を 引(ひ) っ 叩(た) く。

「痛い! 何こいつ! 放してよ!」

「マリーはどこだ? その服は誰にもらった?」

シドさんは静かに聞いた。

髪を掴まれて暴れていたリリーは、シドさんの迫力に負けておとなしくなる。

そうだ、お前は喋るしかないんだよ。

徹夜で毒物を特定してお前を助けたのは、全部情報の為なんだ。

シドさんがもう一度リリーの頬を引っ叩くと同じ質問を繰り返した。

「マリーはどこだ? その服は誰にもらった?」

「わ、分かんない、分かんないってば! 話すから叩かないでよ! だから、隣国? で、お姫様になろうと思ってメイルスとお城に行ってドレスを貰ったの。それでね、お料理とか。後、教室にも通ったの! なのにメイルスが家に帰れって。そしたら辞めたはずの護衛がね、袋に入った粉を2人で浴びたら聖女にしてやるって」

「袋に入った粉?」

「そう。不思議に思って『なんの袋?』って聞いたの。そしたらキラキラの粉っだって。パレードで使ったキラキラの粉と同じものだって。2人で浴びたら願いが叶うって!」

シドさんはペラペラとしゃべりだしたリリーの髪から手を放す。

「じゃあ、マリーも同じ毒を受けたのか?」

「毒? 何それ? 知らない。私はマリーと一緒に聖女になりたいの。仲直りもしたかったの。それでね、ハートと一緒になる為に協力して欲しかったの。それよりマリーはいなくなったの?」

「ああ。連れ去られた。心当たりはあるか?」

「連れ去られた? それ多分メイルスのお兄さんの第一王子だと思う。ダジールが……、辞めた護衛がね、ここに来る途中に色々聞いたら教えてくれたの。第一王子とマリーを結婚させるって言ってた。マリーは幸せになるんだって。でも向こうに連れて行くなんて聞いてないよ?」

支離滅裂だが大体の事情は分かった。

マリーは隣国の第一王子に連れ去られたんだな。

計画を『漏らした』というより、リリーに根負けして『喋らされた』という感じか。

リリーを連れて来た敵の苦労が目に浮かぶ。それで口封じか……。

リリー相手に計画通りにいかないのは敵も同じか。

本当に悪運が強いな。敵に少し同情したくなる。

シドさんは厳しい表情のまま俺を見た。

「嬢ちゃんの安否が確認できない」

結婚させるという話が本当ならば生きているはず。

だが、俺もシドさんも周りにいた神官達も滅多な事は口に出せない。

不確定な情報は命取りだ。

「教皇様に……」「ガイン様!」

俺が白神官に指示を出そうとすると同時に、別の白神官が医務室に滑り込んでくる。

その後ろからフェルネットと爺さんも入って来た。

「先ほど教皇様宛にハート様から連絡が! 賊は国境を越えたそうです! この件に関してハート様に “神の託宣” が発行されました!」

「神の託宣が!?」

その場にいた全員が顔を上げて息を飲む。

神の名の下に何をしても許される書状だ。

たとえ国王を殺しても神の行いとして罪に問われない、逆らった者は神に背いたとして断罪されると言われている、あの……。

俺は気を取り直して神官に指示を出す。

「教皇様にマリーは隣国の王城にいると連絡を! 黒幕は第一王子だ!」