軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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マンガだったら「ズゥゥウウウンンンン」みたいな擬音が書かれそうだった。複数人が寝泊まりできるほどに大きな天幕だというのに、中央にイスを置いてどっかと座ったフリードリヒ様はどこか窮屈そうに腕を組んでいる。

身長差では負けているけれど体格的にはそこまで負けていないはずのダンテスさんは、「身分差」という目に見えない差によって縮こまっている。

フリードリヒ様が口を開くと、アゴの筋肉まで躍動する。

「単刀直入に言う。光天騎士王国に来い」

「あ、はい。そのつもりです」

「そうか——ならばあとのことはヴィルヘルムに任せる」

ズゥゥウウウンンンンと音を立てながら(幻聴)フリードリヒ様が立ち上がると、騎士たちを連れてのっしのっしと出て行った。

あれ? 終わり?

「……なんだ、終わりか?」

明らかにホッとしたようにダンテスさんは言ったけれど、まだヴィルヘルム様とヒゲの騎士——ヨハンさんが残っている。

「ダンテスさん、一応こちらの若い騎士様も貴族みたいな扱いの方のようです」

「ひぃっ」

もうダンテスさんが貴族アレルギーになっちゃいそう。正確には「王族の遠縁」なんだけどそんなこと言ったらアレルギーが加速する。

「……あー、その、なんだ……私は他の騎士と同等に扱っていただきたいが」

「いや、それは無理でしょう。ヴィルヘルム様が光天騎士王国の代表として外交をしていたのは見てますし」

「……む、そうか」

しょんぼりと肩を落としたヴィルヘルム様に、ヨハンさんが「ま、しょうがありませんよ」となにか励ますようなことを言っている。なになに、なんなの。僕にフランクな付き合いを所望なの。無理ですよ。こちとら庶民ですよ。護衛時代の経験で貴族にちょっと慣れてるだけの庶民ですよ。

「ところで先ほどの件、フリードリヒ様との話だが……光天騎士王国に来てくれるというのはほんとうか?」

「はい。そのつもりでした」

「そ、そうか……お前は冒険者が性に合っているという感じかと思っていたが」

「え? そうですね、冒険者稼業はしばらく続けたいですね」

「それは難しいな。騎士が冒険者をやるなどとは……」

「え?」

「む?」

なんだか話が噛み合わないぞ。

「ちょっと待て、レイジ。お前は光天騎士王国に来てくれるのだろう?」

「はい。そのつもりですと申し上げました」

「騎士になるのだろう?」

「はい?」

なんで?

「……まさかとは思うが、なにか用事があって我が国に来るのか?」

「まさかもなにも、そのとおりです。そのために出発の準備を急いでいるんですよ」

「…………」

あちゃーという感じでヴィルヘルム様が額に手を当てて天を仰ぎ、ヒゲの騎士のヨハンさんはプッと噴き出している。

「ちょ、ちょっと、なんなんでしょうか? どうして『光天騎士王国に行く』のが『騎士になる』ってことなんですか?」

「それは……お前な、今日、帝国から褒賞をもらったのだろう?」

「はい、まあ」

「その流れで光天騎士王国の『 5光騎士(ファイブナイツ) 』の一角であるフリードリヒ様が『我が国に来い』と言ったら、それは『騎士に取り立ててやる』という意味になるだろうに」

「えぇ?」

さすがにそれは飛躍しすぎでは。というか僕が光天騎士王国からなにかもらうような筋合いじゃないし。あとあの大きい騎士様、もうちょっと言葉を使ってくれないとわからないよ。

大体光天騎士王国って一兵卒までみんな「騎士」なんだし。

「はぁ……一応、お前のために用意されたポジションと待遇があるのだが聞くか?」

「いえ、結構です」

「そうか……栄えある『 11天騎士(イレブンナイツ) 』の席に推挙するという話だったのだが」

「はあ」

チラッ、と見てきても心は動きませんて。知らないし、その役職みたいなの。

「すごいことなのだぞ、騎士の頂点『 王剣騎士(キングスナイト) 』の下、『5光騎士』、そして『11天騎士』となるのだ。光天騎士王国の中枢だ。フリードリヒ様はそこまでお前のことを……いや、いい」

僕がまったくなびいていないことに気づいたのか、ヴィルヘルム様は説明を打ち切ってしまった。さすがにこれにはヨハンさんも苦笑いしている。

「それならば仕方はないか。——ヨハン、行こう」

「はっ」

立ち上がったヴィルヘルム様を僕は呼び止める。

「すみません、僕からひとつうかがいたいことがありまして——」

これはチャンスだとばかりに僕は光天騎士王国までの道のりについてたずねた。

おそらくラルクが通ったであろう道だ。

ヴィルヘルム様は快く答えてくれた。それはほぼ一本道で、先を急ぐのであれば街道を進むしかないという。

「ありがとうございます」

「いや……そうか、我が国に行くのであれば軍用の馬車を貸してやろうか?」

「いいのですか?」

「速度が出るが乗り心地は最悪なのと、民間馬車と同じ速度だが乗り心地は最高の馬車とどちらがいい? 私のお勧めはもちろん後者——」

「速度優先で!」

食い気味で答えると、

「そ、そうか……わかった。明日の夜明けには乗れるように手配しておこう」

と残念そうな顔をした。

「ありがとうございます!」

「う、うむ……。レイジ、その……いや、いい。ではな」

「はい」

今、いちばん欲しいものをくれようというヴィルヘルム様には感謝しかない、僕が頭を深々と下げると、ヴィルヘルム様が去っていく気配。

「……ヴィルヘルム様はね、同じ10代のレイジ殿ともっと話したかったんですよ。是非また別の機会にお願いします」

そっ、とヨハンさんは囁くと、去っていった。

「同じ10代……か」

夕陽はすでに沈んでいて、ふたりの姿はすぐに見えなくなった。

(年齢は近くても境遇は全然違うんだよな。偉い人には偉い人なりの悩みがあるんだろうか……や、そりゃあるよねえ。エヴァお嬢様だって友だちいないことを密かに悩んでたっぽいし。今はミラ様とか文通仲間ができてるけど)

僕がそんなことをつらつら考えていると、

「——ハッ。も、もういないのか? いなくなったのか?」

ダンテスさんが気絶から覚めたみたいにあわてて息を吸い込んできょろきょろとしていた。

ちなみに——ミミノさんやノンさんは騎士たちがわらわらといる剣呑な空気を察して近寄らず、ゼリィさんに至っては賭場に行って負け越していた。