作品タイトル不明
第103話:大会ルール
出場を快諾してから数日後の夜。
結城カイトは自宅の自室に引きこもり、学習机の前に座って、教官から渡されたアマチュア学生大会の分厚い規約書類と、タブレット端末に表示された公式サイトの情報を突き合わせていた。
「よし、そろそろルールの詳細を頭に叩き込んでおかないとな……」
カイトは小さく呟き、画面をスクロールさせた。
いくらイストやティロフィという強力な使役モンスターがいるとはいえ、公式の大会である以上、そこには厳格な縛りが存在する。ルールを誤認して失格になるような事態だけは、何としても避けなければならない。
カイトはペンを手に取り、重要と思われる項目をノートに書き写しながら、大会の全体像を整理していった。
■ アマチュア学生大会:基本レギュレーション
【参加資格と選出枠】
参加資格を有している各中学校から、学校の推薦によって最大3チームまで出場可能。
カイトの通う学校からは、カイトのソロ、佐藤たちのパーティー、そして九条院たちのパーティーの3枠が綺麗に推薦枠を埋めた形になる。
【パーティー編成制限】
1パーティーにつき最大5人まで。
職業や装備品に関する制限は一切なし。
「1パーティー5人まで、か……。俺の場合は一人だけど、使役モンスターの召喚数がどうカウントされるかが懸念だったけど、今年から『調教師のスキルによる召喚は人数に含まない』って新しくルールが追加されているからとくに問題ないな」
カイトは胸を撫で下ろした。もしモンスターの出場が禁止となれば、それこそソロで戦うしかなくなってしまうところだった。ギルド側が「複合上級職のアピール」を望んでいるからこそ、このあたりの調整はカイトに有利に働いている。
続いて、予選の形式に目を移す。
【予選:バトルロワイヤル形式】
大会の最初の関門。広大な特設ステージに多数のチームが同時に立ち、最後の一組になるまで戦い続ける生き残り戦。
会場の広さは直径二百メートルの円形ステージ。遮蔽物や地形は大会ごとに調整される。
全十六回行われるバトルロワイヤルを勝ち抜き生き残った一パーティーが本戦に出場、最終的に全十六チームが本戦へと駒を進める。
【本戦:トーナメント方式】
予選を勝ち上がった十六チームによる、伝統的な一対一(1パーティー対1パーティー)の対戦形式。
優勝までに必要な試合数は最大四回。
「直径二百メートルの円形か……。それだけの広さがあれば、開始直後に乱戦になるのは避けられないな」
カイトは予選の光景を想像して身震いした。多数のパーティーが一堂に会するバトルロワイヤルでは、当然ながら「有名で強いチーム」や「単独でいる者」が標的になりやすい。一人で参戦するカイトは、開始と同時に十数人から一斉に狙われる可能性すらあった。
【特殊結界について】
大会では最新式の特殊な結界を用いる。この結界内で生物が受けたダメージが一定以上になると強制的に結界の外へ排出され、受けたダメージはなかったことになる。
これは致命的なダメージでも同様。
「なるほどな、”生物”か。これだったらティロフィは問題なさそうだ。イストはどうかな……? まぁ、そもそも使役しているモンスターは致命傷を負っても【眷属の庭園】に帰還するだけだから問題はないかな? 一定期間呼び出せなくなっちゃうけどね」
カイトは苦笑しながら、次の項目に目を走らせた。
最も重要とも言える戦闘中のレギュレーション、特に「持ち込みアイテム」に関する項目だ。
ここを誤ると、戦術が根底から崩壊する。
【使用可能アイテムの制限】
試合中、消費アイテム(ポーションや丸薬等)の使用は一切禁止。
傷を癒すのも魔力を回復するのも、すべて自身のスキルや魔法で行わなければならない。ヒーラーの重要性が極めて高いルールと言える。
【例外規定】:ただし、『魔道具』として事前に装備している物を使用するのは可とする。
例:魔力を込めることで電撃を放つ「稲妻の杖」、盾から鋭利な茨を出し相手を拘束可能な「茨の盾」などは、装備品扱いとなるため制限なく使用可能。
「なるほど、このルールだったら魔剣開放も問題なさそうかな?」
幸い、カイトには高い回復能力を持つ白形態のティロフィがいるため、ポーション禁止のデメリットは少ない。
最後に、カイトは画面を一番下までスクロールし、今大会の「報酬」に関するページを開いた。ここが一番、学生冒険者たちのモチベーションを狂わせる部分だ。
■ 第十一回大会:優勝賞品および報酬
【副賞:最新ダンジョン泊セット】
今大会の優勝チームには、冒険者憧れの最新キャンプギアが一式贈呈される。
魔物避け結界起動装置
高断熱・軽量化仕様の特製テント
過酷な環境にも耐える高級寝袋
魔力で火力を調整できる簡易料理器具
持続時間の長い魔道ランプ
「最新のダンジョン泊セット……! 結界起動装置までついてくるのか」
カイトの目がキラリと輝いた。
これまでは単独、あるいはイストたちを連れての強行軍が多かったカイトにとって、ダンジョン内での睡眠や休息の安全性を格段に高めてくれる「結界起動装置」は、喉から手が出るほど欲しい一品だった。これがあれば、より深層のダンジョンへ長期滞在する攻略計画が現実味を帯びてくる。
それに、ここに記載はないが大手クランからの注目やギルドからの直接勧誘といった名誉も、人によってはそれこそが最大の報酬になるであろう。
「ルールはすべて把握した」
カイトはタブレットの画面を閉じ、背もたれに深く体重を預けて天井を見上げた。
脳裏に浮かぶのは、会議室で不敵に笑っていた佐藤や、挑戦的な目を向けてきた九条院の顔。そして、まだ見ぬ他校の強豪たちの姿。
「待ってろよ、みんな。最高の舞台で、俺たちの全力を見せてあげるから」
大会へ向けて。
カイトは心の中で静かに闘志の炎を燃やし、準備を進めるのだった。