軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

午前の終わり

風呂から上がると夕食を堪能する。食事が終わると疲れていたので速攻寝室のベッドで眠った。

そして朝日が昇った三日目。

軽く朝食を済ませると俺達は昨日と同じように浜辺へと集まった。

夏に近付いてきたお陰か早朝であっても気温が暖かい。お昼になればもっと暑くなるのだが、昼からは魔法の稽古という楽なものなので昨日よりも心は軽い。

しかし、身体は昨日の疲労が蓄積していたせいか少し重かった。腕とか足とか全体的に筋肉痛だ。

それらはシルヴィオ兄さんやエリックも同じらしく、ウォーミングアップである走り込みで少し表情が苦しそうだった。

時間こそ短くなったものの、これは大変そうだ。

走り込みが終わると、エーガルさんから集合の声がかかるので走って集まる。

「今日は剣の稽古が午前中と短い分、内容を濃くしてしっかりやるぞ」

「やることは同じだけど、昨日言われた反省点をできるだけ改善するよう意識しよう。一日で修正できるものじゃないけど、常に意識しながら戦うことで違ってくるから。それと新しいことを考え付いたらドンドン実践していくように。あくまで稽古だから失敗を恐れないで頑張ってね」

「「はい!」」

エーガルさんとノルド父さんから有難いお言葉を頂くと、今日も名前を呼ばれて順番に打ち合い稽古だ。

「最初はエリックとエリノラ嬢だ」

最初に名前を呼ばれたのはエリックとエリノラ姉さん。

あーあー、いきなりエリノラ姉さんとだなんて可哀想な奴だ。

「……頑張れよ」

「ふん、昨日のように呆気なく負けたりはしない」

憐みを込めた視線をやるもエリックは気にせずに、堂々たる様子で木剣を持って立ち向かう。

おお、昨日の風呂場で吹っ切れたお陰だろうか。エリックの様子が妙に清々しい。

エリックがエリノラ姉さんに勝つことはあり得ないが、もしかしたら今日はいいところまで行くかも――

「ほばあっ!?」

と、思って見守っていたのだがエリックは二合で吹き飛ばされた。

おお、昨日よりも一合多く続いたな。

……エリック、微かにだがお前は成長しているぞ。

俺が微かに頷くと、エリックは砂まみれになりながら何とか身を起こす。

「ど、どうしてあそこから振り下ろしに持っていけるんだ。意味が分からない。普通あんな体勢から剣を振れないだろう」

「振れないじゃない。振るのよ!」

エリックの疑問にきっぱりと言い放つエリノラ姉さん。

いや、エリノラ姉さん、エリックはどうやって振り落としに持っていったか聞きたいのであって、そんな無茶苦茶な精神論は聞いていないと思う。

だけど、そんな考え方で当たり前にできてしまうのがエリノラ姉さんの理不尽な強さだろう。

「振れないではなく……振る?」

「そうよ。最初からできないと決めつけていたらできるわけがないじゃない」

エリノラ姉さん、その言葉は魔法の稽古をしている時にブーメランとして返ってくるけどいいのかなー。

エリックが理不尽な強さと言葉で打ちのめされている間に、視界の端ではシルヴィオ兄さんとルーナさんが戦っており、木剣や盾がぶつかり合うような乾いた音が響いている。

状況からすれば昨日と同じようにルーナさんが柔軟な動きで攻め立て、シルヴィオ兄さんが盾と木剣で防ぎ、隙を伺うといったもの。

確かルーナさんの課題がどれだけ動きを変えて攻め切れるかというもの。逆にシルヴィオ兄さんはルーナさんの変則的な攻撃を防ぎ、隙を見出してカウンター、あるいは盾を上手く使って懐に入るかだ。

昨日何度もルーナさんと戦って、ある程度の経験を積んだシルヴィオ兄さんだが、ルーナさんはそれを越えていくように状況に合わせて新たな攻撃の型を構築している。

さっきからずっと見ているが同じような攻撃パターンがほとんどないな。あったとしてもそれは囮で、微妙にタイミングが違ったり、木剣が襲い掛かる軌道はまったく違う。

エリノラ姉さんのような純粋な速さと力強さも恐ろしいが、同じようなフォームから放たれる剣も恐ろしい。相手がどのような剣を振ってくるか予想できなければ、対処するのは難しいからな。

だが、シルヴィオ兄さんは必死にそれに食らいついている。身体が柔らかく、常人とは違う動きをするルーナさんの動きを必死に見極めて防御している。

ここは致命傷を貰わずに防いで防ぎまくって、相手の隙を伺うつもりなのだろう。

ルーナさんの動きは素早いもののかなり運動量が多い。相手が焦った隙に攻め込むつもりなのだろう。

俺だったらとっくにやられているだろうな。

剣と剣、剣と盾がぶつかり合う音が響く。

攻めているのに攻め切れないでいるルーナさんは少し焦った表情。

それは振るう木剣にも表れたのか、シルヴィオ兄さんへの一撃が大振りになった。

シルヴィオ兄さんはそこを逃さずに、迫りくる木剣を盾で滑らせて懐に入り込む。

「……くっ!」

おお、昨日エーガルさんから教えてもらっていた盾を使った接近術だ。

「いけー、そのままシルヴィオバッシュだ!」

俺がそう叫び声を上げると、シルヴィオ兄さんがそのまま盾を突き出す。

それはルーナさんの胸元へと当たり、大きく吹き飛ぶ――ことはなく、そのままバク転をして勢いを逃した。

多分、盾が胸に当たる前に自ら後ろに飛んで衝撃を逃がしていたのだろうな。

シルヴィオ兄さんとルーナさんの距離は大きく空いて、再び睨み合い。

お互いの課題にマッチしているせいかこの二人は気合入っているなぁ。そんなにハイペースでやったらお昼まで保たなさそうだ。

「次、アルとエリノラだよ」

ボーっとシルヴィオ兄さんとルーナさんの稽古を眺めていると、ノルド父さんが俺を呼んだ。

そちらに視線を向けると不敵な笑みを浮かべながらこっちを見るエリノラ姉さんの姿が。

はぁ……また浜辺を転がるはめになるのか。

俺はため息を吐きながら木剣を持って歩き出す。

早く魔法の稽古の時間にならないだろうか。

「やっと終わった」

午前中の剣の稽古が無事に終わり、身体についた砂を落とした俺は倒れ込むようにシートの上に転がる。

午前中という短い時間しかないので、昨日よりも遥かに楽だろうと思っていたが想像以上にしんどかっ

た。

昨日よりもハイペースで打ち合いを回したし、休憩時間も短い。

エーガルさんが最初に言った通り、時間が短い分密度が上がっていた。

あと一時間、いや三十分ほどでも稽古が続いていれば、俺は今日もノックダウンしていただろう。

「アル、休憩するなら先にご飯を食べてからにしなさい」

シートの上で日陰の心地よさを堪能していると、エルナ母さんが俺の腰をポンポンと叩きながら言った。

正直暑さと疲労であんまり食べる気分でもないが、ご飯をしっかり食べた方がいいし、さっさと食べないと鮮度も落ちるし。

のっそりと起き上がって昨日と同じように座り込む。

すると、ミーナとラルゴが同じように大きなバスケットを持ってきてくれた。

「またサンドイッチか?」

俺が一瞬思ったことをエリックが口に出した。

俺達からすればまたサンドイッチでも大して文句はないが、食べ慣れているエリックからすれば少し不安なのだろう。

するとミーナが振り返って元気よく言い放った。

「いいえ、今日はおにぎりです!」