軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婦人会ではなく女子会

「はー……やっぱり平原での寝転がるのは最高だな」

屋敷から少し離れた場所にある平原にて。仰向けに寝転がっている俺はホッと息を吐くように呟く。

朝食を終えた朝。この世界で生きている誰もが今日の仕事を開始しようと動き出す時間だ。

世界中の人々が慌ただしく動き始める中、俺はこうして青い空を見上げながら草原で寝転がっている。

人々が今日も労働に勤しむ中、こうして朝の二度寝を貪ることの何と素晴らしいことか。

澄み渡る青い空。ポカポカと気持ちのいい太陽。辺りを飛び交う鳥達のさえずりや、そよ風に吹かれて鳴る葉音が心地いい。

ここにある自然全てが、俺を眠りへと誘ってくれているかのようだ。

この広い草原に人間は誰もおらず、俺というたった一人の人間が寝転がっているのみ。

こうして寝転がっているとこの世界には俺一人しかいないんじゃないだろうかという気持ちさえする。

「さて、今日はお昼まで眠るとするかな……」

今日は特に予定もないので自由だ。今日は存分に朝から惰眠を貪ろう。

そしてお腹が空いたら起きて、バルトロの作ってくれたご飯を食べたら、また寝ようかな……。

眠りの底へと落ちていた意識がふわりと浮上する。

目を開けるとお昼になっているせいか、太陽が真上へと来ていた。

視界を襲う太陽の光の眩しさに、俺は目を細めながら呟く。

「……お腹が空いた」

もうお昼なのだから当然だろう。

今日の朝は草原の上で眠っていただけなのだが、俺の身体はエネルギーを欲していた。

俺のお腹からキュウと可愛らしい空腹を訴える音がする。

大人である前世ならば、朝二度寝をしただけではここまで空腹を感じなかった気がする。これが若き子供の代謝というやつだろうか。

目を何度か瞬きさせて、太陽の光に慣れた俺は立ち上がって、屋敷から少し離れた道を想像する。

「転移!」

そして、己の身体を魔力で包み込んで空間魔法の転移を発動させた。

一瞬で切り替わる周りの風景。一瞬の浮遊感を味わうと、俺の前にある景色は見慣れたスロウレット家の屋敷と一本道だった。

「空間魔法があれば、帰り道の労力や時間を気にする必要もないから最高だよ」

俺は空間魔法を授けてくれた神様に感謝をしながら、軽い足取りで屋敷へと戻る。

今日は朝から気持ちよく二度寝ができたので元気いっぱいだ。

「アルフリート様。お帰りなさいませ」

「ただいまー」

屋敷の前にある門をくぐると、屋敷へと至る道を箒で掃いているサーラが声をかけてくれた。

今日も勤勉に働いてくれているようだ。

「アルフリート様、エルナ様が呼んでおりましたので一階の談話室に行ってください」

談話室? いつもならリビングやダイニングルームなのに、どうして談話室なのだろうか。

俺が首を傾げていると、サーラが補足するように説明してくれる。

「ミュラ様やドロテア様がいらっしているようです」

なるほど、客人が来ているのならば納得だ。

どうせ、いつもお世話になっているから顔を見せておけということだろう。

「わかったよ。ありがとう」

サーラに軽く礼を言った俺は、トコトコと歩いて屋敷へと戻る。

玄関に入ると靴の棚に見知らぬ女性用の靴が入っており、用意してあるスリッパが二つ減っていた。

トン吉とピョン吉がなくなっている。

ミュラさんとドロテアさんのどっちが、そのスリッパを履いたのだろうか。

何て想像をしながら、俺は一階の奥にある談話室へと向かう。

談話室へと近付くと、微かに女性の笑い声が聞こえてきた。

この部屋の中でトールの母さんであるミュラさんや、アスモの母さんであるドロテアさん。そして、俺ことアルフリートの母であるエルナ母さんがいるのか……。

「……何という魔境だろうか」

一体中でどのような会話がなされているのだろうか。

聞きたいようで怖いような気がする。

とは、いえここで盗み聞きをするわけにもいかないし、さっさと入って挨拶をしてしまおう。

俺は談話室の扉を軽くノックする。

「母上、ミュラさんとドロテアさんにご挨拶したく参りました」

「「「…………」」」

俺が声をあげた瞬間、談話室から楽しげな声が途切れる。

いかにも会話を中断させたこの感じ。ちょっと苦手だ。

「……今の声はアルフリート様ですか?」

「いつもとは全然違う声ですね?」

「…………」

ボソボソと聞こえるミュラさんとドロテアさんの不思議そうな声。

そして何故か黙り込むエルナ母さん。

早く入室を促す声をかけて欲しい。

「……えっと、エルナ様。多分、アルフリート様ですよ? 声をかけてあげないのですか?」

「そ、そうね。アル、入っていいわよ」

エルナ母さんってば、一瞬俺だと気付かなかったな。

「失礼します」

そんなことを思いながら、俺は丁寧に扉を開けて談話室の中に入る。

客人を迎えることの多い談話室は、リビングやダイニングと違って見栄えのいい家具や調度品が多い。

奮発して買った高級ソファーにはミュラさんとドロテアさんが並んで座り、対面にはエルナ母さんが腰かけていた。三人とも綺麗に足を並べて、優雅に紅茶やクッキーを摘まんでいるようだ。

三人の気分はいかにも貴族の婦人会といったところだろうか。

「こんにちは、ミュラさん、ドロテアさん」

「こんにちはアルフリート様。お邪魔しております」

俺が挨拶をすると、ミュラさんとドロテアさんが揃って軽く頭を下げる。

なんだろう。いつもは子供を叱りつけたりしている母親二人だが、こうやって談話室で丁寧に挨拶をしていると本当に貴族のように思えてくるな。

「いつもうちのアルがお世話になってごめんなさいね」

「いえいえ、こちらこそ。うちの愚息がご迷惑をかけているようで、こちらとしては本当に申し訳ないで

す」

「王都からお土産も頂きましたし、本当にありがとうございます」

俺の挨拶が軽く済むと、今度は奥様方の謙虚な言葉が飛び交うようになる。

互いに身内を低く言うものだから、最初に愚息と言われているトールなどはドンドンと酷い言われようになっている。

それから一通りのお礼の言葉が終わると、エルナ母さんが苦笑いをしながら言う。

「アル、今日はミュラさんとドロテアさんがいらっしゃるって言ってたでしょ? 今日はどこにいたの?」

「ああ、そう言えば今日は婦人会があるって――」

「「「婦人会じゃないわ。女子会よ」」」

俺が思い出すように呟いた言葉を即座に否定する三つの声。

皆さんにこやかな笑顔をしているが目が全く笑っていない。それに声がガチだ。

「失礼いたしました女子会ですね」

俺が慌てて言い直すと、三人はにこやかに笑いながら鷹揚に頷いた。

女性からすれば、いくら年をとっても女子会なのですね。

「私がいては邪魔でしょうし、私はこの辺で失礼いたしますね。トール君やアスモ君によろしく言っておいてください」

地雷を踏んで空気が悪くなったので、俺は適当な言い訳をして退出の旨を告げる。

子供とはいえ、俺は貴族なのだ。女性だけで話したいことの方が多いだろうし、いたら邪魔だな。

「こちらこそうちの愚息達をよろしくお願いしますね」

俺は二人の声を聞いてから、ゆっくりと退出する。

「アルフリート様って、ああいう真面目なやり取りもできるんですね」

そして、扉を閉める間際にドロテアさんの感心したような声が微かに聞こえた。