軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お土産を買おう

慣れない長時間によるお買い物に精神と体力をゴリゴリと削られるノルド父さんだが、愛する妻の為に嫌な顔せず付き合っている。

そんな仲の良い夫婦の姿を周囲の女性客が羨ましそうに眺め、ちらりとノックダウンした男を見て落胆する。

傍から見ても凄くいい夫婦だからね。

子供の俺は何も見る物はないだろうな、と思っていたが意外にも結構な数の小物があった。

エマお姉様への良いお土産になるかもしれないな。だと、するとこの店に来たのも悪い事ではなかったと思う。

そう思い、奥行きが広いお洒落な店内のテーブルに載せられた小物を眺める。

バレッタ、ヘアゴム、シュシュにカチューシャ、ブレスレット、色とりどりの物がたくさん置いてある。お客も女性客ばかりであり、俺が子供でなければ尻込みしていたかもしれない。

それにしても、奥にいる夫人の声がさっきからやかましいな。

『どうかしら? これ似合うかしら?』

『はい! 豊満な体を持つお客様にとってもお似合いですよ!』

奥ではどこかの貴族の夫人であろうか。従者を連れてお買い物に来ているようだ。

それにしても豊満か。店員さんの言い方も上手いものだ。

後ろの従者とか思いっきり肩が震えている。忠誠心の全くない従者である。

『そう? それじゃあこのコートも頂こうかしら?』

『ありがとうございます!』

『ちょっとざらついた手触りに、民族的な刺繍が入っているところがまたお洒落よねぇ』

まん丸とした夫人は真っ赤なコートを羽織って会計へと向かう。

それにしてもあれは本当にコートなのか? 俺にはどうもそうは思えない。

俺が疑問に思う間に会計を終わらせた夫人は、必死に笑いをこらえる従者と共に去っていった。

『ありがとうございました!』

『店長! 休憩室のカーペットが無いんですけど?』

『あー、あれなら物好きな貴族に売ったわ』

『そうなんですか? あのカーペット、結構ボロかったですけど?』

『貴族様の考えは、私達平民にはわからないわよ』

『そうですねー』

まあ、あの店員さんは一度もコートとは言ってなかったしな。

あんな巨体に合う服なんてオーダーメイド以外無理だろう。さっきまで色々難癖つけていたみたいだし、それでカーペットを差し出したら大喜びで買っていったんだな。

まあ、今はどうでもいいや。それよりもお土産の小物である。

綺麗に並べられた物を一つ一つ手に取ってみるが、こんな物とは無縁である俺には用途がわからない物もあった。

おお、これはここで挟むのか。

俺が見ていると、ミーナが隣にやってきてヘアピンを手に取った。

そしてそれを前髪の一房に挟み込み、

「えへへ、似合いますか?」

なんて笑顔で言ってきた。

「いいや、オデコが丸見えで一層馬鹿っぽいよ?」

「ああ! アルフリート様酷いですよ! 少し言い方を考えて下さい! それに一層馬鹿っぽいって何ですか? それじゃあ私が普段から馬鹿っぽい顔をしているみたいじゃないですか!」

いや、言い方って言われても似合ってないのだからしょうがない。そこで似合ってるよ、なんて言って付けるようになったら本人が可哀想じゃないか。

「じゃあ、これならどうです?」

ミーナは威勢よく言って水色のシュシュの手に取り、後ろの髪をくくった。

「……何だかオタマジャクシの尻尾みたい」

元々髪がそれほど長いわけでもないので、髪止めなんて必要ないんじゃないかな。

「アルフリート様酷過ぎです! サーラ!」

涙目になって近くにいるサーラに泣きつく抱き着くミーナだったが、

「どうしたのミ――ぷふっ。何それ?」

「うああああー! サーラまで酷いですぅ!」

普通にサーラに笑われてしまった。

拗ねたミーナにクッキーでご機嫌を取りしばらく。

いくつかの良い感じの小物などを買い込み、俺は店内でお土産について考えていた。

エマお姉様の分は何とかなる。例え微妙な物であったとしても天使の笑顔で受け取ってくれ、物置の肥やしにされ、それをトールが発見して俺を馬鹿にする……想像しただけで泣けてきた。

いや、今回買った奴は実用的な物のはずだ。そんな事にはあまりならないだろう。

シーラの分も買ってあるが、あの人は食い気な気がするがまあいいか。

それよりも問題は我が姉へのお土産だ。半端な物を持っていけば即座にいらないとか言われそうだ。

俺にはエリノラ姉さんに何を渡せば喜んでくれるかがわからない。

エリノラ姉さんが貰って喜ぶと言えば武器の類であろうか。新しい木刀とか?

いや、そんな物を渡せば俺へと牙を剥くに違いない。なので、武器類は絶対に却下だ。

もっと安全かつ、エリノラ姉さんがお喜びにな物で。一番は俺の土下座とかかもしれないな。いや、俺の土下座の価値などすでにない。もはや何回もやってきたのだ、満足いくはずもない。

何か可愛らしい趣味の一つでもないのかよエリノラ姉さんは。

すぐに思い浮かばないので、まずは彼女の一日を振り返ってみようかよ思う。

エリノラ姉さんの一日と言えば、朝稽古、勉強(かなり短時間)稽古、自警団の訓練、屋敷でゴロゴロくらいであろうか。暇さえあれば俺の部屋やシルヴィオ兄さんの部屋に来ている。

本当に稽古ばかりだな。年頃の女の事は思えない生活だ。唯一のそれらしい生活は自警団との訓練のあと、エマお姉様やシーラと遊んだりしている事くらいだ。

「この服とかエリノラに似合いそうね!」

「ええ? ちょっと派手すぎないかい? エリノラはそういう服は着なさそうだけど」

「そうなのよねー。あの子ってば何でも似合うのに誰かさんに似て着飾るのを嫌がるのよね」

同じ剣バカなだけで、性格面は完璧にエルナ母さんに似たんだけどね。

「……そうかもしれないね」

「年頃の女の子なんだし、もっとお洒落にも気を使って欲しいわ」

エリノラ姉さんはお洒落とかしないからなー。服は動きやすいものばかりだし、髪型も基本的にポニーテールだ。あれが一番動きやすいとのことだ。

そういえば、エリノラ姉さんの髪止めがボロくなっていたような。

うーん、それで喜ぶかは知らないが髪止めにしておくか。

念のために色々な種類と色を買っておこう。色が気に入らないとか文句が言われそうだし。

それから色々な物を買い込んだ。これで女性陣へのお土産に関しては問題なさそうだ。それが喜ぶかは神のみぞ知るである。

店を出ると鐘の音が鳴り、正午くらいの時間帯とわかった。

お昼の時間帯となり、すっかり機嫌を取り戻したミーナはサーラを連れて南のメインストリートへと向かった。

王都の屋台を全て制覇するつもりらしい。

さすがにそれは無理だと思うが、サーラがいるので無事に連れて帰ってくれるだろう。宿は南のメインストリートから北へ進めば帰ってこれるし大丈夫だな。

そんな訳で俺達も昼食。どこに行くの? とノルド父さんに聞いてみたところ、この近くにある魚料理を出すお店だと言われた。

おお、魚料理か! コリアット村でとれた川魚の料理とは違うんだろう。この世界に来てからは海の幸というのはあまり食べたことがないので楽しみだ。

個人的に肉よりも魚介類が好きだからな。

西のメインストリートから少し北に行った所まで行くと、そのお店はあった。

北の方にあるので少しお高いお店だ。

落ち着いた雰囲気のお店に入ると、男性が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、ノルド=スロウレット様ですね?」

落ち着いたダンディな雰囲気の男が慇懃に頭を下げる。

高級店だけあって貴族の接客もよくするのだろう。店員の質も高いらしい。

店員の口ぶりからすると、既に店を予約していたらしい。さすが出来る男は違うぜ。

「そうだよ」

「では、ご案内します」

店員のあとをついて、促されるままに席に座る。

店内を見れば、俺達の他にも多くのお客がいた。穏やかに談笑する声が聞こえ、高級感がありながらもゆったりとした雰囲気のお店だ。

俺達と同じように家族連れの人たちも多くいる。

ここなら変に気を使う事なく、食事を楽しむことができそうだ。ただ、マナーには気をつけないといけないのが面倒だ。

屋敷でもゆっくりと食べられるようになりたいな。しかし、うちの領土は山に囲まれていて、海が遠いしな。

たまに干物を食べる事があるけれど、塩辛くてあまり好きではない。

確かエリックの領土には海があるとか言っていたはずだ。機会があれば行ってみる事にしよう。

「海のお魚は久しぶりに食べるわね」

「うちの川魚も美味しいけれど、海の魚の方が種類が豊富で美味しいしね」

久しぶりに海の魚を食べられるお陰か、エルナ母さんとノルド父さんもご機嫌の様子だ。

「アルは海の魚は食べた事がないよね?」

「うん、川魚しか食べた事がないよ」

俺もメニューを一通り眺めてみたが、知らない魚の名前ばかりだったのでほとんど分からなかった。知っている魚の方が圧倒的に少ない。

「何か食べたいものはあるかい?」

「うーん、よくわからないからオススメにしようかな」

本当は貝とか海老とか食べたい。でも、交流会のように巨大な魚の頭や目玉の料理がきたら困るのでやめておく。

「わかったよ」

ノルド父さんは微笑むと、エルナ母さんと相談して店員に注文をする。

二人だけワインを頼むのはズルいと思った。だから俺もワインって言ったら、即座に却下されてブドウジュースにされた。

店員さんや周りのお客さんの視線がひどく生温かかった。

海の幸の料理を堪能したお陰で、午前中に削られた精神と体力を回復することができた。特に様々な魚介の味が染み込んだ魚介のスープが一番美味しかった。たくさんの貝や魚、海老などを混ぜ込んでいるのに調和のとれた落ち着いた味が出せるのは、プロの技だと思った。

食事中に聞いたことなのだが、この国では魚を生で食べる事はほぼないとの事だ。

生で魚を食べるという発想がないからなのか。醤油さえあれば絶対に人気になるのに。

必ず大豆を見つけて醤油を作る、もしくは醤油自体を見つけてやるからな。

俺的には醤油を買い付ける方向でいきたい。

学校で作った事もあるし、前世の仕事柄で製法も知る事があったので作ることができるとは思うが、時間と労力がかかるしな。

もし売っている場所があれば即座に行く。それが他国であってもだ。転移魔法がある俺からすれば、たどり着いて記憶した時点でいつでも行けるようになるのだから。

お米の時のようにトリエラが持ってきてくれないであろうか。

食後にゆっくりと会話をしながら過ごすことしばらく、俺達はバルトロに頼まれたという魔導具を見に足を運ぶ。

その魔導具店はここから近い北にあり、俺が最初に行った西の小さな魔導店とは大きく違っていた。

とにかくお店がデカく、展示している魔導具も多いのだ。この間の秘密基地のような魔導具店とは全く違うな。

売れ筋の商品は灯り、水やお湯、火を起こすような魔導具であろうか。これらの商品は貴族であれば当たり前に持っている魔導具であろう。魔力さえあれば使えるとか凄く便利だからな。

ただ、冷蔵庫系の魔導具は売り切れなんだそうだ。買う事ができなかった貴族が「いつになったら入荷できるんだ」と店員に迫っていた。

店員さんも大変そうである。現在冷蔵系の魔導具は需要に供給が全く追いついていない状況である。氷魔法の使い手自体が少ないのだ、毎日術式を書いていても間に合わないくらいであろうな。

「いらっしゃいませ! 何かお探しでしょうか?」

俺達が店内を見ていると、先程貴族に掴みかかられていた店員さんがこちらへとやって来た。

きっと、あの貴族から逃げるためにやって来たんであろうな。

「えっと、最近発売された火の魔導具を見に来たんだけれど」

「ああ、ありますよ新しい火の魔導具が。お料理に役立つこと間違いなしの一品です。ささ、こちらでございます!」

店員に案内された先には、前世のコンロのような魔導具が展示されていた。

「こちらの商品は料理に使う火を起こす魔導具でございます。勿論ただの火を起こすだけの魔導具ではありません。なんとこれは火の強さを調節できるものなのです。これならば薪を使わずに楽にお料理ができること間違いないです」

「買います!」

「ありがとうございます。お坊ちゃま」

「いやいや、アルが決めることじゃないからね!?」

「何を言ってるのノルド父さん? これは画期的な魔導具だよ? これがあれば料理が大分楽になるんだから!」

全くこれだから料理をしない奴は。この性能の良さがわからないだなんて。

これさえあれば薪を割らずに済むうえに、料理時間の大きな短縮になる。天ぷらだって超簡単に作れるんだ。

「う、バルトロと同じような事を言うね」

そりゃ、そうだよ。俺もバルトロと同じ気持ちなのだから。

「普段料理をするバルトロやアルが言っているんだから、必要な物なんじゃないのかしら?」

さすがエルナ母さん。ものわかりが良くて助かる。

そしてエルナ母さんは俺へと視線を流して尋ねる。

「……これさえあればお菓子も量産できるのよね?」

「できます! 新たなお菓子を作る事も可能です!」

言ってしまったが仕方ない。これは必要な物なんだ。どうせ作るのはバルトロなんだし。バルトロならこのコンロを買えば、嬉し泣きしながらお菓子を量産してくれると思うんだ。

俺の答えた台詞は大満足な答えだったようで、エルナ母さんは顔をほころばせる。

「なら買いましょう。おいくらかしら?」

「ありがとうございます。奥様。金貨八十枚になります」

「た、高い!」

「ほら、あなたさっさとお金を出して」

お菓子がからめば普段はおっかないエルナ母さんも、今となっては頼もしさしか感じられない。この期待を裏切ればどうなってしまうかは知らないが。

「ほ、本当に買うのかい?」

「そうだよ」

「私のお菓子……我が家での食事をより良い物にするためよ」

エルナ母さん、願望抑えて。

「とにかく、もう少し説明を聞いてからにしようね? 別に今日買わなくてもいいんだから」

今日を逃せばお菓子が量産される日は遠くなるという事だ。そんな事はエルナ母さんが許容できるはずもなく、ノルド父さんはしばらくしてポケットから白金貨を出すことになった。