軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話:チート?と進化

セミの声がアスファルトを叩き、容赦ない陽光が地面を焼く七月の末日。

カイトは今、新大阪駅のホームに降り立っていた。

「……暑い。さすがに大阪の夏は、ダンジョンの溶岩地帯とはまた違った不快感があるな」

手に持った冷えたペットボトルを首筋に当てながら、カイトは独りごちた。

なぜ、東京の高校生であるカイトが、休日の一日を費やして大阪までやってきているのか。その理由は昨日の夜……いや、今週の月曜日まで遡る。

これまでのひと月、カイトは休日のたびに『竜の巣』二十一層に潜り続け、熾烈な狩りを展開してきた。その過程で得られた成果は凄まじいものだった。

月曜日、午後の演習。まず、イストがレベル上限であるLv.50に到達した。

そして水曜日、統合ダンジョンの三十四層での連戦を経て、ティロフィまでもがLv.50に達したのだ。

二体のレベルカンスト。それに呼応するように、カイトの目の前には「進化条件」という新たな項目が表示された。

【イスト:進化条件】

『時速200km以上で移動すること』

【ティロフィ:進化条件】

『三種類の竜の宝玉(炎・海・空)を使用すること』

ティロフィの条件は、すでに『海竜の宝玉』と『空竜の宝玉』を手に入れており、残すは『炎竜の宝玉』のみ。これは地道なドロップ狙いしかない。

だが、問題はイストだ。

「時速200キロ……。ゲーム時代はこれが一番の難関だったんだよな」

かつてカイトがプレイしていたゲームにおいて、この条件をクリアするには専用の装備が必須だった。移動速度を上昇させる特殊な剣、身を軽くする盾、さらに素早さを底上げするアクセサリーをこれでもかと装備し、バフ魔法を重ねがけしてようやく到達できる数値。

しかし、今のカイトにはそれらの装備を揃える方法がない。

何故なら、その装備は統合ダンジョンの五十層を超えた先にしかないからだ。

だから、ゲーム時代も白騎士の進化はいつも後回しになっていた。

そこでカイトは考えた。

この世界はゲームではない。現代社会という「現実」の上にダンジョンが乗っているのだ。ならば、自身の脚で走る必要などどこにあるのか?

「新幹線……。東京から新大阪までの最高時速は、たしか二百八十五キロだったはずだ」

思い立ったカイトはすぐさま週末の新幹線チケットを二席分、予約した。

隣の席に誰もいない状況を作り出し、走行中にイストを召喚する。もし「移動速度」が座標の変化として計算されているのであれば、この方法で条件を満たせるはずだ。

そして昨日。カイトは東京駅を出発し、熱海を過ぎたあたりの直線区間で、誰もいない隣の指定席に向かってイストを密かに召喚した。

周囲に人がいないことを確認し、召喚されたイストを座らせる。車窓の外は、猛スピードで景色が後ろへと流れていく。

――その瞬間だった。

イストの全身が、新幹線の車内灯よりも眩い金色の光に包まれた。

『進化条件:時速200kmを達成。個体進化を開始します』

脳内に響く無機質なアナウンス。

光が収まった後、そこに座っていたのは、これまでの「白騎士」をも凌駕する威風堂々たる騎士の姿だった。

「……成功、しちゃったなぁ」

カイトは思わず漏らした。

確認したステータスには、確かにこう記されている。

『イストが【銀騎士】へと進化しました』

『新スキル【百連斬】【瞬動】を習得しました』

進化したイストは、これまでの白一色の鎧から一変、鏡面のように磨き上げられた美しい白銀の鎧を纏っていた。細部に施された装飾は金色に輝き、優美さと力強さを同時に体現している。

召喚されたばかりのイストは、自分の新しい籠手を見つめ、それからカイトを見て、少しだけ複雑そうな表情を浮かべていた。

「主……。お言葉ですが、これは何と言いますか……。その、なんだか、ずるをしている気分です……」

「いいんだよイスト。これも現代知識を活用した立派な戦術だ。問題なく進化できたんだから良しとしよう、な?」

そう言ってカイトは苦笑いしたが、内心ではそのスペックアップに歓喜していた。

銀騎士へと至ったイストは、新たに二つの強力なスキルを獲得している。

目にも止まらぬ速さで移動する【瞬動】。

そして、百の斬撃を高速で叩き込む大火力スキル【百連斬】。

これまでの堅実な防御に加え、圧倒的な「速度」と「爆発力」を手に入れたのだ。

「……というわけで、せっかく大阪まで来たんだ。楽しまなきゃ損だよな」

現在に思考を戻したカイトは、新大阪駅から道頓堀へと向かった。

イストは目立つためすでに送還している。

進化条件達成のために買った二席分の新幹線代は決して安くはないが、最近のカイトの収入を考えればそこまで痛いものでもない。

道頓堀の賑やかな喧騒の中、カイトは食い倒れの街を堪能した。

まずは定番のたこ焼き。大粒のタコが入った熱々の生地を口に運び、火傷しそうになりながらもハフハフと頬張る。

「うまっ。やっぱり本場は出汁が効いてるな」

さらに、行列のできる店でお好み焼きと焼きそばを注文。目の前の鉄板で焼かれるソースの香ばしい香りが食欲を刺激する。肉まんの有名店にも立ち寄り、ジューシーな餡が詰まった熱い皮を夢中で食べた。

久しぶりの純粋な休日とも言っていいと、カイトは口角を上げた。

夕方になり、カイトは家族へのお土産として、有名な豚まんと、自分用と友人用のキーホルダーをいくつか購入した。

帰りの新幹線の中、カイトは静かにこれからの計画を練る。

イストは進化した。

残るはティロフィの『炎竜の宝玉』だ。

それが手に入れば、パーティはさらなる高みへと昇る。

「三十六層……。待ってろよ」

車窓から見える夕焼けに染まる富士山を眺めながら、カイトは銀騎士となったイストの、そして次なる進化を控えたティロフィの活躍に期待を膨らませた。

東京に戻れば、また過酷なダンジョン攻略の日々が始まる。だが、今のカイトには迷いも不安もなかった。

夜、自宅に到着したカイトは、家族に大阪の土産を渡し、自室のベッドに倒れ込んだ。

明日は日曜日。再び『竜の巣』へ向かう日だ。

銀騎士イストの初陣が、今から楽しみでならなかった。

『現在のジョブ:調教師(Lv.40)』

『使役モンスター:イスト(Lv.1・銀騎士進化済)、ティロフィ(Lv.50・進化待機中)』