軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リリーと馬鹿王子

「これはいかがでしょうか?」

「あっちの白いレースの奴がいい。後は、これと、これ」

商人が見せる生地をリリーが楽しそうに選んでいる。

「なぁブリッド。彼女、風呂に入らせて服を着せたら、それなりに見られるようになったよな?」

「はい。ですが、問題は無かったのですか?」

ブリッドがゴミを見るような目で私を見た。

「決して強制はしていないぞ」

「そう言う事ではなくて……」

ブリッドが呆れた顔でリリーに目を向ける。

それよりも早く言葉遣いとマナーを身に付けさせたいな。

「これから冬なのでコートも必要ですか?」

リリーと商人が嬉しそうに私を見た。

私は「好きにしろ」と手をひらひらさせて部屋を後にする。

女性の買い物は長くて退屈だ。

「教育係は見つかったのか?」

「いえ。優秀な者は第三王子に付いておりますので、一流とは言えない者であれば……」

ブリッドが『仕方ないですよね?』と言わんばかりに私を見た。

「シェア出来ないかな?」

ブリッドが鼻で笑う。

だよな。

教育係なんて借りたら父上にすぐにばれるし。

この離れの部屋も兄上にバレないように用意させたのに。

「ブリッドが教育したらどうかな?」

「私の最高傑作が王子なのですよ?」

ブリッドと目が合って、ふたりして微妙な顔になる。

そうか。私はブリッドの最高傑作だったのか。

じゃ、ダメだな。

「だれか探しておいてくれ。それと、今日の夕食は私もこっちでとる」

「はい」

静かな離れの食堂に、カチャカチャと食器の触れ合う音だけが響く。

私の目の前でリリーが食器を鳴らして食事を始めた。

顔は似ているんだよなぁ……。

私は顔だけ笑って心の中でため息を吐いた。

「あ、リリー。お皿に口を付けてはいけないよ」

両手にお皿を持ってスープを飲もうとするリリーを慌てて止める。

「なんで?」

リリーがお皿をテーブルに置くと、不思議そうに私を見た。

「手は熱くなかったかな? スプーンでこうして飲むといい」

私がスープを飲んで見せると、リリーはメイドにスプーンを持たせて貰い一生懸命に真似をする。

何度か繰り返すうちに、スープはきちんと飲めるようになった。

私がにっこり頷くとリリーはとても嬉しそうにスープを飲み干す。

出来ない訳ではないのか……。

「肉はこうやって切って食べるんだ。好きなだけ練習すると良い」

手掴みで食べようとしたリリーにメイドがナイフとフォークを持たせ、切り方を丁寧に教えている。

これは流石にすぐには出来ず、メイドが切り分けたものをフォークで刺して食べていた。

「リリーは飲み込みが早いんだな」

「うふふ。ルディが前に少し教えてくれたの」

ルディが誰だか知らんが、ありがとう。

だが、もっと教えておいて欲しかった。

しかしこの後私は、嫌というほど自分が馬鹿だったと後悔する事になる。

リリーの傍若無人な態度は、驚くほど日増しに酷くなっていった。

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「王子、あれを……」

数日後、外から帰って執務室に向かう途中、護衛主任のダジールが渡り廊下を荷物を抱えて歩く姿が見えた。

まさか、違うよな?

「ブリッドを私の部屋へ。至急だ!」

「はっ!」

「王子! お急ぎの件とは?!」

ブリッドが慌てて執務室に入って来る。

「大変だ! さっき護衛のダジールが荷物をまとめて歩いていたぞ!」

ブリッドは心当たりがあるようで「ああ」と言いながら項垂れた。

「それが……。リリー様がクビにしたそうです」

「は? 急いで連れ戻せ」

「もちろん引き止めましたが、もう我慢できないと……」

なんてことだ。とうとう護衛までクビにし始めた。

このままだと私の部下が一人もいなくなってしまう。

「それと……。また、勝手に教育係もクビにしてしまいました」

「はははは」

笑っている場合じゃないが、もう笑うしかないな。

私の運も尽きたのだろうか。

「今度、教育係が辞めたらブリッドが担当な」

「秒でクビです」

もう五人目だぞ。

次の教育係が逃げだしたら本当にブリッドに頼まなくては。

このまま放置したら、父上にまで『クビ』と言いかねない。

あああ。なんて大変な娘を連れて帰って来てしまったのだ。

この際、食事のマナーも言葉遣いもどうでもいい。

あの暴走を止めなくては……。

「ブリッド。リリーを誰にも接触させないようにしてくれ」

「それが出来たら私はもっと出世してます」

だよな。

「普段は何をしているのだ?」

「使用人の子供と遊んでおりますが……」

ブリッドがポンと手を打った。

「子供同士ならクビに出来ませんよ!」

「それだ! 上級使用人の子供達のマナー教室で、リリーも一緒に学ばせよう」

ブリッドが嬉しそうに頷く。

「流石王子、頭がいいです!」

「あはは。初めて言われたわ」

乾いた笑いでひとしきり笑い合うとソファーにふたりでぐったりと座った。

私は馬鹿だと自覚しているが、今回は流石に身に染みたな。

これからどうしようか。

「ところで王子。彼女を一体どうするおつもりで?」

「うむ。私も同じ事を考えていた」

流石ブリッド。鋭いな。

「同じ顔だからと下心で連れて帰ってみたが、自分が変態に思えてきた。罪悪感すら湧いて来たぞ」

「変態だと自覚してくれたのですね。良かったです」

「すまんな」

ブリッドに笑顔で「いつもの事ですから」と追い打ちをかけられる。

ちょっとは『そんなことありませんよ』とか言って欲しい。

「せめてもの償いに、リリーには最低限のマナーだけでも身に付けさせて家に帰してあげよう」

「それが良いです! 一刻も早く帰しましょう」

急にブリッドの表情が明るくなり勢いよく立ち上がる。

「早速マナー教室の手配をしてまいります!」