軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二王妃の仕掛け 2

「陛下のご容態は、そんなに悪いのか」

披露目が終わり、夜会までの合間に私室で子供たちの相手をするドミニクの問いに、アリアドネは侍従を振り返った。

公爵家から連れて来た侍従は、わずかに言葉を躊躇う。

「薬の影響が強く、眠られている時間が多くおありです」

「そうか……よほど、痛みが強いのだな。鎮痛作用のある香を贈ろう。医務官に伝えておいてくれ」

「承知いたしました」

体調を崩しがちになった陛下に代わり、数年前から国政を主に担うのはアリアドネだ。

多忙なため、子作り以外は夫となった人とも関わりが薄い。

本人は頓着していないが、それではよくないと周囲が気を回しているものの、いかんせん忙しい。

子供たちとの時間すら、滅多に取れないほどだ。

王妃の多忙さや過酷さを知る貴族家当主たちは、概ね彼女に協力的だった。

一番の義務である子を三人も産んだことで、今やアリアドネの地位は磐石だ。

そのアリアドネはというと、ドミニクと侍従のやり取りにもさほどの興味がないようで、我が子たちをあやすばかり。

侍女たちも、慣れた様子で彼女を補佐していた。

「アリー。そろそろ時間だ」

「まあ、そうね。子供たちをお願いね」

侍女や乳母たちに子を預けたアリアドネが、ドミニクの差し出した手を取る。

何の未練もなく背を向ける様子は、冷たくも見えるのだけれど。

「わたくしは、長くは共にはいられないものね」

第二妃として嫁いだアリアドネは、位としては側妃に準ずる。

年齢差のある夫がいなくなれば、自動的に返上すべき地位である。

もちろん、アリアドネの功績は彼女のその後を華々しく飾るだろうが、形式として王宮を去らねばならない。

次期国王である第一王子が成人し、王位に就いた後も戻ることはないだろう。

傀儡の王にしないため、いずれ離れるアリアドネにできるのは、御子に教育を施すことだけだ。

幸い、現在の王宮には王妃に好意的な者が多い。このままならば、まっすぐに育つだろう。

「一日も長く生きていただかなければね」

「……寂しい?」

「さみしい?」

同じ言葉を繰り返し、アリアドネがきょとりとドミニクを見上げた。

思ってもみない、想定外のことを問われたとでも言いたげに。

「なぜ?」

「……何でもない」

「わたくしは忘れていないわよ、ドニー」

いつかと同じ言葉。ドミニクは、知らず息を呑んだ。

まだ終わっていないと、不敵に笑った妹の姿を、昨日のことのように思い出せる。

彼らに類するすべてが敵だと言い切ったアリアドネが、どこからどこまでを指しているのか、確認したことはない。

どこまでであろうと、ドミニクは共にあると決めている。

「……そうだね」

吐息のように応えた兄に首を傾げ、凛と背筋を伸ばした王妃は、威風堂々と会場に足を踏み入れた。

次々と挨拶に訪れる中には、学園時代に王妃を侮り貶める噂を囀っていた面々も多くいる。静観するばかりだった者も。

そのすべてに公平に笑みを浮かべるアリアドネは、誰から見ても理想的な王妃そのものだ。

あの頃だって、彼女はどんな悪意にも等しく穏やかに接していた。

違うのは、受け取り手の心一つ。あの頃は妬み嫉んでいた者も、今や戦々恐々とするばかりだ。

「手応えがなくてつまらないこと」

退屈そうに弄ぶ手から、ドミニクはそっとグラスを取り上げた。

未だに、あの時の光景が印象強い。アリアドネがグラスを持っていると、ものすごくひやひやしてしまう。

うっすらと苦笑したアリアドネは、グラスを取り返すようなことはせず、扇子で口元を隠してわずかに肩を寄せた。

第二妃だというのに、アリアドネの存在感は今や国王をも凌ぐ。

けれど、相変わらず彼女の世界においてほとんどの者は等しく関心を得られないままだ。

そして、やはり唯一の特別は、ドミニクただ一人だった。