軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九尾之狐④

純恋ちゃんの技を見て、縁侍君が呟く。

「やっぱり俺もむ陰陽師学園入ろうかな。このままだと兄としての威厳が……」

縁侍君が危機意識を持つほどとは、純恋ちゃんの成長はすごいらしい。

武器を切断する技ということもあり、学園で披露してくれた時はその凄さがイマイチ理解できなかった。

しかし、武士並みの動きをする九尾之狐のダガーを切断するとなると、技量の高さに舌を巻く。

何より、御剣家の娘が他家の技を習得していること自体がすごい。

しかも奥義。

純恋ちゃん曰く、指導役の人には親切にしてもらっているらしい。

「あいつは爺ちゃんも認める天才だ。死にはしない。だから、聖は札作りに専念しろ」

少しでも早く札を完成させて、純恋ちゃんの負担を減らそうとしていたのを見破られたようだ。

それならお言葉に甘えて、時間たっぷり使わせてもらおう。

きちんと準備をした陰陽師は強いってことを、嫌というほど思い知らせてやる。

「準備できた」

「時間ピッタリだな。反撃といくか」

最初から本命の一撃で行こう。

2人がいれば、この作戦が実現できそうだ。

「縁侍君、この陣に九尾之狐を誘導できる?」

「余裕」

頼もしい返事と共に、縁侍君が前に出る。

俺は後ろへ下がり、ちゃんとした結界を張った。

これなら、九尾之狐に破壊されることはないはず。

そもそも、呪いのダガーを失った時点で結界を破壊する手段はなくなっただろうが、保険はいくら用意してもし足りない。

相手は九尾之狐、不意打ちを仕掛けてきた奴なら他にもまだ手を隠しているかもしれないし。

「純恋!」

「わかった!」

縁侍君がハンドサインで瞬時に指示を出した。

2人は連携し、九尾之狐を追い詰めていく。

『おのれ、武士どもめ! いつの時代も我の前に立ちはだかりおって』

「俺の聞いた話では、九尾之狐は俺程度じゃ止められない強敵なはずなんだけどな。ずいぶん弱いじゃねぇか」

「見た目通りの強さだよ! でも、少しずつ強くなってる気がする」

見た目通りとは?

明里ちゃんが君たちと同じレベルで動けていることに違和感はないのか。

見た目だけなら、運動不足気味な普通の女の子だぞ。

『ようやく馴染んできたか』

ニヤリと犬歯を剥き出しにした九尾之狐は、俺がずっと警戒してきた力を使ってきた。

「分身した?!」

「よく見ろ。幻影だ」

九尾之狐は幻影を操る。

これが恐ろしく厄介であり、この力を使って幾多の陰陽師を殺してきた。

なんで使ってこないのか疑問に思っていたら、肉体を失って使えなくなってたのか。

ならば、もう一つの厄介な力、“分身”はまだ使えないと見て間違いないだろう。

何せ、今の肉体は明里ちゃんのものなのだから。

とはいえ、それも時間の問題か。

『ほほほ、捕まえてみよ』

「抜けられちゃう!」

10体の幻影を作り出した九尾之狐は、半数を純恋ちゃん達の足止めに残し、残り半数で俺に向かってくる。

幻影は本体にダメージを与えると消えるらしいのだが、俺にはどれが本体かさっぱり分からない。

札を飛ばすか思案する俺は、縁侍君のハンドサインを見た。

了解

「──紙垂縛鎖陣」

九尾之狐の一体が地面に隠した陣を踏んだ。

その瞬間、俺は陣を起動した。

鬼退治で大活躍した、拘束系の術である。

陣を描いた大判紙から紙垂が伸び上がり、九尾之狐を捕らえた。

それと同時に、幻影が霧散する。本体だ。

『くっ、このっ、運の良い奴め』

1/5をたまたま当てたと思っているのか、九尾之狐がそんなことを宣う。

バカめ。

縁侍君と純恋ちゃんが陣の方へ誘導したのだ。

お前は完全に策にハマっている。

「大人しくしろよ」

願うように呟き、俺は触手を九尾之狐の心臓へ繋げた。

一本釣りじゃーー!

真守君の絵を守った時を思い出せ。

捕捉して、絡めて、引っ張り出す。

それだけだ!

『ぐぅ、貴様、何をしている?!』

九尾之狐も俺が何かしていると察したらしい。

だが遅い!

身動き取れないお前は、まな板の上の鯉だ。

触手の先からえも言われぬ感触が返ってくる。

たぶん、これが九尾之狐の霊体なのだろう。

だがやはり、簡単に捕まえきれない。

低級妖怪の時と違い、大きくて、ザラついて、動きそうにない。

このっ、おらっ、大人しくしやがれ!

はぁ、はぁ、なんとか巻きつけることはできた。

「ふんぬぬぬぬ」

触手を束にして全力で引っ張る!

けど、これ、全然動かないんですけど!

本当にこの方針で合っているんだろうか。

他に策は思いつかないけどさぁ。

あっ、ちょっと動いた。

『貴様、まさか我を引き摺り出そうとしているのか!』

おう、その通りだ!

でも今は返事してる余裕がない。

少しでも力を抜いたら元に戻ってしまいそうだ。

「聖君! 私に手伝えることない?」

「なぁ、今何をしてるんだ? 引っ張り出すって言ってたやつか?」

幻影が消えて俺の下へ戻ってきた2人が話しかけてきた。

「俺を引っ張って! 全力で引っ張って!」

触手が見えない2人からすれば何をしているのか分からないだろう。

今、超大物を釣り上げようとしてるんだよ。

触手を引っ張る俺を、さらに武士の力で引っ張ればあるいは……!

“大きなカブ作戦”で九尾之狐を明里ちゃんから引き剥がす。

そんな俺の狙いは、実行前に破綻した。

『どこまでも我を舐め腐りおって! アオーーーーン!』

雄叫びを上げた瞬間、九尾之狐の霊体が蠢き、触手が千切られた。

「いったぁ!」

「どうした聖、攻撃されたのか?」

「聖君大丈夫?」

束ねた触手を全部一気にやられた。

痛い、久しぶりの痛みに涙が出そうだ。

そして、九尾之狐は同時に幻影を生み出した。

超高度なその幻影は、現世にも影響を及ぼす。

幻影の攻撃によって紙垂縛鎖陣は破壊されてしまった。

これで振り出しへ戻ったことになる。

「失敗した」

「じゃあ、諦めるか?」

その問いは、明里ちゃんの生存を諦めるか否かを意味する。

触手でダメなら他に手はない。少なくとも、今この場ですぐに用意できるものは。

九尾之狐はあまりに危険なため、明里ちゃんの肉体を破壊して霊体を叩いた。その結果明里ちゃんは死にましたと報告する。

最悪、こういう選択肢もあるのだ。

「いや、もう一回試したい。今度は俺を引っ張って。今度こそ全力で行く」

僅かだが、九尾之狐の霊体を動かせた。

なら、より強い力で引っ張れば可能性はある。

身体強化を第陸精錬霊素に変えれば、今以上の力を得られるはず。

その結果どうなるか分からないけれど、明里ちゃんを見捨てるよりはマシだ。

できることは全てやろう。

後悔しないように。

『あぁ、ようやく馴染んできた。貴様のおかげだ。さっきの気色悪い何かで勘を取り戻したようだ』

何を言っているのかは、すぐにわかった。

明里ちゃんの体にとんでもない変化が現れたから。

『ほほほ、よく馴染む。これで本来の力を発揮できるというものよ』

ケモ耳にケモ尻尾が実体化しただけでなく、両手脚が獣化しただと?!

「これはヤバいな」

「うん、ヤバいね」

俺は縁侍君の言葉に同意した。

元々とんでもない美少女だったのに、こんな属性追加するなんて。

まさか九尾之狐が男のツボを押さえてくるとは思わなかった。

そんなことしても討伐やめたりしないからな!

でも後で写真撮らせてくれませんかね。

「お兄ちゃん、あれは2人がかりじゃないと」

「わかってる」

あっ、すみません。

全然別のこと考えてました。

えっ、見るだけで強くなったかわかるの?

そっかぁ。

『ここからが我の本領よ』

「行くぞ」

「うん!」

本当だった。

九尾之狐の動きが完全に一段階上がってる。

さっきは純恋ちゃんだけで抑え込めたのが、今は縁侍君も加わってようやくだ。

両手に伸びた鋭い爪を武器に、刀と打ち合っている。

『グガゥッ』

時折四つん這いになって戦うスタイルは、まさに狐。

ここまでの戦いは欠片討伐による弱体化状態だったと理解できた。

そして、そのアドバンテージが失われつつある。

「ヤバいな」

紙垂縛鎖陣はもう一枚用意してある。

チャレンジできないことはない。

しかし、縁侍君と純恋ちゃんを危険に晒してまでやることなのか。

そもそも拘束は上手くいくのか?

いや、迷うな。

方針を決めたなら突き進め!

もう一回だ!