軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話:予選開始

『さぁ、大会もいよいよ三日目を迎えました! 本日は予選第七試合! ここを勝ち抜き、本戦への切符を手にするのは一体どのチームになるのか! 実況は私、寺島がお送りいたします!』

『解説の洗井です。いやぁ、今日の第七試合は見ものですよ。なんと言っても、例の“新職業”の子がエントリーしていますからね』

『そうなんです! 今大会注目の一人! 大崎市立第一中学校所属、結城カイト選手! なんと一人での参戦です!』

九月終盤のどこか肌寒い風を吹き飛ばすかのように、会場は熱狂に包まれていた。

直径二百メートルの円形ステージ。その上には、人工的に配置された巨大な岩石や朽ちた神殿の柱といった『障害物』がいくつも点在している。身を隠すには十分な遮蔽物だが、それ以上にこの広さに総勢十一チーム、およそ五十人近い学生冒険者が同時にひしめき合っているという事実が、戦場の緊張感を極限まで高めていた。

当然、周囲のチームの視線は、ポツンと一人だけで指定の位置に立つカイトへと集中していた。

「おい、あれがテレビの結城カイトか?」

「一人で出るとか舐めてんな。どんなに強くても、数の暴力で囲めば一瞬でハメ殺せるだろ」

「開始直後に、まずあのソロを潰そう。特殊結界があるんだ、遠慮はいらねえ!」

遮蔽物の影から、あるいは隣の配置ポイントから、カイトへと向けられるギラギラとした敵意と値踏みするような視線。彼らにとって、一人でステージに立っているカイトは「真っ先に排除すべき絶好のカモ」であり、同時に「最も目立てる獲物」に他ならなかった。

しかし、そんな周囲の殺気混じりの雑音を鼓膜の端で受け流しながら、カイトは静かに愛用の魔剣の柄に手をかけ、目を閉じていた。

(十一チーム、か。普通に乱戦をやったら面倒だな……。なら、初手から全力で一掃させてもらおう)

最新式の特殊結界により、致命傷を受けても強制排出されるだけで、現実の肉体には一切のダメージが残らない。ルールを確認した時から、カイトの戦術は一つに決まっていた。

相手を殺す心配がないのなら、一切の手加減は不要。

『――全チーム、指定位置への配置を確認! それでは、予選第七試合……スタートですッ!!!』

ドンッ! と開始の爆音が鳴り響いた瞬間、周囲の複数のパーティーが一斉にカイトを目がけてスキルを構える。前衛の戦士たちが武器を掲げ、後衛の魔術師たちが一斉にカイトへと照準を合わせる。

だが、それよりも遥かに速く、カイトの口が動いた。

「――来い、ティロフィ」

カイトの傍に翡翠の魔力が集まり、そこから質量を影が登場する。

次の瞬間、ステージの中央に突如として現れたのは、体長五メートルを超える巨体を持った漆黒の竜――【黒竜】形態のティロフィだった。獰猛な牙、すべてを切り裂く爪、そして圧倒的な捕食者のオーラを放つその姿に、突進してきていた学生たちの動きが一瞬凍りつく。

「これは……っ!?」

「ティロフィ、【恐圧の咆哮】!」

カイトが指示を出す。

直後、ティロフィが空に向かって飛び上がり、その巨大な顎を天へと向け、大気を激しく震わせる咆哮を放った。

「グルァァァァァァァァァッッッ!!!!」

それは、単なる大きな声ではない。攻撃力や防御力を下げ、初見で目の前で竜種が咆哮をしたという事実だけで一瞬行動が止まるのも仕方がないだろう。

『な、なんというプレッシャーだ! 実況席越しでも鳥肌が止まりません! これが調教師、結城カイト選手の従えるモンスター!』

『信じられない、あれは本当に中学生が使役していいのか……!?』

実況席の悲鳴のような声を背に、カイトは自身のスキルを発動した。

「――フッ!」

短距離テレポートの光がカイトの身体を包み、一瞬で地上から消失する。

次の瞬間、カイトは遥か上空、大きく翼を広げて滞空しているティロフィの背中の上へと着地していた。上空から見下ろせば、地上で完全にパニックに陥っている学生たちの姿が克明に見える。

「よし、そのまま一気にいくよ。ティロフィ、会場全体へ――【破壊の風】」

主人の命令に応じ、ティロフィの翼が大きく羽ばたいた。

その瞬間、ステージ全域に、すべてを破壊する不可視の衝撃を無数に孕んだ、凶悪な暴風の渦が巻き起こった。

「ぎゃあああああっ!?」

「なんだこれ、防げな――」

逃げ場のない広範囲殲滅スキル。凄まじい風がステージ上を縦横無尽に荒れ狂い、恐怖で動けなくなっていた学生たちを破壊していく。最新式結界の安全装置が瞬時に作動し、ダメージが規定値を超えた生徒たちが、散るように次々と光の粒子となってステージ外へと強制排出されていった。

わずか一撃。

たった一呼吸の間に、五十人近くいた参加者の七割が、戦うことすら許されずに文字通り戦場から消し飛ばされたのだ。

嵐が止み、静まり返ったステージ。

かろうじて生き残ったのは、カイトの初動を見て咄嗟に巨大な岩石や柱の『障害物』の影へと全力で滑り込み、風をやり過ごしたいくつかのチーム。そして、優秀なタンクが盾のスキルを全開にして、文字通り命がけで味方を守り切ったごく一部の強豪パーティーだけだった。

「はぁ、はぁ……クソ、化け物かよあいつ……!」

「おい、まだ生き残ってるチームはどれだけいる!?」

障害物の影で怯える生存者たちを、カイトは竜の背の上から冷静に見下ろしていた。

「思ったより残ったね。さすがにみんな鍛えてる。……じゃあ、一気に終わらせようか。おいで、イスト」

カイトがパチンと指を鳴らす。

ティロフィの背の上に、もう一筋のまばゆい光が収束した。現れたのは、白銀の鎧を纏い、兜の奥から鋭い闘志の炎を覗かせる美しき純白の騎士――【銀騎士】イストだ。

「はっ。我が主、御命を」

凛とした声で頭を垂れるイストに、カイトは指示を出す。

「イストは地上へ降りて、障害物の影に隠れているチームを順番に落としていって。ティロフィは、あの盾で耐えきったタンクのいるチームに向けて、上空から【灰の咆哮】。防壁ごと焼き尽くして」

「御意に」

「グルァッ!」

イストがティロフィの背から音もなく飛び降りる。自由落下の中、その手にある白銀の直剣が圧倒的な魔力を帯びて輝き出した。

地上に着地した瞬間、イストの姿が【瞬動】によって残像へと変わる。

「な、後ろから――ッ!?」

岩の影に隠れていたパーティーが気づいた時には、すでに遅かった。

イストの放つ神速の【一閃】、そして扇状に斬り裂く広範囲斬撃【破剣】が容赦なく炸裂する。障害物ごと一刀両断された学生たちは、何が起きたのかすら理解できぬまま、光の粒子となって次々と退場していく。

同時に、上空からはティロフィの【灰の咆哮】が放たれていた。

超高熱のすべてを焼き尽くす灰のブレスが、地上のタンクに守られたチームへと文字通り降り注ぐ。大盾を構えて必死に防御障壁を展開していた鋼硬士の少年だったが、上空から降り注ぐ大質量の熱波を前に、その障壁は少し耐えた後ガラスのように粉砕された。

「うわあああああッ!!」

絶叫と共に、そのチームも一瞬で光へと還元され、ステージから消滅する。

「化け物……どうすりゃいいんだ、あんなの……!」

「全員、残ってる奴らは全員まとまれ! あのソロを落とさないと、俺たち全員なぶり殺しだ!」

絶望的な状況の中、生き残っていた最後の数チーム、十数人の学生たちが、生き残るために学校の垣根を越えて結託した。彼らは一斉に遮蔽物から飛び出し、上空のカイト、そして地上を蹂躙するイストへと決死の突撃を仕掛ける。

それは、文字通り全力の抵抗だった。

魔術師たちが残った魔力をすべて絞り出し、カイトめがけて炎や雷の魔法を放つ。戦士たちがイストを包囲し、数の暴力で押し潰そうとする。

しかし――そのすべてが、あまりにも無力だった。

「【連閃】」

イストの冷徹な呟きと共に、限界まで研ぎ澄まされた 高速の連続斬撃が包囲網を瞬時に切り刻む。向かってくる武器を【流剣】で鮮やかに受け流し、体勢を崩したところを一突き。イスト一人を相手に、数人がかりの突撃は完全に子供あつかいだった。

「【属性エンチャント・ガード】」

そして、上空のカイトへ向けて放たれた魔法の嵐は、カイトの支援に包まれたティロフィがその巨大な翼でカイトを包み込むようにして遮るだけで、その強靭な鱗に傷一つ付けることすらできずに弾け飛んだ。

「終わりだね」

カイトが静かに告げながら、【短距離テレポート】で地上へと降りる。

ティロフィが地上へと急降下し、その巨大な爪【魔纏・爪】が一振りのうちに、残っていた最後のチームの戦線を完全に崩壊させた。

最後の爆鳴が響き渡り、激しい砂煙が巻き上がる。

それが晴れた時、直径二百メートルの広大な円形ステージの上に立っていたのは――。

結城カイトと、その傍らで剣を収める銀騎士イスト、翼を広げ滞空するティロフィ、ただ一人と二体だけだった。

戦場に、完全な静寂が訪れる。

数秒の間、何が起きたのかを理解できず、観客席も、そして実況席すらも完全に静まり返っていた。しかし、次の瞬間、事態を把握した会場から、割れんばかりの、地鳴りのような大歓声が爆発した。

『ぜ……全滅だああああああああッッ!!! なんということでしょう! 総勢十一チーム、五十人近くいた選手たちが、結城カイト選手、たった一人の手によって、文字通り“蹂躙”されました!!!』

『言葉が出ないとはこのことですね……。これが……これが新職業『調教師』、そして結城カイトの実力ですか……!』

興奮で声を荒げる寺島と、戦慄を隠せない洗井の声が響き渡る中、カイトは静かにイストとティロフィを帰還させた。

「ふぅ……。少し怖かったけど、順調に行けたな」

苦笑いしながら、カイトはステージの出口へと歩き出す。

『現在のジョブ:調教師(Lv.87)』

『使役モンスター:イスト(Lv.64・銀騎士)、ティロフィ(Lv.64・黒白竜)』