軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

具材のチョイス

ミーナへのメイドとしての立ち振る舞いの指導が落ち着くと、俺たちは本題である食材の買い出しを行うことに。

「アルフリート様、最初は何をお買い求めになられますか?」

「まずは野菜で、その次に肉類かな」

鮮度の問題を考えると、生ものはできるだけ後に買い込んだ方がいいだろう。

「わかりました。ご案内します」

ロレッタが頷いて先導してくれる。

メインストリートは混雑しているが、ロレッタとギデオンから溢れ出る公爵家の気品パワーによって人がサッと割れていくので歩くのは大変快適であり爽快だ。

これが大貴族だけが見ることのできる世界か。

「こちらなどいかがでしょう?」

「おお、いいね!」

ロレッタが案内してくれたのはメインストリート沿いにある八百屋だった。

チラッと見た限り、かなりの品揃えだし、陳列されている作物の鮮度もいいように思えた。

「い、いらっしゃいませ! 本日は何をお買い求めでしょう?」

突然の公爵家の来訪に八百屋の店主は顔色を青くして恐縮しつつも見事な揉み手をしている。

使用人であるメイドや執事が買いにくることはあっても、貴族本人が買いにくることなんて滅多にないからな。

「ジャガイモ、ナス、ミニトマト、タマネギ、レンコン、ピーマンはある?」

「ああ、あるぞ」

串揚げの具材として使用する定番の具材を俺が述べると、店主がなぜかぞんざいな態度で俺に返事をする。

あれ? なんかロレッタやギデオンへの態度とあまりにも違わないか?

まあ、ここはあくまで市井だし、こんなもんだな。

俺はそう納得していたが、紹介した側のロレッタとしては容認できるものではなかったらしい。彼女が微かに不快感を露わにすると、何かを察した店主が顔面を蒼白にする。

「あ、あれ!? も、もしかして、お貴族様ですか!?」

「あ、うん。一応ね」

何が悲しくてこんなことを言わなければいけないんだろう。

「大変失礼いたしました!」

「いや、本当に気にしなくていいから。さっき言った野菜を見せてくれる?」

「は、はい! 今すぐに!」

店主が慌てて奥に引っ込む。

きっと、指定した野菜の中から特に鮮度の高いものを厳選してくれているのだろう。

「そこのメイドと違って、アルフリートの立ち振る舞いは確かに貴族のソレなのだが、不思議とそう思わせるオーラが出ないな」

「ギデオン、うるさいよ」

心底不思議そうにされるのもそれはそれで腹が立つ。

どうせ俺は正装を纏っても立ち振る舞いとやらを身につけても貴族らしいオーラというものは身に付かないんだ。

「お待たせいたしました。ここにあるものなんかは今朝仕入れたばかりの新鮮なものです」

俺がギデオンから天然のあおりを食らっていると、奥に引っ込んでいた店主が戻ってきた。

「触って確認しても?」

「ああ、いいぜ――じゃなかった、どうぞです」

どうも店主からすると、俺は親しみのあり過ぎる貴族らしい。

ついさっきの出来事だったのに口調が戻りそうになっている。

俺とおっさんの相性が良すぎるのかもしれない。

あまり喋りかけてボロが出ると、店主が恥をかくことになるので無言で野菜を吟味する。……うん、店主の言う通り、この店にある中でもっとも鮮度にいい物を厳選してくれたようだ。

鮮度の悪いものはなく、形が不格好なものもほとんどない。

良い農家と契約しているだけでなく、目利きもいいようだ。

「とてもいいですね。全部、買います」

「ありがとうございます。配送はどちらにしましょうか?」

俺だけなら空間魔法による亜空間収納ができるのだが、これだけ衆目の目があるとそんなことはできない。馬車に運び込むにも距離があるしな。

「ミスフィード家のお屋敷でお願いします」

「かしこまりました」

どうするか悩んでいると、ロレッタが店主に頼んでくれた。

スリーパスの枕といい、王都に居を構えていると、こういう買い物の仕方ができるので便利そうだな。

転移ができることを考えると、俺も今後のために各地に拠点を構えるのはアリかもしれないな。

物資を運び込む拠点として活用すれば商売ができるし、周囲のことを気にすることなく安心して転移する場所を確保できる。悪いことではない。

「おい、アルフリート。串揚げとやらはキノコ類も合うのか?」

「いけるよ。食べたいなら好きなキノコ類も店主に渡しておいて」

「わかった」

ギデオンはカサが青い大きなエリンギみたいなキノコを手にすると、店主に押し付けた。

食べたい具材があるなら好きに買えばいい。

串揚げならどんな食材でも大抵は美味しくなるから。

「アル! イチゴとかどう?」

「うーん、さすがの串揚げでも果物は難しいかな」

実際に食べたことがないし、揚げてみたこともない。

食感も柔らかく酸味もあるので串揚げとの相性はあまり良くはなさそうだ。

「でも、バナナなら美味しくできると思うよ」

「ほんと!?」

近くに陳列されていたバナナを手にしながら言うと、ラーちゃんが目を輝かせる。

果物がお好きなようだ。

「バナナを揚げて美味しくなるんですか?」

「うん、美味しくなるよ。焼きバナナと似たような感じさ」

「……焼きバナナ?」

説明をすると、ロレッタが怪訝な顔をする。

どうやらこちらではバナナを焼いて食する文化が無いらしい。

「恐らく、バナナを焼いたものですよね? なにやらとても美味しそうな料理の気配がします」

メイドとしての立ち振る舞いを意識するのに精一杯だったミーナが、ここだけやけに冷静に食いついてくる。

ラーちゃん、ミーナからの強い要望により、バナナも買うことになった。

スロウレット家の屋敷に戻ったら串揚げとは別に、焼きバナナを作ることになりそうだ。

「野菜に関してはこんな感じかな」

八百屋の裏にはミスフィード家へと送られる木箱が積み上がっていた。

最終的には各々が好きな具材を追加したものだから想像以上に多くなってしまった。

まあ、多くて困ることはないので良しとするか。

「では、お次は精肉店ですね」

野菜系の具材が買い終わったので俺たちはロレッタに案内してもらって精肉店に向かうことに。

「こちらがオススメの精肉店です。左から豚、牛、鶏を専門としております」

八百屋から五分ほど歩くと、ロレッタはメインストリートの中程で止まった。

黒い煉瓦造りの建物が三つほど並んでおり、それぞれのお店が専門的に肉を扱っているようだ。

豚肉店を覗いてみると、業務用冷蔵庫の中に豚肉が陳列されている。品種や部位で丁寧に分けられており、普通の豚肉だけでなく魔物系の豚肉もあった。

専門にしているだけあってかなり種類も豊富だな。

「どの品種になさいますか?」

「じゃあ、黒豚で」

「黒豚? なぜそんなに安い品種なのだ? 赤豚や空豚といったもっと高い品種のものにすればいい」

品種を指定すると、ギデオンが横から口を挟んでくる。

「高ければ美味しいってもんじゃないから」

俺が目指しているのは、あくまで普通の串揚げだ。高級志向の串揚げではない。

それに高級品種の豚なんて調理したことがないことを告げると、ギデオンは釈然としない顔をしたものの引き下がった。

「……部位は?」

「バラとモモとヒレをブロックで」

ぶっきら棒な問いに答えると、店主は冷蔵庫から部位を回収して指定の大きさへとカットしてくれた。

「アル! 豚さんの頭があるよ!」

ラーちゃんが無邪気な表情で陳列されている豚の頭の部位を指さす。

うーん、さすがに串揚げでその部位は使えないかなぁ。