軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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★ 光天騎士王国 沖合10km ★

夜の海は静かで、星明かりさえも余さず映し出す鏡のように水面は穏やかだった。

『…………』

しかし、黒い海に——さらに深い闇がゆらりと浮かび上がる。村ひとつ呑み込みそうなほどに大きなそれは、海面付近でじっとしていたが、やがてゆっくりと沈んでいった。

★ 光天騎士王国 港町ザッカーハーフェン ★

「見つけたぜ、お嬢、お頭。魔導船はこのザッカーハーフェンには4隻ある」

魔導ランプの冷たい光が室内を照らし出す。小さなテーブルに集まっているのは男が4人、女は——ラルクはベッドに座って話を聞いていた。

山賊時代から「お頭」クックと付き合いがある面々ばかりで、「人は襲うがケガはさせず、金は奪うが取りすぎない」という小規模襲撃を繰り返していた彼らは、警備隊から目の敵にされることも多くなく細々と暮らしていた。

そのころから役割は変わらなかった。

「ほう。4隻全部か?」

「当然」

胸を張った細身の男はスカウトと呼ばれていた。名前はなく、役割の「 斥候(スカウト) 」と呼ばれ、「 技術者(エンジニア) 」と呼ばれる仲間同様それで十分だった。

スカウトはテーブルに置かれたこの街の簡易地図を指差す。

「この港は漁業船と輸送船に大きく2つに分けてある。だけど、この一角だけは町の顔役どもが使える停泊所になってるんだ」

「ん? 軍用船もあるだろうが」

「軍用船は隣の港だよ。さすがに一般人と同じところじゃ軍船を動かせねえだろ」

「それもそうか——そんで、魔導船はその金持ちの停泊所にあるってこったな?」

「そう。だけど、 揚場(ドック) が併設されてるもんで、すぐにしまっちまうんだ」

「はー。せっかくの船を海に浮かべず、陸でご丁寧に保存かよ。金持ちはなんでもしまいこんで腐らせちまうな」

お頭は言ったが、スカウトはにやりとする。

「そこがチャンスなんだ。鍵屋の出番だ」

ぽん、と横に座っていた小柄な男の頭に手を置く。

ボサボサの髪は目元まで垂れ下がり、ずんぐりむっくりした体型はドワーフを彷彿とさせるのだが、単に背が小さいヒト種族である。

「お、お、俺が?」

「ドックに侵入してかっぱらっちまえばいい。それにはお前が必要だろ? 鍵屋の腕なら開けられる」

「そんなにうまく行くのかよ……」

胡乱な目をするエンジニアに、スカウトは、

「行けると思うぜ。海に浮かべてりゃあ人の目もあるが、ドックにしまい込まれてちゃあ逆に人目は気にしなくていい。俺ぁ思うんだが、いちばん時間が掛かるのはエンジニア、お前が魔導船を起動するところだろ?」

「なるほどな。スカウトにしちゃ頭が切れてるじゃねえか」

「……俺にしては、は余計だろ、お頭」

「魔導船のエンジンに火ィさえ入れりゃ、あとは海にドボンしてオサラバだな」

「そんなにうまく行くのかよ……」

エンジニアは胡乱な目を今度はお頭に向けるが、

「ってことだが、どうする、お嬢」

お頭はラルクへと首を振り向けた。

ラルクは声を掛けられてようやく気がついたように口を開く。

「……ん? ああ、お前らが行けるってんならそれでいーよ」

「お嬢……。マジでついてくるのか? さすがに足手まといだからここにいろよ」

「うるせーな。アタシのためにお前らがやるっつってんのに、ひとりでここでぐっすり眠ってるわけにはいかねーだろ。おら、決まったんなら行くぞ」

「お嬢、こういうのはですね、綿密に計画を立てて……」

「黙れエンジニア。計画なんて立てたこともねーくせによく言うぜ」

さっさと立ち上がったラルクの言い分は、ある意味で正しい。

これ以上考えても調査しても新たな情報を手に入れられる見込みも、ツテもない。

どのみち彼らは出たとこ勝負。どうしても成功しなさそうだったら逃げればいいし、敵に囲まれる程度の修羅場は何度もくぐってきた。

(……だけど今回は、お嬢の天賦は使わせたくねえ)

お頭は思う。

ラルクの不調は天賦によるものであることはほぼ確実で、それを治すために船が必要なのに船を手に入れるために天賦を使わせたら本末転倒だ。

「よっし、お前ら、行くぞ。海賊団『潮風五万里』の出港だ」

お頭は言いながら立ち上がった。

「…………」

「…………」

「…………」

「……おい、クック。そのクソダセー名前、マジで止めろよ」

仲間3人の冷たい視線と、ラルクの呆れたような声を聞いたお頭はつぶやく。

「これだから学のねえ賊はダメなんだ」

「それ学とか関係ねーだろ……」

夜更けのザッカーハーフェンは、繁華街こそいまだに人通りがあるものの、一本裏通りに入るだけで暗く、人気はない。どこかに潮でも入り込んでいるのか、チャポ、チャポッ、という音が絶え間なく聞こえている。

5人はなにげなく歩いているように見えたが、その誰もが足音を立てていない。さらには自然と物陰を選んで通っているので表通りからちらりと見た人間がいても、そこを5人もの人間が通ったとはまったく思わないだろう。

夜更けの港はさらに人影が少ない。輸送船にはかがり火が焚かれて警備兵や傭兵が歩哨として立っているが、漁船の区画は無人だった。

さらにその先——資産家たちのドックがある区画もまた同様だ。

「おい、マジでこんなところに魔導船があるのか? 飛行船ほどじゃねーけど、それでも一財産のはずだよな……なのに警備が全然なってねーぞ」

ラルクが言うと、

「ま、魔道具で、侵入者除けのものが、せ、設定されてる……」

鍵屋が指差したのはいちばん手前のドックだった。

3階建てほどの高さの、石造りの建築物で、小さな窓があちこちについている。

ドックは港に面した方向に巨大な扉があり、そこを開けば坂を下ってそのまま海に降りられる仕組みだ。

扉にはロープが渡され、魔導ランプのようなものが数個ぶらさがっていた。

「は、範囲はわからないけど、ち、ち、近づけば警報が鳴る……シンプルだけど、や、厄介だ」

ちなみにドックの裏手には警備兵の詰め所があり、警報が鳴れば出動するような仕組みになっているようだ。歩哨で突っ立っているよりは効率がいいという考えなのだろう。

「どうやって解除するんだよ、ここの持ち主は」

「警報解除の魔道具があるんだ。今からそれの代用品を作るのは現実的じゃねえな」

スカウトが代わりに答えた。

「残りのドックも見ようぜ」

同じ警報システムが設置されているドックが多く、それらを除外すると、侵入できそうなドックはふたつに絞られた。そのうち片方が、魔導船のあるというドックらしい。

「たぶん……だけどな。確率的には五分五分だ」

「ふーん、そんじゃ悪い賭けでもねーな。どうせダメ元さ、そこにチャレンジしてみよーぜ」

ラルクは右拳を左手に打ちつけた。