軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゆったりお風呂に

エリックの屋敷に戻り、女性陣が風呂から上がると男性陣はようやく風呂に入る。

昨日と同じように手早く風呂椅子に座ると、魔導具に手をかざして桶にお湯を入れる。

いつもなら即座にお湯をかけるのだが、今日は昨日以上に日焼けをしている可能性がある。

「今日はあんまり痛くないといいな」

「多分今日は大丈夫だよ。僕らは母さんから日焼け止めのクリームを塗ったし」

一応、エルナ母さんに駄々をこねて日焼け止めクリームを塗ってもらったのだが、どれほど効果があるか……。

「でも、今日は昨日よりも長く太陽に晒されていたし、海水のかけ合いとか派手にしたよ?」

「確かにそうだけど僕の顔は昨日よりも赤くないでしょ?」

自分の顔を指しながらそう言うシルヴィオ兄さん。

言われて見てみるとシルヴィオ兄さんの顔は昨日ほど赤くなってはいなかった。というか見れば見るほど整った顔立ちで美少年だなこの野郎。

何となくイラっとしたのでシルヴィオ兄さんの顔や背中にお湯をかけてやる。

「わっ! 何するのさ!」

「日焼け止めクリームが効果を果たしているかの実験。とりあえずシルヴィオ兄さんは問題なさそうだね」

普通日焼けがあるなら、俺の行動に疑問を抱く前に痛いと言うはず。

シルヴィオ兄さんが大丈夫なら俺も大丈夫だろう。

……でも、ちょっと怖いのでお湯に水を足して温くしておこう。これなら仮に痛みはあっても被害は最小限なはず。

念には念を備えた俺は桶をしっかりと持って頭からお湯を被る。

おお、昨日に比べると全く痛くない。

それがわかると今度は水を混ぜずにお湯を入れて、同じようにかける。

すると首の辺りが少しヒリッとしたものの、他の部分はあんまり問題ないようだった。多分首は、汗か海水でクリームが少し流れたか日光が強く当たっていたかだろう。

「おお、さすがはエルナ母さんが高いと言い張る日焼け止め。かなりの効果じゃないか」

「本当だね。これならビクビクしながらお湯を被る必要もないね」

「ふん、日焼け止めが必要などとは軟弱な」

俺達が日焼け止めの素晴らしさを語り合っていると、エリックがかけ湯しながらそう言った。

「そういえばエリックは昨日も今日も日焼けしている様子はないね」

「これしきのもので俺が日焼けなどするものか」

いやいや、その根性論みたいな理由はおかしいけど、エリックやルーナさんはラズール人であるナターシャさんの血を濃く継いでいる。そのお陰で太陽の光には強いのだろう。

「ちっ、エリックが日焼けに弱かったら喜んでお湯をかけたのに」

「俺だって今日こそはお湯をかけてやろうと思っていたのに残念だ」

「さてはお前、昨日の水をかけるという善意は今日への布石だったな!?」

「誰が最初からそんな陰険なことを考えるか。水の腕の仕返しにやってやろうと思っていただけだ」

つまり、水の腕に足を掴まれた後くらいからは利用して考えていたということか。というか昨日のことをまだ根に持っている時点で十分陰険ではないか。

そこは潔く水に流すところだろう。水の腕だけに……。

「まあ、いいや。今日は自分の身体を綺麗にするので精一杯でエリックに構っている余裕はないよ」

「それは俺の台詞だ」

「あはは、今日は僕達姉さに何回も転がされたからね」

そう、エーガルさんのアドバイスのせいで途中からエリノラ姉さんが体術を使い始めたのだ。そのせいか俺やエリック、シルヴィオ兄さんは体よくエリノラ姉さんの練習台となり、何度も浜辺を転がるハメに

なった。

お陰で俺達の身体は砂まみれだ。多少水などで洗い流しはしたが、髪の毛や指、爪の間などの部分にはまだ残っている。

特に髪の毛は強敵だ。毛根に入り込んだ砂を優しく除去しなければならない。

俺達は念入りに頭にお湯をかけて砂を流す。

それから頭髪用の石鹸を泡立てて、優しく髪を洗う。

しばらく無心で洗っていると、退屈になったのかエリックが口を開く。

「しかし、お前の姉はなんなのだ……」

「一応は人間だよ。理不尽な強さを兼ね備えているけど」

「まさかあの姉上が手も足も出ないほどの強さとは」

エリックの気持ちは大体わかる。俺とシルヴィオ兄さんからすれば、エリノラ姉さんやノルド父さんの強さは当たり前だけど、そうでない人からすればかなりの衝撃だと思う。

「あれは別次元の生き物って認識した方がいいよ」

「諦めろとは言えないけど、あまり深く考えない方がいいよ」

これにはシルヴィオ兄さんも同情したらしく、エリックに対して優しい言葉をかける。

「アルフリートの意見はともかく、シルヴィオ殿の言う通りかもしれんな。あれほどの実力を持つ者と稽古ができるのだ。今は落ち込むことなく、挑み続けて己の糧にすればいいだけだな」

こいつ、俺の意見だけ切り捨てやがった。

俺の考え方も決して間違っていないと思うんだけどな。

そう思いながら頭についた泡を流す。

それを三回ほど繰り返すと頭の違和感もなくなったので、手早く身体を洗って湯船へ。

お湯の温度を軽く手で確かめてから、足をゆっくりと入れる。

「あぁ……」

あまりの気持ちよさに渋い声が出てしまう。

疲労で足の裏などがジンジンとしていたが、それはゆっくりとほぐれていく。

ああ、稽古の疲れがお湯に溶けていくかのようだ。

「父上みたいな声を出すな。おっさんくさいぞ」

俺が天井を見ながら心地良さに酔いしれていると、エリックが入ってきた。

俺ってエーガルさんが湯船に入る時のような声を出していたのか? ちょっと突っ込みたい気もするけど、今はお湯の気持ち良さがあるので凄くどうでもいい。

人は幸せでいる時は穏やかな気持ちになれるというもの。金持ち喧嘩せずという言葉の一端を理解できた気がする。

俺が穏やかな気持ちでお湯の温かさを堪能していると、身体を洗い終わったのかシルヴィオ兄さんも入ってきた。

「……ふう」

ちゃぷりと音が鳴り、水面に波紋が広がる。その波紋によるお湯の揺れもまたいい。

俺は湯船の縁に頭と背中を預けながら大きく息を吐く。

「……今日は朝から稽古で疲れた」

「そうだね。僕達は姉さんやルーナさんと違って最後までもたなかったね」

「時間という部分では一般的だが、密度が途轍もなかったな」

何だかんだ言ってシルヴィオ兄さんやエリックも疲れているのか、ため息のような声を出す。

「というかエリックの家では、朝から夕方まで稽古をやることもあるの?」

「毎日ではないが、週に二回くらいはある」

「週に二回も。だから体力があるんだね」

「ただでさえ、体力の削られる浜辺なのによくやるよ」

早朝から夕方までの稽古を週で二回など冗談ではない。もし、うちがそうなったら俺は断固として抗うね。

「騎士を志すのであればこれくらいの稽古は普通だ」

「俺とシルヴィオ兄さんは騎士なんて志していないのに付き合わされているんだけどね」

「あはは、でも、これはこれでいい経験になるから損じゃないよ」

俺がぼそりと呟くとシルヴィオ兄さんが苦笑いしながら励ましてくる。

確かにそうだけど長くて疲れるものは嫌だ。

「でも、明日は半分が魔法の稽古だって言うし、今日ほど疲れることはないね」

「そうか? 俺からすれば魔法は神経を使うから精神的にドッと疲れると思うのだが」

エリックの口ぶりはエリノラ姉さんと似たようなもの。さてはこいつエリノラ姉さんと同じくして魔法が苦手なタイプだな。

「えー、そう? 無駄に身体を使うよりも楽だよ。魔力制御とイメージがしっかりしていれば座っていても寝ていても魔法は発動するし」

「貴様という男は剣を面倒くさがる割に、そういう方面の苦労は一切気にしないのだな。貴様が魔法が上手い理由が少しわかった気がするぞ」

魔法の苦労は幼児の頃に散々経験したからな。

でも、明日はエルナ母さんが厳しく教えると言っていた。

ちょっと苦労するかもしれないけど新しい魔法の使い方も増えるかもしれないし、少しだけ楽しみだな。