作品タイトル不明
103話.学年対抗戦・vs二年生⑥
『今年の一年生はとんでもないですね……まさかフィールドを利用するなんて……』
『へっ……戦場じゃ周りの状況全てを利用しなきゃなんねぇからな。良い訓練だぜ』
『にしても、氷の壁で後方からの攻撃を防いで、森をあえて燃やして下がる選択肢を消させて、短期戦に持ち込むなんて……』
『ああ、良い機転だな。長期戦になればキングを守りながら戦う烈火が不利だったろう。更に相手はアサシンだからな、一度下がられれば剛毅を失った以上、守り切れる可能性は低い。それを瞬時に悟った烈火は短期戦に出たわけだ』
『大事な事なので二回言いますけど、今年の一年生はとんでもないですね……』
『ククッ……それを言うのはまだ早ぇな』
『えっ……?』
『玲央が映ってるモニターを見てみな。あいつ、おもしれぇ事を企んでやがる』
『!!』
なんとか二年生側の森の奥へと到達した。
二年生の多くの部隊はこちらのキング側に向かっているはず。
恐らく守備に残っているのは、二年生レッド・ガード最強の 守護神(ナイト) 、エルンスト先輩。
守りだけで言えば、二年生最強の先輩だ。
攻撃手段も最低限は有していて、戦えないわけでは無いのが厄介な所だ。
……居た。
やはり、千鶴先輩とエルンスト先輩が一緒に居る。
攻撃部隊にポーンが四人、ビショップが二人、ルークが二人、更にクイーンを含めた九人はここには居ないはずだ。
守りは最低限に……あれ? ナイトが一人しか居ない?
「その紋章、ポーンか。アサシンでもないお主が奇襲か? 今年の一年は優秀だと聞いたのだが、浅はかだな」
「!?」
しまった……!
千鶴先輩を守るのはナイトの二人。
だというのに、千鶴先輩の横にはエルンスト先輩しか居ない事に違和感を抱くべきだった!
「砕けろっ!」
「くっ……!」
ドゴオオオオオンッ!!
「むっ……これを避けるか」
あっぶないっ……!
ぺしゃんこになるところだった!
なんていう馬鹿力だ!
でも、俺はこの人と戦うつもりはないっ……!
「何……?」
背を向けて走り出す俺にあっけを取られているのだろう。
良いぞ、そのまま見逃してくれたら助かる!
俺は急いで森を抜ける為に全力で走る。
「今の音は……リシャール君?」
「本郷嬢。敵が居たのだが、何故か向こうに走って行ってな」
「!! あれは榊君!? いけません、彼を追ってリシャール君!」
「!?」
「彼は無策でこんな場所まで一人で来るような人ではありません! 何か策を成すつもりです! 止めるんです!」
「!! 了解したっ!」
ぐっ……!
流石千鶴先輩、見逃してはくれないかっ……!
凄まじい速度で追いかけてくるリシャールと呼ばれた先輩の気配を感じる。
けど、俺だって伊達に鍛えてきたわけじゃない!
「追いついたぞ!」
「っ!!」
ですよねー! 俺の速度なんて一般人に毛が生えたようなものですからー!
森を抜けて、目標地点まであと少しという所で、リシャール先輩が俺を超えて前に立ちはだかる。
まともに戦って勝機はない。
陽葵先輩と違って、油断もしてくれないだろう。
「正直に言うが、俺にはお主の実力は分からぬ。だが……あの本郷嬢がお主を認めているようだからな。俺も手は抜かんぞ」
「……」
油断なく構えを取るリシャール先輩。
あの槍は、普通の槍ではなく、大剣と同じく重量級の槍、剛槍と呼ばれる部類のものだ。
小回りは効かないが、一撃の威力に特化した武器。
直撃を受ければ、俺なんて一撃で戦闘不能だ。
だからこそ……懐に入れば、勝機はあるっ!
「うぉぉぉっ!!」
「ほう! その勇気は認めよう! ぬぅぅんっ!!」
「そこだぁっ! くっ……」
「なんと……!」
凄まじい槍の突きを、"魔眼"で魔力の流れを読んで避ける。
振るわれた槍の直撃こそ避けたが、その風が俺の体の自由を奪う。
俺はあえてその風に逆らわず、そのまま吹き飛ばされる。
「よしっ……!」
距離を取れた! このまま前へっ……!
「何を企んでいるのか知らぬが、させぬっ……!」
猛スピードで追いかけてくる! ダメだ、追いつかれる……!
「取ったぞっ……!」
「!!」
その槍を、もう受けるしかないと思ったタイミングで。
「フ……お前の相手は、この俺だ」
「何っ……!?」
リシャール先輩の放った槍を剣で打ち払うその姿は。
「玲央、ここは俺に任せて先に行け」
「美樹也……!」
いつも通りカッコいいポーズを取っている、氷王と呼ばれる美樹也だった。
作戦通り、追いかけてきてくれた!
「青い髪に透き通るような氷剣を扱う、北中の氷王か」
「フ……玲央を追いたければ、この俺を倒してからにするんだな」
「承知。そうさせてもらおう……!」
美樹也とリシャール先輩が対峙する。
今のうちに俺は二年生の開始地点へと走る。
最初から、今回の戦いでは俺を戦力外として考えていた。
ゲームの一週目であれば負けイベントに等しい難易度だ。
二年生は強い。それも今回は千鶴先輩まで居る。
だけど……俺は今年の一年生が負けるとは思わない。
単体で見ても、俺は一年生がすでに上回っているとさえ思っている。
身内贔屓かもしれないけど……皆の負ける姿が想像できないんだ。
そんな中で、俺という戦力外を、戦力に出来たら。
そう……この戦いのシステムを利用する。
ポーンやナイトといったクラスから分かるように、このシステムは元の世界のチェスを基準にして創られている。
そして……俺はポーンのクラスだ。
ポーンは、条件を満たせばプロモーション……クラスチェンジする事が出来る。
その条件こそが……相手の陣地の最奥へ到達する事だ!
「着いたっ……!」
目標地点に到達と同時に、システムウインドウが現れる。
俺はそのウインドウから、『ルーク』を選択する。
両肩の紋章が、『ポーン』のものから『ルーク』のものへと変化する。
何故『クイーン』ではないのか。
それは、『ルーク』のみが扱える特殊ルールがあるからだ。
「ルークの権限を持って命ずる。我がキングとナイトを『テレポート』する!」
光が現れ、目の前に紅葉さんと烈火が現れる。
チェスのキャスリングの位置交換にちなんだ特殊ルールで、相手陣地に辿り着いたルークのみが行える味方召喚のようなものである。
「おう玲央! 上手くいったんだな!」
「玲央さん!」
「二人とも! あれ、剛毅は?」
「ごめんなさい、私を守って……」
「そっか、流石剛毅だね」
あの剛毅が紋章を失う程の相手なら、恐らくレッド・ガードの一人だろう。
本当は烈火と剛毅、それに美樹也と俺の四人のナイトとルークで攻めたかったけれど、仕方ない。
「へへっ……玲央、今回は一緒に戦えんだな?」
「うん、この先で美樹也が戦ってくれてる! 加勢に行くよ!」
「おう!」
「紅葉さん、危険だけど、一緒に!」
「はいっ! どこまでもお供します玲央さん!」
さぁ、これで決着をつける!