軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42

★ 光天騎士王国 港町ザッカーハーフェン ★

狙いのドックには通用口のような扉があり、 鍵屋(・・) はさっそく確認を始めた。

「……う、うん、問題ない。こ、これなら、10分で開く」

「5分でやれ」

クックに言われ、大急ぎで解錠に取りかかる。

「クックにしちゃ珍しいじゃん、鍵屋をそんなに急かすなんて」

「……別に、急いだほうがいいだろうが」

そっけないクックの反応にラルクは首をかしげるが——クックとしては誰にも気づかれず、もめ事なんて起きるわけもなく、静かに魔導船を盗み出したいだけだった。

もし見つかりでもしたら大勢に追われる。そうなればラルクは天賦の力を使ってしまうだろう。

「……まだか?」

「ま、まだだよ。始めたばっかりだ」

クックは天を仰いだ。ドックとドックに挟まれるようにしてあるこの通路は、ひっそりとして暗いが、身を隠すものはなにもない。

海がすぐそこにあるからだろう、ざざざ……という波音に紛れてカチャリカチャリと解錠を進める音が聞こえる。

「…………」

「…………」

クックは海の方角を、スカウトは町の方角を確認しているが、

「……何人かいるな。こっちに向かっている」

「チッ。パトロールの時間か?」

「わからん。どうも決まった時間にやってるんじゃねえみてえだし」

「まだか、鍵屋。もう5分になるぞ」

「そ、そろそろ——開いた」

キィ、と手前に扉が開いたときだった。

指向性を持たせた魔導ランプ——つまるところ懐中電灯のような光が通路へと射し込んだ。

「……おい、どうした? なんで進まない?」

「ああ、いや……なんか変じゃなかったか?」

ドックとドックとの間、細い通路に入るところで5人の警備兵は立ち止まっていた。

明かりを手にした先頭の男は続けて言う。

「なんか……ここが真っ暗で」

「バカ。夜中にここいらが真っ暗になるのは当然だろうが。さっさと行け」

「え、えぇ……? おっかしーなー」

頭をかきながら5人はぞろぞろと通路へと入ってくる。

やがて通用口の前へ差し掛かり、

「そうそう、この辺で……なんか明かりが届かなくなったんだよ。 暗幕に遮られた(・・・・・・・) みたいな感じでさ」

「カーッ、お前、こないだ舞台なんてもん観に行ったばっかりに、暗幕なんて言葉使いやがって」

「そ、そんなんじゃない」

「はいはい、恋人がいてうらやましいですよ。はいはい。さっさと行こうぜ。さっさと戻って俺は眠りてえ」

「…………」

首をかしげながら先頭の警備兵が進むと、談笑しながら彼らは遠ざかっていく。

「……行ったか?」

「行ったな」

「ふぅ……危なかった」

通用口に入ったすぐの場所で、クックたち5人は壁に背を付けて息を潜めていたが、警備兵が通り過ぎたとわかると一斉に息を吐いた。

あの瞬間、光が伸びてきた瞬間、確かに彼らは通路にいた。

だけれどそのときには闇の幕が——「暗幕のようなもの」が通路にいる彼らを隠していた。その隙に通用口から中へと滑り込んだのだ。

「へっ、やっぱあたしを連れてきてよかったろうが? ん? あたしの能力は戦うだけじゃねーんだよ」

ラルクは得意げに言った。「暗幕」とはつまり、ラルクの放った【影王魔剣術】の刃だったのだ。刃を広く大きくし、一時的に彼らを隠した。

「…………」

クックは魔導ランプに明かりを点した。浮かび上がったラルクの額にはふつふつと脂汗が浮かんでいて——彼女はたった一瞬能力を使っただけでこれほど消耗したのだ。

「……そのとおりだな、ったく、俺たちゃお嬢がいなきゃなんもできねえのか? おい、行くぞ」

だがクックは心配を口にせず、仲間たちが立ち上がる言葉を選んだ。

(今やるべきは、我が身のふがいなさを悔いることでもなく、お嬢を甘やかすことでもなく、前へと進むことだ)

光によってドックの広大な空間を見渡すことができる。

「おお……」

誰かが声を漏らしたが、それはクック自身かもしれなかった。

目の前に、そびえるほどに巨大な魔導船がある。帆船が当たり前のこの世界において、帆がなく、左右に巨大水車のような 水かき(・・・) がついているのは「異様」と言っていいだろう。

左右から支えられるように船体は持ち上がっており、地面はV字に掘られて傾斜し、海へと向かっている。そこには丸太が置かれてあるので、この上をごろごろと運ばれていくのだろう。

そしてその船体すべては黒光りする金属でできている。

「鉄が海に浮くのかよ?」

とスカウトが思わず言ってしまったのは仕方ないことだろう。

「……エンジニア、動かせるか?」

「まあ、船なんてのは操舵はたいして難しくないんで大丈夫じゃないかな」

「よし、そんじゃ10分で動かせ」

「いや操舵の話だよな!? 魔導エンジンの起動はやってみなきゃわからんからな!?」

そう言いながらもあたふたと操舵室へと向かった。移動式の階段が掛けられており、エンジニアを先頭に、スカウト、クック、そしてラルクが後を追う。鍵屋はドック正面の扉を開ける役割があって別行動だ。

ラルクは階段を上がるだけで息を切らしていた。甲板に上がるところでクックが手を差し伸べると、

「……ったく、年は取りたくないもんだね」

なんてうそぶいた。

「強がりを言えるウチは問題ねえな」

「まーね。本物の年寄りは二言目には説教か『くたびれた』だろ?」

「お前、俺をじろじろ見ながらそんなこと言うんじゃねえ」

「へへっ」

クックの手を取らず、ラルクは段差を跳んで甲板へと降り立った。

それから10分が経過した。

「お、お、お、お、お頭〜」

鍵屋にしては声を張っていた。

甲板から身を乗り出したクックは、

「どうした!」

「もう、正面、開いたから、いつでも、出て行ける!」

「バカ野郎! そんならさっさと登ってこい!」

「は、はい〜」

ボサボサの髪を振り乱した鍵屋は階段を探し当てると、そちらへと駈けていく。

「いよっしゃ!」

操舵室からエンジニアの声が聞こえたと思うと、ブウウウウンと船は大きく振動した。

「急げ、鍵屋!」

「は、はいぃぃ」

「スカウト〜! 左右の留め具を外してくれ!」

「おっしゃ!」

船体を支えている留め具を外せば船は落ち、海へと向かうだろう。

「あたしもやる——」

座って休んでいたラルクが立ち上がったところで、その姿が見えた。

「——やべえ、バレたぞ!」

通用口が開くと、わらわらと大勢の警備兵が雪崩れ込んできた。