軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第107話:準決勝

『さぁ、本戦第二試合も見事な立ち回りでストレート勝ちを収めました、大崎市立第一中学校所属、結城カイト選手! 破竹の勢いでトーナメントを駆け上がり、ついに舞台は準決勝へと移ります!』

『実況の寺島です。そして、その結城カイト選手に対するは、同じく大崎市立第一中学校所属であり新職業、複合上級職のみで構成された異色の集団――聖騎士九条院率いるパーティーだぁぁぁッ!!!』

会場を揺るがす地鳴りのような大歓声が、特設ステージへと降り注ぐ。

十月の澄んだ空気の中、ステージの中央で対峙するカイトと九条院パーティーの面々。九月終盤のあの賑やかなお祭りの夜から数日、お互いに本戦の激闘を勝ち抜き、ついに約束された真剣勝負の舞台へと辿り着いたのだ。

「結城くん、あの日の約束通り、こうして本戦の、それも準決勝という最高の舞台であなたと刃を交えられること、心から光栄に思うわ」

九条院沙耶が、愛用の麗しいレイピアの柄に細い指をかけ、凛とした微笑みを浮かべる。彼女の纏う空気は、お祭りの時の穏やかなものとは一変し、冒険者としての確固たるプライドと闘志に満ちていた。

「俺もだよ、九条院さん。みんなが予選を勝ち上がってくれたって聞いた時から、この試合をずっと楽しみにしていたんだ。……手加減は、なしだよ?」

「ええ、当然よ。私たちもこの日のために、死力を尽くしてレベルを上げてきたのだから」

九条院が静かに告げた通り、彼女たちの放つプレッシャーは昔とは比べものにならないほど濃密だった。九条院パーティーの面々は、それぞれの複合上級職のレベルを、数か月という短期間で一気に【三十】ほどにまで叩き上げてきていたのだ。

カイト自身のレベルが八十七という圧倒的な領域にあるとはいえ、洗練された複合上級職のスキルを持つレベル三十の四人パーティーは、先日の如月パーティーを遥かに凌駕する脅威に違いなかった。

『――両チーム、位置に付きました! 複合上級職同士の最高峰の激突、アマチュア大会準決勝……試合開始!!!』

ドンッ! と開始の爆鳴が響き渡った瞬間、カイトの周囲に翡翠の魔力が集まる。

「――おいで、イスト、ティロフィ!」

白銀の鎧を纏った【銀騎士】イストが剣を引き抜き、上空には漆黒の翼を広げた【黒竜】形態のティロフィが咆哮を上げる。初手からの二体同時召喚。カイトもまた、最初から全力全開の布陣だった。

だが、九条院パーティーの動きは、カイトの初動に完全に呼応していた。

「清水くん、前へ!」

「は、はい……っ!【不動の陣】ッ!」

弱気な面持ちながらも、その瞳に強い芯の輝きを宿した清水虎太郎が前方に躍り出る。大盾士から派生した複合上級職【護騎士】の初期スキルだ。清水の足元が強固な魔力によって地面に固定され、ノックバックを一切無効化する絶対的な防壁が形成される。

「ティロフィ、【恐圧の咆哮】【破壊の風】!」

「グルォォォォォ!!」

カイトの指示で、ティロフィが咆哮を上げた後巨翼を羽ばたかせ、ステージ全域を破壊する不可視の暴風の渦を巻き起こした。予選を一撃で終わらせたあの凶悪な風の嵐が、清水たちへと襲いかかる。

「そんな大雑把な攻撃、賢者の前で通ると思わないでよね! 【セイクリッド・フォースウォール】!」

勝気な魔導の天才、松田明美が杖を掲げ、鋭く叫ぶ。大魔法使いと大癒術師の力が融合した【賢者】のスキルが発動し、純粋な魔力と聖なる光で編み込まれた巨大な防壁が味方全体を包み込んだ。

凄まじい風刃の衝撃が防壁に衝突し、激しい火花を散らすが、松田の展開した防壁は物理・魔法両方のダメージを極限まで軽減し、さらに防壁内の味方の体力を少しずつ自動で補填していく。

「くっ、防壁の上からでもなんて威力……! でも、これならどう! 【エレメンタル・ハイバースト】!」

松田が杖を振り抜くと、火・氷・雷・風の四つの強力な魔弾が同時に形成され、上空のティロフィへと向かって超高速で撃ち出された。

「ティロフィ、迎撃して!」

ティロフィが【灰の咆哮】を放ち、超高熱の熱波で迫り来る魔弾を相殺しようとする。そして、その爆炎の隙間を縫うようにして、地上では銀騎士イストが【瞬動】によって清水の守備網を突破し、後衛の松田へと肉薄していた。

「させないわよ、イストさん。――【鉄壁の聖光閃】!」

キィィィンッ!!!

鋭い金属音がステージに響き渡る。イストの放った神速の一撃を、横から割り込んだ九条院のレイピアが完璧なタイミングで受け止めていた。【聖騎士】となった彼女の放つ剣閃には強固な防御判定が伴っており、イストの鋭い斬撃を完全に弾き返してみせたのだ。

「流石ですね」

イストが兜の奥を揺らめかせ、即座に距離を取る。

「ふふ、驚くのはまだ早いわよ。――【聖炎の剣】!」

九条院のレイピアに、一切の不浄を焼き尽くす神聖な炎が激しく燃え盛る。彼女のすべての攻撃に火と光の属性が付与され、その身に纏うオーラが一段と跳ね上がった。

『拮抗している! なんというハイレベルな攻防だ! 結城カイト選手の猛攻を、九条院パーティーがそれぞれのスキルを完全に噛み合わせて防ぎ、そして押し返しています!』

『素晴らしいですね。護騎士の清水くんがヘイトと位置を固定し、賢者の松田さんが防衛と砲撃、そして聖騎士の九条院さんが前線を維持している。これが複合上級職ですか。……おや、しかしもう一人は?』

実況席の言葉通り、カイトの視線は、九条院たちの後方で優雅に佇むもう一人の少女へと注がれていた。

ミステリアスな笑みを浮かべ、余裕たっぷりに鞭を弄んでいる大久保蛍だ。

「ふふん、皆さんお熱いですねぇ。でも、私とスーちゃんを忘れてもらっては困りますよ?」

大久保がパチンと鞭を鳴らすと、彼女の足元の影から、信じられないほどの質量を持った怪物がニュルリと姿を現した。

体長三メートルを超える、文字通り巨大な緑色のゼリーのような――ビッグスライムの『スー』だ。【調教師】としての使役モンスターである。

「スーちゃん、皆さんを困らせてあげなさい。――【挑発の咆哮】!」

「きゅぅぅぅぅぅ!」

見た目に反して、スーの巨体から戦場全体を震わせる凄まじい精神的な波動が放たれた。ヘイト制御スキルが使役獣を通して強化されたものであり、地上のイスト、そして上空のティロフィの意識が、強制的にその巨大なスライムへと固定される。

「しまっ――」

「今! 【風聖破撃】!」

カイトが指示を修正しようとした一瞬の隙を突き、九条院が猛烈な風を生み出してイストを吹き飛ばし、間髪入れずにレイピアから強力な光の風刃を放った。それはイストの白銀の鎧に直撃し、その物理・魔法防御力を激減させるデバフが牙を剥く。

「今よ、明美ちゃん!」

「はい! いっけえええ! 【ピュリファイ・レイン】!」

松田が杖を天に掲げると、ステージの頭上からまばゆい光の雨が降り注いだ。属性を選択できるそれは、イストの頭上へと降り注ぐ破壊の光弾へと変貌していた。

「イスト!」

カイトが叫ぶ。防御力を下げられた状態での集中攻撃。結界の安全装置が作動しかねない危機的状況だった。

「主、問題ありません。――【流剣】、そして【連閃】!」

だが、イストの戦闘技術もまた異次元だった。降り注ぐ光の雨を、自らの剣を極限まで高速で振り回すことで物理的に叩き落とし、防ぎきってみせたのだ。

「嘘、アレを強引に凌ぎきるなんて……!」

松田が驚愕の声を上げる。

「流石……。俺も、これ以上は出し惜しみできないね」

カイトは深く息を吐き、自らの魔力を練り上げた。

終始拮抗した戦い。一進一退の攻防が続く中、両者の魔力は着実に削られていた。九条院たちのパーティーの完成度は、カイトにとっても過去最高に歯応えのある、そして少しでも気を抜けば足元を掬われる強敵だった。

だからこそ、カイトは自らの最大のスペックを解放する。

「【慈愛の聖域】。イスト、俺のテレポートと同時に、九条院さんの懐へ飛び込んで!ティロフィはその場で滞空して。」

「御意に!!」

「グルァ!」

聖域がティロフィを包むように展開され、全ステータスが上昇する。

カイトの全身から魔力が爆発的に吹き上がる。

「――フッ!!」

短距離テレポートの光がカイトを包み込み、一瞬でその場から消失した。

「清水くん、後ろ!!」

「【身代わりの盾】――あ、あれ!?」

清水が咄嗟に九条院と魔力の鎖を繋ぎ、あらゆるダメージを肩代わりしようとしたが、次の瞬間、カイトたちが現れたのは清水の真後ろではなく、さらにその斜め上空、スーの巨体の上だった。

「大久保さん、足元だよ」

「えっ? あら、まぁ、いつの間に――ひゃああああっ!?」

余裕の笑みを浮かべていた大久保だったが、まさか自分の生命線であるスーの真上に直接テレポートしてくるとは思わなかったらしく、完全に素の悲鳴を上げて慌てふためく。

「【ホーリー・バレットⅡ】」

高いノックバック性能を有する光の弾丸をビッグスライムのスーと大久保に当て、九条院の方へ飛ばしたカイト。

「イスト、【破剣】! ティロフィ、【灰の咆哮】を全体へ最大出力で!!」

続けてカイトの正確な指揮が飛ぶ。

イストが放った広範囲斬撃が、まずは九条院と大久保とスーを巻き込んで炸裂し、その巨体と大久保を一刀両断する。さらに、上空のティロフィから放たれた、すべてを焼き尽くす超高熱の灰のブレスが、イストの攻撃を耐えきった九条院と清水、松田の三人へと容赦なく降り注いだ。

「明美ちゃん、防御を!!」

「もう魔力が足りないです!!すみません!!!」

「ボクが……ボクの身体が朽ち果てても、九条院さんだけは――!」

清水が絶叫しながら大盾を掲げ、不屈のオーラを全開にして九条院の前に立ちはだかる。だが、レベル八十七の調教師のバフを受けた、圧倒的な質量のブレスの前には、その強固な防壁も長くは持たなかった。

魔力の障壁が、ガラスのように粉砕される心地よい音が響く。

直後、凄まじい爆炎と灰の熱波がステージ全体を覆い尽くし、最新式結界の安全装置が次々と作動した。

ダメージが規定値を超えた清水、松田、大久保、そして最期まで剣を構え続けた九条院の身体が、眩い光の粒子となって次々とステージ外へと強制排出されていく。

やがて、激しい砂煙がゆっくりと晴れていった。

広大なステージの上に、ぽつんと立っていたのは――。

息を荒くしながらも、二本の足でしっかりと立つ結城カイトと、その傍らで剣を引くイスト、そして静かに滞空するティロフィの姿だけだった。

一瞬の静寂。そして、次の瞬間――会場全体から、ひときわ割れんばかりの、地鳴りのような大歓声が爆発した。

『勝負ありぃぃぃぃぃ!!! 激闘、まさに死闘となった準決勝! 激しい拮抗を制し、本戦決勝へと駒を進めたのは、大崎市立第一中学校、結城カイト選手だぁぁぁッ!!!』

『素晴らしい、本当に素晴らしい試合でした。九条院パーティーの複合上級職レベル三十という驚異的な完成度、そしてそれを力強くねじ伏せた結城カイト選手の規格外のスペック。両者に心からの拍手を送りたいですね……!』

実況解説の声が響き渡る中、カイトはステージの出口へと歩き出した。

出口の通路では、すでに強制排出されてすべて元通りになった九条院たちが、悔しそうな、しかしどこか晴れやかな笑顔でカイトを待っていた。

「……負けてしまったわね。本当に強かったわ、結城くん。私たちではまだ、あなたには及ばないみたいね」

九条院が少し苦笑いしながらも、そっと右手を差し出してくる。

「ありがとう、九条院さん。本当に、一瞬でも判断を誤ったら俺が負けてたと思う。みんな凄く力強くて、圧倒されたよ」

「次は負けないわ、次こそ紗夜様に勝利を捧げるんですから!」

松田が悔しそうに顔を上気させながらも、カイトの実力を認めるようにふいっと目を逸らす。

「ボ、ボクも……次はもっと硬い盾になって、みんなを守りきってみせます……っ」

清水が気弱ながらも、力強く拳を握りしめて誓った。

「ふふ、さすが結城くんですねぇ。私のスーちゃんをあんな風に扱うなんて、お目が高いです。……まぁ、ちょっとびっくりして足がすくんじゃったのは秘密ですからね?」

大久保が頬を少し染めながらそう話をする姿に、一同からどっと温かい笑い声が上がった。

「みんな、本当に良い試合をありがとう。みんなの分まで、決勝戦も絶対に勝ってくるよ」

カイトが九条院の手をしっかりと握り返し、健闘を称え合う。

お互いの絆をさらに深めたカイトは、次なる舞台――この大会の頂点を決める決勝戦へと、力強い足取りで進むのだった。

『現在のジョブ:調教師(Lv.87)』

『使役モンスター:イスト(Lv.64・銀騎士)、ティロフィ(Lv.64・黒白竜)』