作品タイトル不明
第95話:慣れた相手
カイトは再び『オーク族の狩猟草原』のゲート前に立っていた。
今日からの攻略は、昨日までとはまた異なる。第十一層へと到達したことで、十層ごとのショートカット機能が正式に解禁されているのだ。
「よし、行こう」
専用の端末に認証を通し、ゲートへと足を踏み入れると、空間がぐにゃりと歪んだ。次の瞬間、視界に広がったのは、見た目は九層までとさほど変わらない昨日到達したばかりの『第十一層』の広大な草原だった。長々と低層を歩く必要がないという恩恵を肌で感じながら、カイトは【眷属の庭園】から二体の使役モンスターを召喚した。
「イスト、ティロフィ。今日からはこのダンジョンの後半戦、十一層からのスタートだ。ここからは出現するモンスターの質もさらに上がるはずだから、気を引き締めていこう」
「はっ!」
「グルァッ!」
二体は頼もしく応じるのを聞き行動を開始する。
十一層の草原を進み始めて数分。前方から、これまでの階層では聞いたことのない、激しい地響きと金属が擦れ合う音を感知した。
草原の向こうから砂煙を上げて迫り来る影。それは、カイトのゲーム知識にもある、この階層からの新顔だった。
「――来たね。『オークライダー』だ」
カイトの鋭い視線の先、現れたのは奇妙な混成モンスターだった。
下半身となるのは、一〜三層で散々見かけた緑色の毛並みを持つ二メートル超の巨大なイノシシ『平原ボア』。そしてその背には、全身を錆びついた鉄の鎧で固め、同じく錆びた鉄の長槍を前方に構えた『オーク』が跨っていた。
「ブモォォォォッ!!」
オークライダーはカイトたちの姿を捉えるや否や、ボアの脇腹を蹴り、猛烈な速度で突撃を開始した。ボアの圧倒的な質量と突進力、そしてその上に乗るオークの槍撃が一体となった、凄まじい威力の騎馬突撃だ。周囲には、彼らをサポートするようにオークナイトやオークアーチャーの姿も散見される。
これまでの知性的な連携を見せる人型モンスターとは一線を画す、暴力的な直線の突進。
しかし、その迫り来る大質量を前にして、カイトは緊張するどころか、どこか拍子抜けしたように小さく息を吐いた。
(やっぱりね……。確かに初見の探索者からすれば、ボアのスピードとオークの槍が合わさった突進は脅威だろう。だけど、ある意味でこのオークライダーに関しては――)
「イスト、ティロフィ。あいつだけど、警戒する必要は全くないよ。あれは人型としての複雑な連携や技を仕掛けてくるタイプじゃない。その巨体でただ真っ直ぐ突進してくるだけだ」
カイトは不敵に笑い、二体に指示を飛ばす。
「対処としては、今までの高度な人型戦術より、むしろ巨体とパワーで押してくる『竜種』に近い挙動だ。それなら――君たちはもう、嫌というほど慣れたものだろう?」
その言葉に、イストは兜の奥の瞳をすっと細め、ティロフィは退屈そうに鼻からふっと息を漏らした。
それもそのはずだ。イストにとってもティロフィにとっても、体格による重量攻撃をしてくる相手とは嫌というほど戦ってきた。
ただ身体が大きいだけのオークが、ただ真っ直ぐ突っ込んでくるだけの攻撃など、今の二体にとってはただの的に等しかった。
「ブモォッ!!」
先頭のオークライダーが、槍の先端を完全にイストへと定め、牙を剥いて突進してくる。風を切り裂き、大力を乗せた必殺の一突き。
「――児戯ですね」
イストは避けることすらしない。
彼女は【主への誓い】によるステータス上昇を全身に漲らせると、正面から突っ込んできたオークライダーに対し、静かに剣を払う。
「【一閃】」
流麗な一撃が、その鎧ごとオークとボアを縦に両断した。
「グルァッ!」
同時に、別の方向から突入してきた二騎のオークライダーに対しては、ティロフィがその圧倒的な質量で蹂躙を開始していた。
ティロフィは【飛翔】によって低空を滑るように滑空すると、突進してくるオークライダーの真上から、魔力を爪に宿した【魔纏・爪】による強烈な一撃を叩きつけた。
ドガァァンッ!!
上空からの圧倒的な叩きつけにより、オークライダーはボアごと地面へと叩き潰される。ティロフィはさらに巨体を反転させ、しっぽに魔力を込めて叩きつける【竜鞭】を一閃。凄まじい風切り音とともに放たれた尾の一撃は、もう一騎のオークライダーを横からフルプレートの鎧ごとへし折り、一瞬で消滅させた。
新モンスターであるはずのオークライダーの突撃は、カイトたちの前には何一つの脅威にもならなかった。
後方から放たれるオークアーチャーの矢は、すでに先日克服した通り、ティロフィの巻き起こす【破壊の風】の衝撃波によって近づくことすら許されずに弾き散らされていく。オークナイトたちの統率された剣戟も、イストの【瞬動】と【連閃】の前に、連携の形を作る前に各個撃破されていった。
「よし、その調子だ。完全にこっちのペースだね」
カイトは後方で戦況を完璧にコントロールしながら、二体の動きを見守る。
新顔の特性を見極め、即座に最適な動きで容易に対処していくイストとティロフィ。十一層のモンスターたちは、カイトたちの圧倒的な実力と経験値の前に、ただの経験値の塊へと成り下がっていた。
その後も、カイトたちは何の問題もなく十一層の草原を歩み進めていった。
これまで積み上げてきたレベル、そして何よりこの数日間で磨き上げた「戦術の引き出し」が、後半戦のスタートをこれ以上ないほどスムーズなものにしていた。
「ふぅ、十二層へのゲートが見えてきたね。今日は新モンスターの顔見せだったけど、危なげなさすぎて訓練というよりは、ただの散歩だったな」
十二層へと続く光のゲートの前で、最後のオークナイトを粒子に変えたカイトは、満足そうに微笑んだ。
「グルルゥ」
「次層以降も、如何なる敵が現れようとも全て斬り伏せてみせます」
「頼りにしてるよ、二人とも。じゃあ、今日はこのまま十三層まで進んでみようか、出てくる敵の種類は増えないはずだから。」
そういいながらゲートへと入っていき、その日は宣言通りに十三層まで進んだ後にカイトたちは帰還していった。
『現在のジョブ:調教師(Lv.60)』
『使役モンスター:イスト(Lv.22・銀騎士)、ティロフィ(Lv.22・黒白竜)』