軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第106話:本戦第一試合

如月パーティー。全員がレベル五十ほどに達している、今大会でも屈指の強豪だ。

カイトがレベル八十七という圧倒的な高みにいるとはいえ、相手は完全に統率された五人の上級職パーティー。一瞬の油断も許されない。

『では第一試合、スタートです!』

開始の合図と同時に、如月パーティーが電光石火の動きを見せた。彼女たちはカイトの予選での戦いを徹底的に研究し、対策室を設けてシミュレーションを重ねてきていた。

「はなちゃん!」

「僕に任せて。――【オールサーチ】。召喚来る! きーちゃんよろしく」

「は、はい……っ! 【フラッシュ・バンⅡ】!」

カイトがティロフィを召喚しようとした瞬間、ステージ全体に目をつぶった程度では防げないほどの強烈な純白の閃光が炸裂した。輝光術師のきーちゃんの高度な光魔法だ。

狩人のはなちゃんに動きを察知されたカイトは視界を完全に奪われ、動きが一瞬止まる。だが、カイトは慌てることなく命じた。

「――来い、ティロフィ! 【恐圧の咆哮】!」

翡翠の魔力が弾け、体長五メートルを超える黒竜形態のティロフィが咆哮を放とうとする。相手の攻撃力と防御力を下げ、行動を完全に停止させる絶技だ。

「させないよ! たーちゃん!」

「うんっ、任せて! 【岩砦】っ!!」

ティロフィが息を吸い込んだ瞬間、如月パーティーの足元の地面が急速に盛り上がり、高さ五メートルの巨大な岩の砦が出現した。五人は瞬時にその強固な防壁の背後へと身を隠す。

直後、大気を引き裂くような咆哮が響き渡ったが、分厚い岩の砦が物理的な障壁となり、彼女たちへの精神的・肉体的なデバフ効果は最小限に抑え込まれてしまった。

(なるほど……咆哮の射線と音響を、一瞬で隆起させた岩の壁で遮断したのか。)

カイトは視界を取り戻しながら、感心するように目を細めた。しかし、カイトの攻勢は止まらない。

「イスト、来て。ティロフィは上空から狙って」

白銀の鎧を纏った【銀騎士】イストが現れ、神速の【瞬動】によって残像を残しながら岩の砦へと肉薄する。だが、如月パーティーの対策はそれすらも織り込み済みだった。

「みっちゃん、イストが右から回る! はなちゃん、足止め!」

「了解……。来させない――【ワイヤー・バインドⅡ】」

イストの進路上に、目には見えない強力な魔力の糸が張り巡らされる。勘の鋭いイストは瞬時にそれを察知して跳躍したが、その着地狩りを狙うように、迅雷士のみっちゃんの細剣が閃いた。

「【クロックバースト】――【瞬光・八連突き】!」

みっちゃんの身体が魔力の加速バフによって陽炎のように揺らぎ、一呼吸の間に八回もの超高速刺突がイストを襲う。

キィィィンッ! と激しい金属音が連続して響き渡る。イストは【流剣】で鮮やかに受け流そうとするが、加速した上級職の猛攻をすべて捌き切ることは難しく、白銀の鎧にいくつかの鋭い火花が散った。

「さすがに強い。――なら、ティロフィ、【破壊の風】!」

上空からティロフィが巨大な翼を広げ、ステージ全域を押し潰すような不可視の暴風の渦を巻き起こす。予選で七割の選手を吹き飛ばした広範囲殲滅スキルだ。

「アレくるよ! たーちゃん、きーちゃん、全力防御!」

「【浮遊岩の盾】展開! さらに【守護の岩壁】!」

「光あれ……! 【光鎧付与】!」

岩地術師のたーちゃんが操作する複数の浮遊盾と岩石のドームが砦ごと五人を覆い、さらにきーちゃんが、物理・魔法攻撃を三回まで減衰する光の衣を全員に纏わせる。

凄まじい暴風の衝撃が岩のドームを削り、パキパキと音を立てて光の鎧を消費させていくが――如月パーティーの五人は、誰一人として脱落することなく、その猛威を耐えきってみせた。

『防ぎきったぁぁぁ!!! 結城カイト選手の凶悪な広範囲攻撃を、如月パーティーが完璧なコンビネーションで完全にシャットアウトです!』

『素晴らしい。予選で猛威を振るったカイト選手のタイミングを完全に読み切っていますね』

実況席が沸き立つ中、崩れ落ちる岩のドームの中から、リーダーである火炎術師の如月晃ことあっちゃんが前方へと飛び出してきた。その瞳には、爛々と燃えるような闘志が宿っている。

「今度はこちらの番だよ! 【紅蓮の加護】――ッ!」

全身から立ち上る魔力が、パチパチと音を立てて爆発的な熱量へと変換される。魔法攻撃力を大幅に上昇させる自己バフだ。

「いっけえええ! 【プロミネンス・レイド】!!!」

カイトの足元から、超高温の巨大な火柱が三本同時に噴出し、天を突いた。あまりの熱量に、ステージの地面が一瞬でガラス質へと融解していく。

「グルァ!?」

上空のティロフィが驚いたように声を上げる。だが、火柱が晴れた場所には――淡い翡翠色の魔法障壁を身に纏い、無傷で立つカイトの姿があった。

「【属性エンチャント・ガード】【献身の転嫁】。……危なかった、今のは直撃してたら退場してたかもしれないね」

カイトは冷や汗を拭いながらも、不敵に微笑んだ。

属性ガードの上から、使役獣へ自身に対するダメージを移す【献身の転嫁】を使用してやり過ごすカイト。

如月パーティーの学生とは思えない見事な連携と、徹底された対策。今の一撃で試合は決していたかもしれない。まさに、本戦で戦うに値する強敵だった。

「嘘、バフ込みのプロミネンス・レイドを耐えるなんて……化け物じゃん!」

「あっちゃん、驚いてる暇はないよ。私の奥の手、いく。――【雨矢】」

狩人のはなちゃんが上空へ向けて魔力の矢を放つ。数秒後、カイトの頭上から、百もの魔力矢がまさに雨のように降り注ぎ始めた。同時に、迅雷士のみっちゃんだが【旋風影舞】による残像を伴ったステップで、イストの包囲網を突破してカイト本人へと肉薄する。

「これで終わりだ――【紅蓮の穿孔】!」

超高温を宿した細剣の刃が、カイトの胸元へと突き出される。上空からは無数の矢の雨。まさに絶体絶命の挟撃。

しかし、カイトは静かに息を吐き、静かにつぶやいた。

「――甘いよ」

カイトの姿が、一瞬でその場から消失した。【短距離テレポート】。

みっちゃんの必殺の刺突は虚空を貫き、上空から降り注いだ【雨矢】は、主を失った地面を激しく穿つだけに終わった。

「えっ――どこ!?」

「上だよ、みっちゃん!」

あっちゃんが叫んだ時には、すでに手遅れだった。

遥か上空、ティロフィの背の上に着地したカイトは、静かに地上を見下ろしていた。

「対策をしてきてくれたのは嬉しかった。本当に強かったよ。……でも、ボクたちは、それを上回る」

カイトが静かに告げる。

「イスト、【破剣】。ティロフィ、【灰の咆哮】!」

イストが白銀の直剣に魔力を込め、後衛に向けて扇状に斬り裂く広範囲斬撃を放つ。凄まじい衝撃波が、如月パーティーが足場にしていた岩の砦を完全に粉砕し、彼女たちの完璧だった陣形を強制的に引き裂いた。

「きゃああああっ!?」

「陣形が……っ!」

バランスを崩し、防御魔法の展開が遅れたその一瞬。

天から降り注いだのは、すべてを焼き尽くす超高熱の灰のブレスだった。

ドガァァァァァァァンッ!!!!

凄まじい爆炎と灰の煙がステージ全体を覆い尽くす。

如月パーティーの面々は、きーちゃんの回復魔法やたーちゃんの防壁を必死に展開しようとしたが、レベル六十四の竜種が放つ本気のブレスの質量は、あまりにも規格外だった。

最新式結界の安全装置が次々と作動する音が響く。

ダメージが規定値を超えた迅雷士のみっちゃん以外の四人の身体が、眩い光の粒子となって次々とステージ外へと強制排出されていった。

「【瞬動】【一閃】」

残されたみっちゃんもイストの十八番のコンボにより、その身を粒子へと変えていった。

やがて激しい砂煙が晴れた時。

静まり返ったステージの中心には、カイトと、その傍らで静かに佇むイスト、そしてゆっくりと地上へと降り立つティロフィの姿だけが残されていた。

一瞬の静寂。そして――。

『勝負ありぃぃぃ!!! 激闘の本戦第一試合、制したのは大崎市立第一中学校、結城カイト選手だぁぁぁ!!! 如月パーティーの見事な連携を、圧倒的な個の力と戦略でねじ伏せました!!!』

割れんばかりの大歓声が会場を包み込む。

カイトは「ふぅ……」と大きく息を吐き出し、少しだけ煩い鼓動を収めながら、対戦相手のいた場所を見つめた。

「強かったな……。やっぱり、本戦は一筋縄じゃいかないや」

苦戦の余韻を心地よく感じながら、カイトは自らの成長と、次なる戦いへの闘志をさらに燃え上がらせるのだった。

『現在のジョブ:調教師(Lv.87)』

『使役モンスター:イスト(Lv.64・銀騎士)、ティロフィ(Lv.64・黒白竜)』