作品タイトル不明
26話.クレハとの邂逅②
「いらっしゃい二人とも」
「お邪魔するわね」
「お邪魔致します」
玄関に行くと、私服姿の二人が待っていた。
リーシャさんはカジュアルな見た目で、今風の女の子って感じだけど……紅葉さんがなんと着物である。
「あ、やっぱりおかしいですか? 御爺様が、男性の家に行くなら着物だろう! と仰いまして……」
ああ、うん。間違ってはいないのかもしれないけれど、決して友人の家に気軽に遊びに行く服装ではないと思う。
多分だけど、お爺さんは勘違いしているんじゃないかな。
その、商談相手とか、お得意様の人の家に行くのと。
「う、ううん、似合ってるよ紅葉さん」
なーんて言えるわけもないので、お世辞ではなく本心だけど、伝えておく。
「本当ですか? 嬉しいです」
はにかむ紅葉さんがとても可愛い。
「むぅ。私も着物にすれば良かったかしら……?」
なんてリーシャさんが言うけれど、リーシャさんはなんというか、和風より洋風が似合ってると思う。
「リーシャさんはその姿が似合ってると思うよ?」
「そ、そう? ありがとう」
なんて頬を少し赤く染めたリーシャさん。
今日も推し達がとてつもなく可愛い。
「おにい、さりげなく二人共褒める、100点……!」
「流石兄貴だぜ……!」
「……咲ちゃん拓君、何してるの?」
「「んひぃっ!?」」
あれ、部屋に戻ったはずの二人が廊下に居た。
顔だけ出していたようだけど、リーシャさんに見つかっている。
凄いな、俺には全く分からなかった。
「あ、あはは! いらっしゃいおねえ、西園寺さん! ゆっくりしていってね!」
「そ、そうそう! 俺達はお邪魔にならないようにしておくからさ! 一時撤退だ姉貴!」
「合点!」
「あ……」
走り去っていく二人を、唖然と見送るリーシャさん。
何やってるんだあの二人は。
「その、騒がしい妹と弟でごめんよ。悪気はないから……」
「ふふ、気にしていないわ」
「リーシャさん、すでに玲央さんの家族から受け入れられていますね。一歩リードされているという事ですか」
「ふふん、私達は一緒にスマホも買いに行った仲よ」
「ぐっ……それは、知っておりますが……!」
何を張り合っているのか分からないけれど、そのスマホをプレゼントしてくれたの紅葉さんですけど。
二人を俺の部屋へと案内する。
ただでさえ女の子を部屋に入れるなんて緊張するのに、とてつもない美女であり推し達である。
心臓がすでに限界を迎えそうである、助けてマカえもん。
「それじゃ、買ってきたお菓子を色々出しますね」
「待ちなさい紅葉、それは後で。まずは先に貴女の話よ。お菓子を食べながらリラックスして話す内容じゃないでしょ?」
「それは、そうですね」
もっともな意見である。
さて、ここからが大事である。
紅葉さんの事を話すにはクレハさんの事を話す事になる。
そして、クレハさんの事を話すという事は、マカロンの事を話すという事である。
再認識として、魔王とはこの世界で憎むべき敵である。
この国、いや他国含めた全種族共通の敵なのである。
紅葉さんは 矛(ほこ) を収めてくれたけれど、果たしてリーシャさんも収めてくれるだろうか……?
信じるしかない。俺の推しを……いや、友達のリーシャさんを。
「おいで、マカロン」
「にゃー」
「あら、マカロンちゃん……?」
リーシャさんも、勿論マカロン(猫形態)とはすでに会っている。
「早速で悪いけど……人型に戻って貰って良いかなマカロン」
「うむ」
「なっ!?」
「お久しぶりですマカロンさん」
「嬢ちゃんとクレハも久しぶりだな。息災そうで何よりだ」
「なっ……なっ……」
リーシャさんが陸に上がった魚のように、口をパクパクさせてしまっている。
まぁ、そうなるよね。
「まずは名乗ろう。私は『魔王』……ニグルメウム・メルギトス・マカロンである」
「魔王ッ……!」
咄嗟に後ろに下がり、どこから取り出したのか剣を一瞬で構えるリーシャさん。
「ま、待って待って! 落ち着いてリーシャさん!」
「そうです! 落ち着いてくださいリーシャさん!」
「どうして止めるの玲央君! 紅葉まで! 奴は、魔王なのよ!? 私達の、敵なのよ!」
うん、その対応がこの世界では当たり前である。
すぐに矛を収めてくれた紅葉さんが例外なのだ。
「ふむ、人間……ではなく、ハイエルフか。ハイエルフは敵意の無い者にも剣を向けるのか?」
「それはっ……! でも、貴女のせいで……!」
「それについては、こちらにも言える事。お前達は、我が魔族の子らを殺していないのか?」
「っ!!」
どちらから始まったのか、もはや定かではない魔族との抗争。
一つ言えるのは、もうどちらも多くの死者を出しているという事。
「私は『魔王』であり、神輿のような物だ。私はな、人間達の住む大陸に興味などない」
「なっ……!?」
「だが、先代までの魔王達や、それに殉じて死んでいった者達を思わぬわけではない。故に、私は手を出さない。だが、残された魔族達に命ずる事も無い。好きにせよ、そう言っているのだ」
「「「……」」」
マカロンの気持ちも、考えも、分からないわけじゃない。
魔族だって、人間達に恨みを抱える者達は沢山いるだろう。
戦争は、恨みや憎しみだけが増える。
「……ここで貴女を殺しても、大勢に影響は出ないという事ね」
「そういう事になるな」
「分かったわ。今は、剣を収めてあげる。先に、話を聞きたいから。それで良いでしょう玲央君、紅葉。だからもう腕を離して良いわよ」
両腕を抑え込んでいた俺達は、ゆっくりとリーシャさんの腕を開放する。
リーシャさんは言葉の通り、剣をどこかへ仕舞ってくれた。
「では、話すとしよう」
それからマカロンは、俺とマカロンがこの世界の元からの住人ではないという事を上手く省いて、説明してくれた。
クレハさんの事と、紅葉さんの身に起こっていた事を。
「成程ね……。長くあった疑問が、綺麗に晴れたわ。それじゃ、藤堂先生に呪いを掛けた魔将の妹がクレハで、紅葉と共に意識があるって事なのね」
「……ええ、良いですよ。その通り☆ マジゴメンネ☆ ウチの兄って硬派っていうの? もうバリカタだったんだよね☆ 前魔王もウチの命捧げるとかマジフザケンナって感じだし☆」
「……」
うぉぉぉ!! 見た目が紅葉さんなのに、すっごいきゃぴきゃぴした声のギャップが凄くて脳がバグりそうになるぅ!!
「貴女が紅葉の中に居るクレハなのね」
「そうだよ☆ 魔王様の忠実なる 下僕(しもべ) 、魔将クレハ☆ お見知りおきを☆」
「……というわけなんです」
あ、戻った。うう、紅葉さんのままクレハさんを見るのは正直つらいものがあるな……。
「……大変なのね、紅葉」
「ぐすっ……分かって頂けますかリーシャさん……!」
「ええ。とてもよく分かるわ。私じゃきっと耐えられない。凄いわね紅葉」
「うぅ、リーシャさん……」
泣くほど!?
いや、気持ちは分かる気はするけど。
陽と陰は適度なら良いけど、交じり合うとどちらかが消える定めなのだ。
強烈な光は影を消してしまうし、強烈な闇は光を消してしまう。
……そんな壮大な話だったろうか?
「ふむ、このままでは嬢ちゃんが色々と不味そうなのは分かった。ならば、早めにクレハの肉体を創るとするか」
「「「!!」」」
「見た所、嬢ちゃんに呪いの副作用はもう無い。魂の欠如は私の方で問題なく増幅してやれる。だが、肝心の肉体創造には元となる素材が必要だ」
「人工じゃないダンジョンに行く必要があるって事だね」
「うむ」
「「!!」」
藤堂先生の呪いを移すアイテムの素材集めも行かなきゃならないし、いつかは行く予定だったからね。
「それじゃ、早速行……」
「分かりました。着替えますね」
「待ちなさい紅葉! ここ玲央君の部屋!」
「あっ……。そうでした、リーシャさんにマカロンさんが居るので、つい」
つい、で男の俺が居る場所で着替えようとしないで貰えますか!?
「えっと、俺が部屋から出ておくから、着替えが終わったら呼んでくれるかな?」
「すみません玲央さん」
「良いから良いから」
自分の部屋から出て、ドアを背に座り込む。
見たかったような、そうでもないような。
「ほう、嬢ちゃん達も良い体しておるな」
「あんまりマジマジと見ないでくれるかしら?」
「きゃっ!? も、揉まないでくださいっ!」
「弾力もあるし、安産型だな嬢ちゃん!」
「セクハラよマカロン!」
扉を挟んだ向こうで凄い会話が聞こえてくる。
そうか、紅葉さんは安産型か。
子供は何人……ってダメだろ俺! 煩悩退散煩悩退散……!
「そういえば、貴女はどうするの?」
「ふむ、そうだな。場所だけ教え家に居ても良いが……面白そうだ、ついていこう」
え? マカロン(魔王)も来るの……?