軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽な明日へ

「アルフリート君は剣もあれだけできるのに魔法が凄く上手いですよね。やはり小さな頃からエルナ様が指導をしていたのですか?」

俺とエリックの会話を聞いていたのか、ナターシャさんがそのような事を聞いてきた。

正直に言えば、ほとんどが独学でそこまで習ってはいないが、小さな頃からエルナ母さんの魔法を見て、学習して育ったことは確かだし、たまにだがさっきの水球のようにアドバイスもくれる。

それに会話の流れからしてエルナ母さんのお陰だと言わないとマズい気がする。

「はい、小さな頃から母上がご指導をしてくれたお陰です」

「まあ! やはり!」

俺がそう答えると、ナターシャさんが嬉しそうに手を叩く。

しかし、隣で聞いていたエルナ母さんは複雑そうな笑みをしながら、

「え、ええ、でもこの子は魔法が好きで勝手に上手くなった感じだから」

「そんなことはないですよ。アルフリート君がここまで魔法が上手いのはエルナ様が丁寧に教えてあげたからですよ!」

「そ、そうなのかしらねぇ」

エルナ母さんも自分が教えたとは言い張り辛いのか曖昧な表情。

ん? この話の流れは魔法の稽古をしてほしいという流れか?

「あの、よろしければうちの子供達にも魔法を教えてくれませんか? どうも私もエーガルも魔法が苦手なので子供達に上手く教えることができないんです」

おお、どうやら俺の予想が的中したようだ。

どうやらナターシャさんは、エルナ母さんに子供達の魔法の指導をしてもらいたいそうだ。

「私なんかが魔法を教えるなんてとてもできないわよ」

お淑やかに笑いながらやんわりと辞退しようとするエルナ母さん。

その心は美しい謙虚な精神などではなく、単に魔法の指導をするのが面倒だからだろう。

俺やエリノラ姉さん、シルヴィオ兄さんならまだしも、他人の子供を指導するとなればしっかりと見てあげないといけない。

となると付きっ切りになるのは明白で、この炎天下の中長時間外に出ていないといけない。

同じような思考をしているだけに、エルナ母さんが嫌がる理由が手に取るようにわかるな。

「そんなことはありません! ドラゴンすら退けた魔法使い様が何を言っているのですか!」

「魔法を上手く使えることと魔法を上手く教えることは別よ?」

「いえいえ、エルナ様は先程アルフリート様にわかりやすく指導をしていたじゃないですか。あれを聞いていて、エルナ様は魔法を教えるのも上手なのだと確信しました」

立派過ぎる経歴や先程の指導を披露しただけに、それらを否定することは不可能。

言い返すことができなくてエルナ母さんは黙り込む。

ふっ、エルナ母さんもこのようなミスをしてしまうんだな。

「んーでも、今回は剣の合同稽古だしねぇ……」

「どうかしたのかい?」

エルナ母さんが悩んでいると、ちょうどいいタイミングというか間の悪いタイミングというかノルド父さんがやってきた。

「ちょうどいいところに! あのですね、実はエルナ様に子供の魔法の指導を頼んでいるのですけども、合同稽古中に魔法の稽古を入れることってできますか?」

「なるほど魔法の稽古ですか。それは実のところ僕とエーガルさんとで考えていたんですよ。何せこの暑い天候で疲れやすい砂地ですから、剣を一日やるより魔法の稽古も挟んではどうかと」

なるほど、それは素晴らしい。一日稽古をやるよりもほとんど身体を動かさずに済む魔法の稽古の方が楽だ。

「いいね、それ。明日は魔法の稽古も挟もうよ」

俺がそう言った瞬間、エルナ母さんの表情が微かに歪んだがするが気にしない。

明日の剣の稽古が短くなるのであれば、俺は母を犠牲にしてでもそちらへと持っていく。

「シルヴィオ兄さんも一日剣の稽古をやるよりも、途中で魔法の稽古をした方が実りがあると思わない?」

「弱音を言うようだけど、この密度の稽古じゃ一日続けてやるのは難しいかもね。あはは」

うんうん、ただでさえ体力のない俺達が、エリノラ姉さんやルーナさんに混じってぶっ通しでやるというのは無茶だよね。

さて、シルヴィオ兄さんから前向きな意見がもらえたところで次はエリックだ。

「エリックもいいだろ? エルナ母さんほどの魔法使いに魔法を教えてもらえるなんて早々ないよ」

「確かに魔法については俺も伸び悩んでいたのだ。エルナ様さえよければぜひご教授を願いたい」

ぺこりと礼儀正しく頭を下げるエリック。

ナイスだ。さすがにノルド父さんやナターシャさんがいる前で、子供の頼みを無下にすることはできないだろう。

「……わかったわ。私なんかでよければ魔法の指導をさせてもらうわ」

「「ありがとうございます!」」

ナターシャさんとエリックから上がる喜びの声。

それと同時に俺の心の中でも歓声が湧き上がる。

「それじゃ、僕はエーガルとも相談してくるよ」

過半数の賛成やエルナ母さん本人の了承が得られたからだろう。ノルド父さんがエーガルさんと相談するために去っていく。

ふふふふふ、これで明日の半日くらいは魔法の稽古になるはずだ。

エリノラ姉さんは多少文句を言いそうだが、そのようなものはナターシャさんたってのお願いという魔法の言葉を使えば一発だ。

これで明日は今日ほど疲れないことが決定したな。

はぁー、未来が明るいと景色まで晴れやかに見えるな。

青い空と海が一段と綺麗だし心も軽い。

「……アル、明日は厳しくいくわよ?」

「あはは、お手柔らかにお願いね」

エルナ母さんは、それはもう優しい微笑みをしていたが目だけが笑っていなかった。

「よし、今日の稽古はここまでだ」

エリック、シルヴィオ兄さん、エルナ母さん、ナターシャさんと談笑することしばらく。

エーガルさんのそのような声が聞こえてきた。

ふう、今日の稽古はようやく終わりか。まったくもって長かったものだ。

さっさと屋敷に戻って風呂に入り、美味しい夕食を食べさせてもらおう。

そう思いながら起き上がって伸びをする。

すると、その間にシルヴィオ兄さんとエリックは靴を履いて、浜辺へと走っていった。

ええ? 帰るだけだというのにまた集合するの?

「ほら、ボサッとしないでアルも行ってきなさい」

エルナ母さんがそう言ってくるので、俺も仕方なく靴を履いて集合場所へ。

「ふう、久し振りに動いたわね」

「……私はもうくたくた。早く家に戻って風呂に入りたい。そして寝たい」

そこには晴れやかな笑顔を浮かべるエリノラ姉さんと、ボロボロの砂まみれになって疲れ果てた表情をしているルーナさんがいた。

朝から夕方まで剣の稽古をすることができ、ルーナさんというレベルの高い友人がいたお陰かエリノラ姉さんは酷く満足気だ。とはいっても、いい汗をかいたという感じで、ルーナさんのように玉のような汗を浮かべているわけでもなく、疲れ切っている様子ではなかった。

「あら? ルーナがそんなことを言うなんて珍しいわね」

「……ずっと負け続ければそうなる」

最後はエリノラ姉さんとルーナさんだけが残り、ずっと打ち合い稽古をやっていたものな。

負けて負けて負け続ける時間は、かなり体力と精神を摩耗させるから仕方がないだろう。

その苦しみを知っている俺とシルヴィオ兄さんは、ルーナさんに同情の視線を送る。

「……でも、明日こそは一本取る」

「そうこなくっちゃね」

しかし、ルーナさんもエリノラ姉さんと同じ剣バカで、負けず嫌いのせいかこれしきでは全くめげないようだ。

そうですよね。エリノラ姉さんと仲良くやっている友達だもの。同じ剣バカじゃないと務まりませんよねー。

俺がそんなことを思っていると、エーガルさんが「コホン」と咳払い。

それを合図に俺達は居住まいを正してしっかりと話を聞く体勢になった。

人はどうして咳払いだけで、相手が何かを話すと察することができるのか少し不思議だ。

「さて、今日の合同稽古は終わりだ。スロウレット家の諸君は慣れない砂地に苦労し、普段以上に疲労が溜まっていると思うので今日はゆっくりと休むように」

「「はい!」」

ゆっくりと休みを取るのは俺も大賛成なために、ここはきっちりと返事をする。

「それと明日は午後から魔法の稽古も入れることにしたので、そのことを留意しておくように」

「えー? 剣じゃないの?」

ノルド父さんの最後の言葉に、魔法の苦手なエリノラ姉さんが案の定文句の声を上げた。

やはり魔法の稽古が入ってくるのが大層ご不満らしい。

「さすがに今日のような密度で一日剣だけをやるのは厳しいしね。エリノラやルーナ嬢はともかく、アルやシルヴィオ、エリック君はついていけないよ」

「すまんな。俺やナターシャが魔法の稽古をしてほしいとエルナ様に頼んだのだ。少しだけ魔法の稽古の方に時間を分けてくれると嬉しい」

「……わかりました」

さすがにエーガルさんに真正面にそう言われると弱いのか、エリノラ姉さんは納得を上げる。

しかし、その表情はちょっぴり不満そう。

ここでも自慢の外面の良さを発揮して愛想笑いでも浮かべればいいと思うのだが、剣が関わるとそのような態度はとれないらしい。

不器用だと思うが、それがちょっとエリノラ姉さんらしく思えた。

「……ごめん、エリノラ。剣もそうだけど、エルナ様のような魔法使いに魔法を教えて、もらえる機会は滅多にないから魔法も習いたい」

「わかった。文句はないわ」

友人の頼みとあっては文句を言わないことにしたのだろう。エリノラ姉さんが不満そうな表情をひっこめた。

「まあ、稽古の時間を削るわけでもないしね。それにエリノラには魔法戦闘の方もそろそろ教えようと思っていたし」

「本当! 魔法戦闘を教えてくれるの!? やったわ!」

魔法戦闘ができると聞いて、エリノラ姉さんの表情が一気に喜色満面なものになる。

本当に調子がいい姉だよ。まったく。

「それじゃあ、今日は解散だ」

「「ありがとうございました!」」