軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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公爵の口から語られた言葉は短く、僕の知っている世界からするとあまりに抽象的なことばかりだった。クルヴァーン聖王国の聖王は絶対無二の存在ながらあらゆる政治を6大公爵家と進めねばならなかったこと。「一天祭壇」があるおかげで潤っているがその代わりに各国からの移民がすさまじく多いこと。膨れ上がる人口と爆発的に増える諸問題、派閥、勢力……。

その中で「聖水色」を持つ聖王は特別であり、グレンジード公爵にとってもそれがよりどころだった。

同じ「聖水色」を持つ子どもたちが可愛くて可愛くて仕方がなかった。

「子ども可愛さのあまりに聖王としての判断が鈍っていたのかと言われれば、そうなんだと思う。俺はクルヴシュラトを生け贄として捧げなければならなかったが、できなかった……ロズィエ公爵家のルイが身代わりの手を挙げてくれたことに、ホッとしてしまった」

ルイ少年はお嬢様にいい格好を見せようとしていたのではないかと僕は推測していた。お嬢様の「鼓舞の魔瞳」によって、本来ならば聖王のなすことに異議の声を上げるなんてあるはずがなかったことを、やってしまった。

でもそれらはすべて不運が重なった不幸でしかない。

僕はそう思うし、そう信じている。

ただそれをグレンジード公爵に言ったところで意味はないのだろう。

「俺は……」

夕焼けに染まる空を見上げ、グレンジード公爵はつぶやいた。茜色の雲がたなびいて、秋の訪れを感じさせる。もう夜は涼しいくらいだ。

「……閣下」

そこへ、それまで黙っていたダンテスさんが口を開いた。

「俺は貴族や雲の上の人たちのことはわかりません。ですが、俺には娘がいて、娘が可愛いってことは誰より知っています。だからたぶん……閣下のなさったことは、理解できます」

「…………」

グレンジード公爵は見上げていた視線を、横にいたダンテスさんへと向けた。

「……そうか」

「ええ。……なんの慰めにもならないでしょうが」

「いや、そんなことはない。……すまねえな」

どこか張り詰めていたようなグレンジード公爵だったのに、今は少し険がとれたように感じられた。

「あれから報告を受けたんだ、レイジ。お前は調停者から我ら聖王国の貴族たちを守ったのみならず、その後の—— 環の蛇(ウロボロス) 戦でも活躍したようだな」

「あ、いえ……それはダンテスさんたちもいたので」

「褒賞は必ずとらせるから聖王都に来てくれないか」

どきりとした。

僕が4年という歳月を過ごし、スィリーズ伯爵家もある聖王都。

そして僕がお嬢様に別れを告げた場所——。

「ですが、僕は……」

「お前が『災厄の子』であろうとなかろうと、俺の名の下に文句は言わせん。公爵家の名前を貸すことだってできる」

「閣下それはやり過ぎです」

「それくらいしねえと、お前のしてくれたことに返せないだろう……? 後悔してももう戻らないものを目にするのはこりごりなんだ……」

くしゃりと公爵は顔をゆがめた。それはまるで泣き出しそうな子どもみたいで——ああ、大人になっても人は、こんな顔をしたりするんだなって、まるで他人事みたいに僕は思った。

きっと公爵が気にしているのはルイ少年のことなのだろう。ルイ少年はもう戻ることはないから。

この人は、自分の息子だけ助かればいいだなんて考えるような人物ではないから。

「……わかりました。いつか聖王都に寄ったときにはいただきます。ただ、身分に関してはレフ魔導帝国が僕の身元を保証してくれることになりましたので、大丈夫だと思います」

「なに?」

僕は帝国が発行してくれたプレートについてグレンジード公爵に話した。それと、これからどうしても光天騎士王国に行かなければいけないことも。

「先を越されたか……」

ほんとうに悔しそうに言う。

「いいか、必ず聖王都に来てくれ。必ずだぞ」

「は、はい……わかりました」

「褒賞もそうだが、なにか力になってやりてえからな。そうだ、 伯爵(ヴィクトル) の娘のエヴァと言ったか? あの娘と結婚したいなら俺が後ろ盾になってやるから」

「ファ!? い、いや、そういうのじゃないですから、お嬢様とは!」

「俺に任せておけ」

「違いますからね!?」

そんなことを言っている間に、ルルシャさんの天幕へと戻ってきた。結局グレンジード公爵に荷物持ちをさせてしまった。

「じゃあな!」

一国の公爵とは思えない、ざっくばらんな感じで手を上げると公爵は去っていった。

「ふー……疲れた」

「ダンテスさんも、苦手なものがあるんですね……」

「1週間に1回くらいなら大丈夫だが、立て続けにあるとつらい。——それはそうとレイジ、お前やっぱりあのお嬢様のことが」

「ないですって! もう、ダンテスさんまで。お嬢様とは雇い主と護衛の関係でしたよ……うん」

奴隷商潰しをしたり、お嬢様が僕を寝ずに看病してくれたりしたのは、ちょっとだけ、ほんのかすかに、素粒子レベルで雇い主と護衛の関係からは逸脱していたかもしれないけれど。

それはともかく、僕らは荷物を持って天幕へと入っていく——。

「…………」

「うわっ、ダンテスさん、急に止まらないでください」

前を歩いていたダンテスさんが立ち止まったのでその背中に顔がぶつかりそうになった。

「どうしたん——」

前をひょこっとのぞいてみて、気づいた。

夕暮れ時の無人の天幕は薄暗く、しかしそこにはダンテスさんを超える巨体が立ち、こちらを見下ろし——暗闇に瞳を輝かせていたのだ。

「ひぃぃぃぃぃいぃいいいいいいい!?」

「……私だ」

「しゃべったああああああああ!!」

僕とダンテスさんが荷物を思わず放り出してしまうと、

「レイジ殿……その反応はあまりにあまりではないか」

巨体の影からひょっこり出てきたのは、光天騎士王国の騎士にして中性的なイケメンであるヴィルヘルム様だった。

となると……このデカイ人は。

「……急な訪問、あいすまぬ。だが貴殿らが明日にも旅立つと耳にした」

光天騎士王国軍の総大将、フリードリヒ様だった。

もう偉い人やだ、とダンテスさんが泣きそうな声で言った。