作品タイトル不明
第96話:パーティーの戦い
『オーク族の狩猟草原』。ショートカット機能を使い、カイトたちが第十四層へと足を踏み入れたのは、翌日の演習のことだった。
十一層から十三層までは、新顔であるオークライダーの直線的な突撃を容易にいなして瞬く間に踏破したが、この十四層からはダンジョン側の殺意がもう一段階、明確に引き上げられていた。
「ブモォォォッ!!」
草原の向こうで待ち構えていたのは、更に増えたオークの群れ。
前衛には全身鎧のオークナイトが並び、その後方からオークライダーが突撃の機会を窺う。上空を警戒するようにオークアーチャーが弓を番えているが――そのさらに奥、新たな影が鎮座していた。
身長一・五メートルほど。オークにしてはかなり小柄で痩せ細った体躯だが、その手には自身の身長ほどもある古めかしい木製の杖が握られている。
「――『オークマジシャン』か。いよいよ本格的な後衛の魔法職が出てきたな」
カイトがそう呟いた直後、オークマジシャンが不気味な詠唱とともに杖を掲げた。瞬時にマジシャンの周囲に燃え盛る火球と、バチバチと不穏な音を立てる雷球が形成され、猛烈な速度でカイトたちへと放たれる。
「グルァッ!」
先陣を切ったのはティロフィだった。【飛翔】によって空中から突撃した彼女は、迫り来る火球と雷球に対し、力任せに爪を振るって迎撃を試みた。
ズドォォンッ! と激しい爆発音が響き渡る。ティロフィの圧倒的なステータスによるゴリ押しで魔法そのものは相殺され、そのままの勢いで前衛のオークたちを蹂躙して戦闘には勝利した。
しかし、戦闘終了後、カイトは眉をひそめてティロフィのもとへと歩み寄った。
ティロフィの黒い鱗は一部が煤け、僅かにパチパチと残留した電気が弾けている。レベル差があるため実質的なダメージはほぼ皆無だが、お世辞にもスマートな勝ち方とは言えなかった。
「……やっぱり、少しゴリ押し感が出ちゃったね、ティロフィ」
カイトが声をかけると、ティロフィは悔しそうに黄金の瞳を曇らせ、喉を鳴らした。
無理もない。ティロフィは爪撃やブレスといった物理・魔法の圧倒的な破壊力、そして【破壊の風】による遠距離の「物理的」な迎撃手段は持っているが、純粋な魔法攻撃を無効化したり、いなしたりする術を特に持っていなかったのだ。
カイトは優しくその鼻筋を撫で、諭すように伝えた。
「悔しがらなくていい。君はアタッカーとして最高峰の力を持っている。だけどね、自分の力だけではどうにもならない苦手な敵がいたら――仲間を頼ってもいいんだよ。僕たちは三人で一つの『パーティー』なんだから」
「グル、ル……?」
ティロフィが不思議そうに首を傾げる。その傍らで、銀騎士のイストが静かに盾を構え、深く頷いていた。
そして、すぐに次の戦闘が訪れる。
再びオークナイト、アーチャー、ライダー、そして後方に二匹のオークマジシャンを配した群れがカイトたちの進路を塞いだ。
「ブモォ!」
オークマジシャンが再び杖を掲げ、今度は鋭い水の槍と、禍々しい光の弾丸を形成し始める。光属性の魔法は攻撃だけでなく回復魔法も内蔵しているため、マジシャンを残しておくと他のオークに手傷を負わせても即座に前線を立て直されてしまう。非常に厄介な相手だ。
魔法が発動されそうになった、その瞬間。
カイトの先ほどの言葉を思い出したかのように、ティロフィは大きな翼を羽ばたかせ、すっと斜め後ろへと身を引いた。彼女が逃げ込んだのは――前衛で剣を構える、イストの背後だった。
「――お任せください、ティロフィ殿」
彼女が白騎士の時代に獲得したスキル。それは、実体を持たない魔法などを斬った時、その魔力を吸収して自身のものとする固有技――【吸魔の剣】。
「シッ!」
イストは眼前に迫る水の槍と光の弾丸に対し、一切の恐れなく白銀の直剣を鋭く振るった。
キィィィン、と澄んだ金属音が戦場に響き渡る。マジシャンが放った強力なはずの属性魔法は、イストの放つ斬撃に触れた瞬間、すべての魔力を剣へと吸い取られ、まるで幻影のようにパッと霧散してしまった。
イストの剣によって、その後方にいるティロフィは完全に無傷のまま守られたのだ。
「――そう、そういうことだよ! ナイス連携だ、ティロフィ!イスト!」
カイトは嬉しそうに声を張り上げ、完璧に仲間を頼ることができたティロフィを褒めちぎる。ティロフィは嬉しそうに喉を鳴らし、翼を大きく広げた。
「よし、イストが魔法を止めてくれると分かれば、もう怖いものはない。ティロフィ、次は魔法なんて一切気にせず、あの後方のマジシャン目掛けて真っ直ぐ突っ込んでごらん!」
「グルァァッ!!」
主の言葉を完全に信頼し、ティロフィは地響きを立てて猛然と突撃を開始した。
当然、後方のオークマジシャンたちは突進してくる漆黒の巨体に向けて、最大火力の火球と雷撃を斉射する。イストのカバーが届かない位置での、剥き出しの魔法攻撃。
だが、カイトは不敵に微笑み、自身の右手を突き出した。
仲間を頼るのがパーティーなら、調教師である主人の力を頼るのもまた、パーティーの特権だ。
「いけ、ティロフィ! ――【属性エンチャント・ガード】!」
カイトが調教師レベル40で習得した、サポートのスキルが発動する。
刹那、突進するティロフィの全身を、七色の淡い魔力の障壁が包み込んだ。「属性ガードⅡ」から進化したこの技は、使役獣の肉体に指定した属性への超高耐性を付与し、受ける魔法ダメージを劇的に軽減する。
ドガガガガンッ!!
オークマジシャンの放った火球と雷撃が、容赦なくティロフィの胸元で炸裂した。
しかし、爆炎と激しい電撃は、ティロフィの鱗に触れた瞬間に何の痛痒も与えることなく、ただの煙となって虚しく霧散した。熱さも、痺れも、痛みすらもない。カイトのバフによって、ティロフィの身体は完璧な対魔法の盾へと変貌していたのだ。
「グルァァァァッ!!」
己に傷一つつけられなかったことに確信を得たティロフィは、そのままマジシャンの陣営へと一足飛びに肉薄。魔力を込めた強烈な【爪撃】を振り下ろし、小柄なマジシャンたちを地面ごとまとめて圧殺した。
同時に、前衛で魔法の盾を失ったオークナイトやライダーたちに対しても、前方からイストが【瞬動】からの【連閃】を叩き込み、一瞬にして群れを崩壊させていく。
後方からの完璧なバフと、前衛の絶対的な防御、そしてそれらに守られた圧倒的な火力の突撃。
前戦でのゴリ押しとは文字通り次元の違う、完璧に洗練された『パーティー』としての戦いが、そこにはあった。
「うん、素晴らしい。これが僕たちの戦い方だ」
カイトは、消滅していくオークたちの光の粒子を見つめながら、満足げに深く頷いた。
ただ個々が強いだけでは、いつか限界が来る。互いの苦手な部分を補い合い、主人のスキルで可能性を何倍にも引き上げる。その調教師としての醍醐味を、二体は今の一戦で完璧に理解してくれたようだった。
「二人とも、最高の動きだったよ。パーティーの戦い方が今一度しっかり共有できたところで――よし、今日は少し足を伸ばして、一気に十七層まで行こう。十六層までは出てくる敵の種類は変わらないはずだから、今の連携なら散歩みたいなものさ」
「グルルゥ!」
「承知いたしました」
信頼で結ばれた三人。その確固たる絆と戦術を胸に、カイトたちは淀みない足取りで、さらなる深層の草原へと進んでいった。
『現在のジョブ:調教師(Lv.60)』
『使役モンスター:イスト(Lv.22・銀騎士)、ティロフィ(Lv.22・黒白竜)』