軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家庭菜園の準備をしよう

一階の談話室で女子会を開いているエルナ母さん。

このまま流れで、奥様方が昼食を一緒にとることは確実なので俺は早めにダイニングルームへと向かって昼食を摂った。

それから一階から避難するように二階へと上がると、ちょうどダイニングルームへと向かうエルナ母さんがいた。

恐らくサーラやバルトロに言って、食事の準備でもさせるのだろう。

危ない危ない。もうちょっと遅ければ、奥様方と一緒に昼食をとるハメになっていた。

俺がそう思いながら階段を上っていると、一階にいるエルナ母さんが呼び止めてくる。

「ちょっといいかしらアル? 手伝ってほしいことがあるのよ?」

「……何?」

「ひとまず降りてきてちょうだい」

「……だから何を手伝うの?」

何を手伝わされもわかっていないのだ。ノコノコと一階に降りるわけにはいかない。

相手はエルナ母さんなのだ。油断してはいけない。

俺が警戒の眼差しを向けていると、エルナ母さんがにっこりと笑い、

「降りてきたらわかるわ」

「いや、ここで言ってくれたらいいじゃん!」

「言葉で言ったら逃げるでしょ?」

「そんな辛くて面倒なことをさせる気なの?」

そんな面倒なことだったら、俺は今すぐ二階に引っ込むね。

「いいから早く降りてきなさい」

「嫌だよ」

俺が面倒くさそうなお手伝いを嫌だとごねていると、エルナ母さんがため息を吐いて、

「この間、エリノラに斬られた人形を直してあげないわよ?」

「くっ! 俺のナイトを人質にとるとは卑怯な!」

そう、エリノラ姉さんによって首をはねられてデュラハンとなったナイト。

その壊れようは酷く、簡単な裁縫しかできない俺が直すには力不足だったのだ。

エルナ母さんの方が綺麗に修復をできるとのことなので、ナイトの身柄はエルナ母さんの下に渡っているのである。

ナイトを人質にされている俺は、大人しく一階へと降りる。

「ちょっとこっちに来て」

それからエルナ母さんが玄関へと向かって手招きする。

あれ? てっきりミュラさんやドロテアさんと一緒に食事をするとか、バルトロと一緒にお菓子を作らせるとかそんな面倒なことだと思っていたのだが……一体外に出て何をさせるというのか。

疑問に思いながらも、俺は外靴に履き替えて中庭へと出る。

それからトコトコとエルナ母さんの後ろをついていくと、中庭のある場所でエルナ母さんが止まった。

そこでは何かを測量したのか、囲むように棒が地面に刺さっている。

一体ここで何をするのかと問いかけると、エルナ母さんが口を開く。

「ここに小さな畑を作ろうと思うのよ。だから、アル。お庭の雑草抜きをお願いね」

「雑草抜き? どうして俺がこんな事を? バルトロかミーナにでもやらせればいいじゃないか」

「土をいじるのに平民も貴族も関係ないんでしょう?」

くっ! 俺がトールの家の畑を手伝った時の台詞が親を通じて知らされている。

トールのお母様ったら余計な事を……っ!

……これが女子会の恐ろしさというやつか。

何げなく言った言葉が回り回って自らの首を苦しめることになるとは。

「何でも土魔法で雑草を速く抜いたり、鍬をサイキックで動かして耕したりできるそうじゃないの。バルトロ達にさせるよりアルにさせた方が断然早いわ」

「そうだけどね」

屈んで腰の痛みに堪えながらチマチマ抜くよりも、魔法でパパっと抜いたほうが早いに決まっている。

頷く俺にエルナ母さんが言葉を投げかける。

「中庭で家庭菜園っていいと思わないかしら?」

家庭菜園。家の庭などで自由に野菜などを育てることだ。

何となくこの単語を聞くと、すごくスローライフ的なのんびりとした雰囲気を感じる。朝起きて、自分の植えた野菜の成長を楽しむ。悪くない生活だ。

「まあ、コリアット村に行けば新鮮な野菜はいつでも手に入るけど、屋敷の庭で育てるのも悪くないね」

「でしょ?」

「このまま継続的に俺が育てるようなことにならなければ……」

「バルトロの好きな作物も植えるようだし問題ないわ。基本的に面倒はバルトロが見るそうよ? 私達はたまに手を貸せばいいだけよ?」

警戒心の言葉を投げる俺に対し、エルナ母さんが心配無用とばかりに頷く。

どうやらいつも通り、あの手この手を使って自分が楽をできるように交渉したらしい。

ふむ、たまに魔法で雑草を抜いてあげたり、収穫を手伝ってあげたりする程度だろう。

そのくらいの労力で家庭菜園を楽しめるというのならば安いものだ。

学生の頃にも野菜を育てたことはあったけど、世話をするのが面倒だったんだよな。

俺は毎日顔を出して、今日も葉っぱが大きくなっているとか実が膨らんでいるとか確認するだけがいいと思っていたんだ。

今回はその願望にピッタリの条件だな。

「仕方がないね。それなら手伝うよ。ナイトの修復もよろしくね」

「ええ、任せておきなさい。私が綺麗に直しておくわ」

俺とエルナ母さんは握手をして笑い合う。

きっとエルナ母さんの方が、凄い楽をしているのだろうな。そんな気がした。

「よし、それじゃあ早速やるよ」

「ミュラさんから聞いていたけど、土魔法で雑草を抜くってどうやるのかしら? 興味があるわ」

「こうやって雑草の生えている場所だけを隆起させるんだよ……ほら」

興味深そうな声を上げるエルナ母さんに、俺は早速とばかりに魔法を見せる。

すると、俺の目の前に生えていた雑草がニョキニョキと芽を出すかのように掘り起こされた。

「……相変わらず器用なことをする子ね。そんな小さな土の範囲を個別に選択しながら、一斉に隆起させるなんて……」

まあ、雑草の根っこに纏わりついている土さえ動かしてしまえば簡単に起き上がってくるので、それほど難しくはないと思うのだが。

「……それに何というか……見ていて可愛らしいわね」

「でしょ? なんか起き上がってくる姿が生き物みたいで可愛らしいよね?」

さすがはエルナ母さんわかっている。

トールなんて可愛らしい雑草たちを見て、気持ち悪いとか言いやがるからな。

しばらくは俺が雑草を隆起させて、エルナ母さんが屈んでそれを眺めるという平和な時間が流れる。

「……エルナ母さん、ミュラさんとドロテアさんを放っておいていいの?」

「そうだったわ。起き上がってくる雑草を見ていたらついボーっとしちゃったわ。それじゃあ、この棒を立てた範囲の雑草を抜いて耕しておいてね」

俺の言葉にハッと我に返ったエルナ母さんが、屋敷へと戻っていった。