作品タイトル不明
第二王妃の仕掛け 3
王妃が完全に国政を掌握するまで、婚姻からさほどの時間を要さなかった。
というのも、婚姻前から体調を崩しがちだった陛下は、第一子の懐妊より早く伏せがちになったためだ。
新婚当時からアリアドネは政務のほとんどを肩代わりすることになり、妊娠中も大きなお腹を抱えて働き、産後すぐに復帰するという日々だった。
お陰で貴族家の多くから支持を得られたため、決して無駄ではなかったが、身体的にはかなりギリギリだったと言える。
生家から子育てのための助っ人が多数来てくれなければ、とても乗り越えられなかった。
息子の元婚約者だった若く美しい令嬢を娶りながら、子作り以外の役目を果たせない陛下は、少しずつ権威を失っていく。
表立っては誰も言わないが、アリアドネが功績を上げるたび、陛下にはどこか白けた目が向けられた。
成長した第一王子は、王妃と重鎮たち全員の賛同を得、七歳で立太子した。
年齢以上に聡明で沈着、王妃によく似た王子が次期国王であることに、誰一人異を唱えることはなかった。
二十代半ばという花の盛りのアリアドネは、元々の美貌に色気や艶やかさが加わり、国内外の異性の目を釘づけにしている。
そんなある日、アリアドネは医務官を伴って陛下の寝室を訪ねた。
医務官が調合のため衝立のあちら側に姿を隠してから、ゆったりとした仕草で夫のベッドの横に腰を下ろす。
今日は珍しく意識がはっきりしているようだが、普段は強い鎮痛薬のため朦朧としていることが多い。
元々の持病が悪化し、すでに手の施しようがないのだ。
意識はあっても、強い薬が喉を傷つけてしまい、一年前からは声を発することもできなくなった。
「ご機嫌いかが、陛下。ふふ、お久しぶりですわね」
組んだ太ももに肘をつき、アリアドネは妖艶に微笑む。
婚姻して子を三人産み、多忙すぎる毎日を送っていても、彼女の美貌は凄みを増すばかり。
病で窶れ、年齢よりも老いて見える陛下の額を撫で、どこか壊れたように彼女は微笑み続けた。
ドミニクに請われたあの時、アリアドネは彼の最も強い刃になると決めた。
そのためだけに続いてきたし、これからも続き続ける。
あの時に 見(・) 逃(・) し(・) て(・) や(・) っ(・) た(・) 有象無象は、今やアリアドネの手足として調教済み。抵抗する者は、さっさと切り捨てた。
絶大な支持を得るアリアドネに歯向かう者など、彼女自身がどうこうせずとも忖度により誰かしらが片づける。
宰相子息は、毒杯を賜る身分すらなかったが、異国の奴隷商により男娼に落とされた。
身請けを禁じたため、使い物にならなくなれば放り捨てられるだろう。
北の砦に出向した伯爵令息は、結局親心を出した元騎士団長の援助が発覚したため、一家揃って隣国の皇太子に差し上げた。
あちらでは盲目かつ生殖機能を失った者にしか許されない役割があるらしいので。
男爵令嬢は無給の娼婦として鉱山にいたが、キリのいいところで王立薬学所に身元を引き渡した。
民のため、日夜薬の開発に励む優秀な研究員たちには、治験ができると大層感謝された。長く頑張ってほしい。
その他諸々、家門ごとのペナルティを下したり慈悲を与えたりしつつ、概ね手を尽くしたところだ。
ドミニクの気持ちが少しでも解放されればよいと思いつつ、アリアドネは夫に微笑む。
「陛下とお話しておこうと思いましたのよ。〝秘毒の裏話〟とか、ね」
ぴく、とわずかに頬が引きつったのを見て、アリアドネは一層笑みを深くした。