作品タイトル不明
ガインの回想 後半
「マリーが聞いたら驚くかな?」
「ああ、絶対に喜ぶ! もしかしたら最初からこうする為の制服か?」
フェルネットの問いに俺がそう返すと、ハートも大きく頷いた。
「フフ。あの教皇様ならやるかもな」
「わはは。お爺様はそんなに計算高くないですよ」
テッドが珍しく大きな声で笑っている。
マリーの研究所に向かう俺達は、馬鹿みたいに浮かれてはしゃいでいた。
横から教会に関わる事がどんなに難しい事か。
それが分かっていたから、苦肉の策でギルドを通して貰ったんだ。
なのに向こうから誘って貰えるとはな。教会も随分と変わったもんだ。
これで障害がすべて無くなったし、俺達はマリーの為にどこにでも行ける。
「ねぇガインさん。お祝いは、いつもの店で盛大にやろうよ」
「爺さんやシドさんも呼んで来ないとな!」
フェルネットが楽しそうにステップを踏みながら渡り廊下を先に行き、突然全速力で走りだした。
俺も笑って視線を移すと、一本先の渡り廊下で大きな袋を担いだ男の姿が視界に入る。
「なんだ?」
俺の体は反射的にマリーの身の安全を確認する為、研究室に向かって走り出した。
ハートとテッドは同じタイミングで駆け出して、袋の男を追いかける。
廊下の先の黒い影が、血まみれで倒れているニールだと気が付くと俺は血の気が引いた。
嘘だろ。違うと言ってくれ。
フェルネットがそれを横目にドアが開いたままの研究所に飛び込んで行く。
「マリーー!」
フェルネットの悲痛な叫びに俺の頭は真っ白になった。
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「そして気が付いたらこんな状況だ。会議の日程は前から決まっていたもので、スケジュールの入手は誰にでも出来た。研究室の護衛に俺達がいない事は簡単に調べられたはずだ」
丁度そこに、体を血まみれにした女性の聖騎士が息を切らせて飛び込んでくる。
研究所の外で倒れていたニールを医務室に運んだ者だ。
「容態は?」
全員が注目して息を飲む中、彼女は笑顔で頷いた。
あちこちで歓声が上がり、聖騎士達が肩を叩き合っている。
ニール……。
俺もホッと息を吐くと、 拳(こぶし) を手の平に叩き付け自分に気合を入れた。
俺達にはやらなくてはいけない事がある。
俺は大きく深呼吸をすると、聖騎士達の前に出た。
「みんな聞いてくれ! 俺達の聖女は 攫(さら) われた! 聖女を取り戻すまで気を抜くな!」
「「「「はっ!」」」」
聖騎士達が素早く俺の前に姿勢を正して整列をする。
「既に門番や巡回兵が王都全体の警戒にあたっている。賊はハートとテッドが追いかけた。今はこれ以上出来る事はない。いつでも応援に向かえるように準備をしておいてくれ」
「「「「はっ」」」」
解散すると、聖騎士達が一斉に部屋を後にした。
「白神官達は教皇様に今の状況報告と、何人かは第二聖騎士団の飯などのフォローに向かってくれ」
「「「はい」」」
俺の話を記録していた白神官達は勢いよく走って行く。
急に部屋が静かになると、残ったフェルネットとシドさんが俺の元に歩いて来た。
「平気か? ガイン」
「……研究室には開発中の貴重なサンプルや世に出してはならない危険な劇薬まであるから、それを狙った賊だと思ったんだ」
「ああ」
シドさんが俺の肩にそっと手を置く。
「リリーがここまで大それた事をするとは思わなかった」
しかもこの俺が、マリーとリリーを見分けられなかったなんて。
俺は悔しくて机を殴りそうになり、感情を抑えて手で止めた。
「妹ちゃんは利用されただけだと思うぞ。そうでなければ毒など盛られたりしない」
「僕もそう思う。リリーにこんな知恵があるわけないし」
シドさんが「少し休め」と言ってくれる。
「すべてが明らかになるのは、妹ちゃんが目を覚ましてからだな。さっき神官から聞いたが、門衛も教会の警備もみんなあの子を聖女だと思って確認すらしなかったそうだ。更に詳細を調べているらしいが、たいした情報は得られないだろう」
「ガイン様!」
そこに息を切らした黒神官が部屋に駆け込んできた。
「ハート様達が門番に馬を借りて森に向かったと報告が来て、第二聖騎士の方達も追いかけるように出て行ったそうです!」
「そうか。報告ご苦労。少しそこで休んでいけ」
フェルネットが黒神官に水を入れてあげている。
「ガイン。妹ちゃんと接触し、あれだけ見た目を似せる事が出来る財力。そこまでして聖女を奪うなら金銭が目的じゃない。相手は大物かもしれんな」
俺はシドさんが殺気を帯びたまま、リリーの寝ている医務室に戻っていく背中を茫然と目で追った。
ドアからハートがいつもの様にマリーを抱えて、呆れた顔で入って来る幻覚が見える。
マリー。訓練通りに身を守れよ。