軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝利の牛

静丸が学校に来なくなったと伝えると、姉はでかい牛をアイテムボックスに放り込んだ。

それもたくさん。

「なにこれ?」

「勝利のご馳走よ! 解体と調理よろしく! ステーキとすき焼きね!」

「え? 二つ同時?」

「同時!」

で、この牛はなに?

なんか皮が赤いし、角もなんかトゲトゲしているし、死んでいてもなんかいかついし……。

ファイアブル?

はぁ、この毛皮とか角って、生きてる時は火を吹いていたのか?

なんで中まで燃えないんだ?

まぁいいやと思って解体を始めると、さらにファイアブルが投入されてきた。

「姉ちゃん?」

「なんか群れが近所に流れてきたから駆除祭り中なのよ。こいつら放置してたらそこら中で火事が起きるからね」

「ふうん」

全身から火を吹く牛が自然の中をうろうろしてるのか。

それはたしかにそこら中が火事になりそう。

ああいや、普段から燃えてるんじゃなくて、警戒すると燃えるのか。

皮と角と一体化した頭骨、それ以外の骨、肉と内臓に分ける。

それから魔石もある。

魔石はあったりなかったりするから、数が揃わなくてちょっともやる。

内臓はたぶんこっちの牛と変わりなくて、ミノ、ハチノス、センマイ、ギアラなどなど焼肉のメニューみたいに分けていく。

もちろん肉もカルビ、ハラミ、タン、ロース、サーロインなどにちゃんと分ける。

分類は大事。

一体をやり切って満足の息を漏らしている間に、ファイアブルが次々と放り込まれていく。

「姉ちゃん?」

「いやほんとすごいんだって! ほっとくと街ごと火の海になるレベルで!」

「ええ……」

見ればファイアブルのほとんどは細い氷の矢が額から入って脳を破壊するという倒し方で統一されている。

「これ、姉ちゃんが倒してるんだよね?」

「そうよ!」

戦闘中なのか声が焦っている。

「すごいね。こんなことができるんなら、姉ちゃんって英雄みたいになってるんじゃない?」

「アキヤ……私がそんな、目立つことを望んでると思う?」

「……そうだねぇ」

うん、姉は生粋の陰キャだ。

ていうか、他の人の視線が嫌いすぎるのだ。

引きこもってないのがギリギリなぐらいに注目されるのを嫌う。

そんな姉がチートみたいな強さを手に入れたとして、それで目立つことを受け入れるかというと……そんなわけないか。

あるいは大逆転で承認欲求が爆発しているみたいなこともあり得るかと思ったけど、それなら王子様に「おもしれぇ奴」扱いされた時に逃げたりしないか。

「いまだって防衛隊とは別のところで一人で戦ってるに決まってるでしょ!」

「ううん、そんなことを誇られても。っていうか大丈夫なの?」

「大丈夫! でも忙しいから! ちょっと集中する!」

「わかったよ」

「ご馳走、待ってるよ!」

「了解」

というわけでせっせと解体していく。

それだけじゃなくて、ステーキ用とすき焼き用に肉を切り出していく。

今後のことも考えて、ステーキ肉も部位ごとで何枚か確保して、すき焼き肉用は脂身の多いところを薄切りにしていく。

ううん、肉が綺麗だ。

脂でテカテカしてる。

今日のステーキは脂身が少ないのにした方がいいかも。

脂で溺れそうだ。

あ、ご飯の在庫は大丈夫かな?

とりあえずの解体も終わったし、作り置きしておこう。

「終わったぁ!」

ご飯と、さらに味噌汁の作り置きをしていると姉の声が響いた。

その間にもファイアブルは増えていて、百体ぐらいになっている。

この後、これも解体するのか。

アイテムボックス内だと疲れないとはいえ……果てしないな。

姉が家に戻り、戦いの疲れやら汚れやらを落とすために風呂に入っている間に、解体を終えてすき焼きの支度を済ませ、ステーキも焼いた。

超がんばったと思う。

でも、まぁ、今日はこれぐらい不平なくやってみせるさ。

嫌な静丸が学校に来なくなったし、姉は魔物の大量発生みたいなイベントを切り抜けたし、それに……。

「いやぁ、いい風呂だったよ! ありがとう!」

「う、うん」

なんかよくわからないけど、姉の家に別の人が来てる。

どうやら一人で戦っている姉ちゃんに気付いて、加勢に来てくれたらしい。

声の感じからして女性で、年上かな?

転生した姉は僕と同い年だし、ただでさえ他人が苦手だから、苦労してるだろうな。

でも、恩人だと思ってるみたいで、追い出せないみたいだ。

まぁ、姉は僕以外に強気に出るなんて無理だろうしね。

そう思っていたら、姉が意外なことを言った。

「ええと、ご飯も一緒にどうですか?」

っ⁉︎

あの姉が、他人をご飯に誘ってる。

そんなことができるなんて……大進歩だ。

「いいのかい。ありがとう」

「う、うん。アキヤ、できてる?」

「できてるよ」

他人がいるのに僕に話しかけるとは思ってなくてびっくりした。

動揺は隠して対応する。

「アキヤ?」

「あ、弟なんですけど、ええと……このアイテムボックスの中にいて?」

「アイテムボックス?」

女性はアイテムボックスのことを知らないようだ。

いや、もしかしたらそっちの異世界にはアイテムボックスそのものがなかったりして。

概念は知っていたとしても、それをゼロから作ったんだとしたら、姉は予想以上にすごい魔法使いになっているのかもしれない。

「はじめまして。弟の亮哉です。とりあえず姉の荷物の管理人をしていると思ってください」

「はぁ……よくわからないけど、さすがは隠れ魔女様だね」

「隠れ魔女?」

なんだそれ?