軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第105話:大会前の祭り

圧倒的な力で他を蹂躙し、全滅という前代未聞の形で予選第七試合を突破したカイト。その後、別日の予選に参加していた佐藤パーティー、そして九条院パーティーも、それぞれ危なげない立ち回りで問題なく予選を突破したという報せが届いた。

それを聞いたカイトは、自分のことのように胸を撫で下ろし、心から彼らの本戦進出を喜んだ。

これで、七月のあの会議室で約束した「本戦の舞台で戦う」という誓いは、現実のものとして手の届く場所にまでやってきたのだ。

そして迎えた、十月の本戦開幕、その前々日。

カイトたちの姿は、大会会場の周辺に広がる、熱気に包まれた広場にあった。

「うわぁ……すごい活気。予選の時とは比べものにならないね」

カイトが感嘆の声を漏らすのも無理はなかった。

アマチュア学生大会の本戦前々日から、会場付近の特設エリアでは大規模な『お祭り』が開催されるのが恒例となっている。地上波での生中継を控えていることもあり、全国から集まった観客や観光客、そして出番を控えた学生冒険者たちで、広場は足の踏み場もないほどの賑わいを見せていた。

並んでいる屋台も、普通の祭りとは一風変わった冒険者仕様のものばかりだ。

定番の焼きそばや綿飴の屋台に混じって、ダンジョンで獲れる『ワイルド・ボア』の肉を使った串焼きや、『ジェラシー・バード』の肉を使用した香ばしい焼き鳥屋。さらには、木製の専用銃に自身の魔力を込めて弾丸を形成し、動く標的の点数を競う『魔道射的』。さらには、柔らかいクッション素材で作られた疑似的なゴブリンの人形を相手に、制限時間内にどれだけ正確に攻撃を当てられるかを競う『ゴブリン・チャンバラ』など、冒険者の心をくすぐる出し物が目白押しだった。

「当たり前だろ! 本戦前の景気づけにゃ最高のお祭りじゃねえか。よし、今日はお前ら全員、俺についてきな!」

佐藤勇馬が、ガッシリとした体躯で先頭を歩き、ぐっと拳を握る。

「ちょっと、勇馬。あんたはしゃぎすぎて他の人にぶつからないでよね?」

田中美紀が呆れたようにため息をつくが、その手にはすでにモンスター肉の串焼きが握られており、お祭りをしっかり楽しんでいるのが見て取れる。

「まあまあ、美紀ちゃん。みんなでこうして歩けるの、本当に楽しいんだからいいじゃない」

鈴木しおりが、ふわりとした優しい笑顔で二人をなだめる。その隣には、九条院、清水、松田、大久保の九条院パーティーの面々も並んで歩いていた。

学校では異なるパーティーの彼らだが、カイトという共通の縁、そして同じ「複合上級職の開拓者」という奇妙な連帯感も手伝って、一同の雰囲気は非常に和気藹々としていた。

「カイトくん、あっちに美味しそうなたこ焼き屋さんがあるよ!」

鈴木が指をさした先には、大粒のタコが自慢らしい、ソースの芳醇な香りを漂わせるたこ焼きの屋台があった。鉄板の上でくるくると回るたこ焼きを、カイトがじっと見つめていると、不意に袖をきゅっと引かれる感覚があった。

振り向くと、そこには少し頬を染めた鈴木しおりが、おずおずとした様子で立っていた。

「あのね、カイトくん。もしよかったらなんだけど……たこ焼き、一つ買って、二人で一緒に分けて食べない……?」

「えっ? あ、うん。いいよ。一人で一舟だと、他の屋台のものが食べられなくなっちゃいそうだし、ちょうどよかった」

カイトが素直に頷くと、しおりは「よかったぁ」と嬉しそうに胸を撫で下ろした。その様子を後ろから見ていた田中美紀が「あらあら」とニヤニヤとした視線を送っているが、しおりはそれに気づかないフリをして、嬉しそうにカイトの隣に並んで歩き出す。

「結城くん、ちょっといいかしら?」

今度は、反対側から九条院が声をかけてきた。彼女の手には、お面が売られている屋台から買ってきたらしい、一つの竜のようなお面が握られていた。しかし、そのデザインはどこか独特で、漆黒のベースになぜか柔らかな目つきをしていた。

「お面……?」

「ええ。そこの屋台を見ていたら、なんだかあなたの使役しているティロフィくんに少し似ているお面があったの。ほら、この色の組み合わせとか、雰囲気がそっくりでしょう? 予選の突破祝い、というわけではないけれど……これ、プレゼント。良かったら受け取って頂戴」

「わぁ、本当だ。ティロフィの黒竜形態にそっくり。ありがとう、九条院さん。大切にするね」

カイトが笑顔でお面を受け取ると、九条院は満足そうに微笑んだ。そのお面をカイトが頭の横にちょこんと引っ掛けると、まるで本当の調教師の装飾品のようによく似合っていた。

「おいおいおい! 清水! そこを動くなよ! 今度こそ俺が仕留めてやるからな!」

「あはは、佐藤くん、そんなに大雑把に網を動かしたら、すぐ破れちゃうよ!」

少し離れたところから、騒がしい声が聞こえてきた。カイトたちが視線を向けると、そこは『デカ金魚すい』の屋台だった。

普通の金魚すいとは違い、水槽の中で泳いでいるのは、体長二十センチ近くはある、魔力を浴びて少し巨大化した特殊な淡水魚だ。それを、強化された特殊な「ポイ」ですくい上げるという、筋力と器用さの双方が求められる冒険者仕様の出し物である。

佐藤が凄まじい形相でポイを水に沈めるが、重さに耐えかねて、あるいは魚の暴れる力によって、一瞬で紙がベロリと破れてしまう。

「あーっ! また破れた! クソ、この小さな網じゃ無理だろこれぇ!!」

「力任せじゃダメなんだって。ほら、見ててよ」

清水が器用に手首を返し、魚の動きを誘導するようにして、するりと一匹の巨魚をすくい上げた。

「なんだと!? 清水、お前いつの間にそんなスキル身につけたんだよ!」

「スキルじゃないよ、ただのコツだってば!」

二人の微笑ましい勝負に、思わず笑顔が漏れる。

「……ん? 大久保さん、あそこで何してるんだろ」

カイトがふと視線を横にずらすと、そこには怪しげな紫色のカーテンで覆われた『占いの屋台』があった。そのカーテンの隙間から、九条院パーティーの不思議さん、大久保が真剣な顔をして占い師と向き合っているのが見えた。

「あなたの未来に見えるのは……そう、巨大な『壁』です。それを超えるには、肉体ではなく、内なる魔力の調和が必要となるでしょう」

怪しげな水晶を撫でながら告げる占い師の言葉に、大久保はフムと深く腕を組み、大真面目な顔で頷いた。

「内なる魔力の調和……。なるほど、つまり明日からの食事は、魔力回復効果のあるマナ・ポーションを米の代わりに炊き込んだ『マナ飯』にしろということですね。私にとって、それは未知ですがいいでしょう、受けて立ちます」

「いや、そんな頓珍漢なこと一言も言ってないんだが……?」

占い師が思わず素の口調で突っ込んでいる姿が見え、カイトとしおりは思わず顔を見合わせて吹き出してしまった。大久保のどこかズレた感性は、お祭りの場でも健在のようだった。

「ちょっと、田中! 次あっちの金色のマト狙って!」

「分かってるわよ、松田! 私の魔力を舐めないでよね! ――ふんっ!」

次にカイトたちが足を向けたのは、ひときわ大きな歓声が上がっていた『魔道射的』の屋台だった。

そこでは、田中美紀と、九条院パーティーの松田の二人が、並んで魔道銃を構えていた。二人は元々魔法使い系の職をベースにしていたこともあり、魔力のコントロールはお手の物だ。

パンッ! パンッ! パンッ! と、小気味良い音を立てて魔力の弾丸が放たれるたび、奥で動いていた高得点の標的が、百発百中の精度で次々と撃ち落とされていく。

「おいおい、お嬢ちゃんたち、勘弁してくれよ! それ以上やられたら、うちの景品が全部なくなっちまう!」

屋台の店主が頭を抱えて泣きついているが、二人の勢いは止まらない。田中と松田の足元には、すでに高級な魔石や、実用的な魔道具の入った小箱など、豪華な景品が文字通り乱獲されて積み上がっていた。

「あはは、田中さんも松田さんも、手加減なしだね」

カイトが苦笑しながら声をかけると、田中は銃口から立ち上る微かな魔力の煙をふっと吹き消し、勝ち誇ったように胸を張った。

「当然よ。本戦前に、魔力の精密操作のいいウォーミングアップになったわ。ほら、カイト、これあげる」

田中が乱獲した景品の中から、お菓子の詰め合わせセットをプレゼントする。

「え、いいの?」

「いいのよ。ティロフィちゃんやイストさんに分けてあげて」

田中の言葉に、松田も同意するように深く頷く。

「ありがとう、二人とも。美味しく頂くよ」

お菓子を受け取り、お面を触りながら、改めて周囲の仲間たちの顔を見た。

巨魚すいで大騒ぎしている佐藤と清水。占い師を困惑させている大久保。景品を抱えて満足そうな田中と松田。そして、隣で嬉しそうにたこ焼きをフーフーと冷ましているしおりと、それを見守る九条院。

誰もが、明後日から始まる本戦の厳しさや、緊張感を忘れているわけではない。むしろ、その緊張感があるからこそ、今この瞬間を全力で楽しんでいるのだ。

「――よし、それじゃあ次は、あの『ゴブリン・チャンバラ』で誰が一番高い点数を出せるか、みんなで勝負してみない?」

カイトが提案すると、佐藤が「おう、望むところだ!」と真っ先に名乗りを上げ、他の面々も「負けないわよ」「ここでまずは一勝ね」と目を輝かせた。

賑やかな笑い声が、十月の夜空へと溶けていく。

嵐のような本戦の幕が上がる前の、ほんのひとときの休息。カイトたちは、お互いの絆と、これから始まる戦いへの闘志を静かに共有しながら、お祭りの夜をどこまでも楽しむのだった。