作品タイトル不明
第一王子達の計画
「ヨルスアージュ第一王子。聖女様がお目覚めになりました」
聖女に付けていたメイドのスージーが私の部屋に報告に来た。
待ちに待った報告に私はソファーを立ち上がる。
「おお、そうか! して、様子はどうだ?」
「軽くお食事も取られ、今はお茶を召し上がっていらっしゃいます」
流石聖女だな。こんな状況でも取り乱したりしないのか。
食事も取ってお茶もしているなら問題なさそうだな。
とりあえず落ち着こうとソファーに座りなおした。
さて、どうアプローチしようか。
意外に聖女みたいなの高嶺の花は、誰にも口説かれず男に免疫がなかったりするし……。
あれ? もしかしたら簡単にコロッといけるかもな。
「よし! 面会の準備をさせてくれ」
「かしこまりました」
それにしてもあのダジールと言うメイルスの元護衛はすごいな。
『帰国する妹と本物と入れ替えて戻ってきます』と豪語して出て行ったが、本当に本物を連れて帰って来るとは。
メイルスの部下は優秀な者が多い気がする。
あの時、勢いですり替えようとは言ったが、まさか本当に実現するとは思わなかった……。
いきなり息を切らせたラーセンが、ダジールを連れて部屋に飛びこんできた時には心底驚いたもんな……。
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「王子! 聖女を連れ帰りました! 解毒薬を飲ませたのですぐに目覚めるでしょう」
「え? 本当に連れて来たの?」
私はダジールの言葉に驚いて側近のラーセンを見る。
「はい。奥の部屋にお連れしました」
なんと。
「良くやった。凄いじゃないか。でも、大丈夫なのか?」
ラーセンが大きく頷いた。
ラーセンがそういうなら平気なのかもしれないけど不安だな。
「王子。ダジールは第 二(・) 王子の護衛主任ですよ」
「 元(・) な」
「いいですか王子。第 二(・) 王子が聖女の妹をここに連れて来て、聖女の偽物を作ったのです。そして、本物の聖女を 攫(さら) ったのは第 二(・) 王子の護衛のダジールです。要するに、この誘拐の犯人を第 二(・) 王子に仕立てるのです」
「おお。それはいい案だな」
「そして王子は誘拐犯から聖女を助けた英雄になります。これを機に聖女と仲良くなり、ゆっくりと口説いて頂ければよろしいかと」
ラーセンが悪い顔で笑う。
「なるほどな。女を口説くのには自信がある。それは任せておけ」
ラーセンもダジールも頷いてくれた。
「でも、ダジールは捕らえられたりしないのか?」
「心配には及びません。捕らえる際に死んだ事にして国外に逃がします」
ダジールが「ありがとうございます」と頭を下げる。
「そうか。ご苦労だったな。それにしても、どうやってすり替えたんだ?」
「はい。普段、聖女が私用で王都を頻繁に出入りしていた為、侵入時は、外壁門の門衛も、教会の門衛も、巡回する聖騎士も、すれ違う神官達でさえ、誰も同じ顔の妹を疑いませんでした。また、妹は聖女になりたがっていたので説得する手間もありませんでした」
「なるほど。でも、魔法が使えなければすぐに偽物とバレるのでは?」
するとダジールはとても嬉しそうに微笑んだ。
「妹は殺しました」
「……」
そういえば私怨があったと言っていたな。
「王子。教会は今、聖女が死んだと勘違いしています。追っ手は国境で足止めしておりますが時間がありません」
言葉を失う私にラーセンが厳しい口調で言う。
「聖女が生きていると分かれば死に物狂いで取り戻しに来ないか?」
「ですから王子。聖女に事情を説明し、こちら側に引き込んでください」
ラーセンはいつになく真剣な表情で少し怖かった。
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しばらく考え事をしていたら、スージーが部屋に戻って来た。
「聖女様の準備が整いました。客間にお通ししております」
「よし、すぐに向かおう」
私は気合を入れて背筋を伸ばすと、案内された客間に入る。
「聖女様。ヨルスアージュ第一王子がいらっしゃいました」
「はい」
おお、これは……。
窓を背に立つ聖女は、周りの空気にまで気品があった。
存在感がまるで違う。
彼女は私を見ると、私が準備したドレスの裾を軽く持ち上げて優雅にお辞儀をする。
その姿は息をするのを忘れるくらい美しかった。
私達はソファに向かいあって座ると、スージーがお茶を出して後ろに控える。
「聖女様。我がヘンゼッタ王国へようこそ」
舞い上がる私がそう歓迎の意を示すと、彼女はとても美しく微笑んでくれた。
喜んでくれているのかな?
胸が高鳴り言葉が続かない。
「わたくしの予定にヘンゼッタ王国への訪問があったのかしら?」
彼女は顔だけ笑って私を見る。
目が全然笑っていない。絶対に喜んでいないな。
「急な事で驚かれたであろう。まずは事情を説明させて頂きたい」
「……」
彼女は作った笑顔のまま動かない。
気を取り直して話を続ける事にした。
「コホン。実はわが弟が聖女様の妹君を利用して聖女様の誘拐を企てた。私はその計画を知り聖女様を救出して保護したのだ」
第一王子の私が聖女を助けた英雄だとアピールしているのにも関わらず、彼女は 眉(まゆ) 一つ動かさない。
なんで?
「ところで、わたくしの身の安全は保障されているのかしら?」
聖女様は笑みを深くしてそう言った。
圧が凄いな。
「それはもちろんです! ご安心ください! 聖女様の事はこの私が命に代えても守って見せます」
「とても頼もしい限りです」
おお。やっとにっこり微笑んでくれた。
私の男らしさに惚れたのかもしれない。
「何か必要なものがあれば何でもご用意させていただきます。ぜひ、そこのメイドのスージーにお申し付けください」
彼女の表情一つで私の心は一喜一憂する。
「ありがとうございます。それではわたくし “病み上がり” で少々疲れましたので、失礼させていただきますわ」
そう言って、にっこり笑うと足早に客間を出て行った。
『病み上がり』……。あれって嫌味だよな。
私が誘拐させたことがバレてるのか? いや、そんなはずはない。
「なぁスージー。聖女様は怒ってたかな?」
私は不安になってスージーを見ると、彼女はお茶を入れ替えて置いてくれる。
「そうは見えませんでした」
「女性はどうすれば男に惚れるんだ?」
「わたくしの場合 は(・) ですが、財力を見せつけるとよろしいかと」
「うむ」
そうだよな、何でも買ってやると言って喜ばない女性はいないよな。
ドレスや宝石を送ったりすればいいのか?
でも聖女は立場上、何でも手に入るはずだし……。
「欲しい物をすべて買い与えてやってくれ」
「かしこまりました」
女性はみんな王子の嫁になりたいと願うはずだよな。
彼女が望むなら、今付き合っているすべての女性と手を切ってもいい。
スージーともちゃんと別れないとな。
私はあの美しい顔に一目惚れをした。