作品タイトル不明
隠れ魔女と初めての友達
「君のお姉ちゃんはね、隠れ魔女って呼び名で有名なんだよ」
そう教えてくれた女性はヴァレンナという名前だった。
「冒険者ギルドの依頼を魔物退治だろうが採取だろうが制作だろうが迅速にこなしてくれるって話題になっていてね。それなのにいつもフードで顔を隠しているし、仲間に勧誘したい連中からは逃げてるし、いつの間にかいなくなっているしで、できた呼び名が隠れ魔女なんだよ」
「なるほど」
とても姉らしい。
「だって、人に見られたくないし」
「わかったわかった。私もあんたのことは言いふらしたりしないし、この家のことも秘密にするよ」
「うん」
すっかり弱々になっている姉に、ヴァレンナは優しく話しかけている。
向こうがどんな風になっているかわからないけど、関係は良好そうだ。
そうそう。
姉たちがいる街の名前は要塞都市ドレル。
冒険者たちが集う街だそうだ。
魔導学園から逃げ出した後は、要塞都市ドレルに落ち着き、冒険者として暮らしていたのだそうだ。
あんまり話したがらないから、いま聞けてよかった。
「それにしても、アキヤの作る料理は美味しいね!」
そしてヴァレンナもファイアブルのステーキとすき焼きを食べている。
「卵を生で食べるなんて頭おかしいと思ったけど、リファリナも食べてるなら大丈夫だよね」
どうやって食べているのかわからないけど、ちゃんとすき焼きの食べ方をしているみたいだ。
「お腹痛くなったら、ちゃんと薬出すよ」
「ははは、リファリナが食べてるのに私がお腹壊すわけないじゃないか」
「こういうのは体質というか内臓の適性というか、そういうのもあるから」
姉が言ってるのは、たぶん食習慣による腸内細菌の違い、みたいなことかな?
海藻を消化吸収できるのは日本人ほか、元々そういう食習慣のある人たちだけとか。
キムチもそうなんだっけ?
生卵にそれが適用できるのかどうか知らないけど。
なにより、それを言い出したら姉の体も異世界仕様になってるんだから、食べられるかどうかわからないんじゃないか?
そのために薬を用意してるってことか?
そんな、準備万端にしてまですき焼きを食べたかったのか。
二人のやりとりも気になるけど、ファイアブルのステーキとすき焼きを僕も堪能したい。
薄く大きく切ったファイアブルの肉を一枚ごとに鍋に入れて、しゃぶしゃぶするみたいに軽く熱を通してから卵を入れた器に入れる。
溶いた卵をに絡めて一口に……。
あ、美味ぁ〜。
脂と卵とすき焼きの甘いタレとの絡みがすごい。
この幸せな口内にご飯を入れるともっと美味い。
これにステーキまである。
こっちは赤身多い部分を選んでおいた。
焼いている時は歯応えありそうと思っていたんだけど、実際はナイフがするっと入り込む。
噛むと塩胡椒で引き出された旨味がブワッと広がった。
これもやばい、美味い。
ご飯に合う。
「これはお腹が出るなぁ、やばいなぁ」
と、ヴァレンナも言っている。
「ヴァレンナは、ナイスバディだ」
と、姉が言った。
面と向かって他人にそんなことが言えるなんて。
「あははは、私の場合は女神にこの美肌を捧げているところもあるからね」
「美の女神?」
「そうそう」
「美の女神の信者なのに、戦士もしてるなんて」
「戦いの舞を捧げるのさ。女神もお気に召しているようだよ」
「アキヤ、この人ね、ビキニアーマーなんだよ」
「え?」
「あはははは、リファリナの弟ならもっと小さいんだろ? あたしの姿は刺激的かもね」
ビキニアーマー……実在するのか。
「今度、その鎧、調べたい」
「いいよ。名高い魔女に見てもらえるなんて、光栄だ」
「とても気になる」
「ただの鎧だけどね。あたしの体を守ってくれているのは女神の加護だから」
美肌を見せて戦う代わりに、女神がその肌を守ってくれるのか。
加護ってそんなに強いの?
「それだけだと心配、実際、怪我もしたし」
それにしても姉、片言である。
「ふふ、ありがとうよ。あたしの新しい友達に乾杯だ!」
ヴァレンナのその声と共にカチンという音が聞こえた。
「あんたもね、アキヤ」
「あ、どうも」
「アキヤは洗濯もできるよ」
「ははは! あたしの服を洗わせるのは刺激が強すぎないかい⁉︎」
そこからはヴァレンナのセクハラ攻撃が僕に向けられた。
恋人はいるのかとか、童貞なのかとか。
「けっこうあけすけですよね」
「え? 冒険者の女なんてこんなもんだよ。年下の新人冒険者なんてのが女のパーティに紛れ込んだりしたら、それはもう……」
そして、女冒険者パーティに男が混ざったらみたいな話をいろいろ語っていく。
嘘か本当かエロ漫画みたいな話だな。
「本当ですかぁ?」
「本当だよ。あんたもここに来てみればわかるさ。リファリナに似てるなら、絶対に人気が出るね」
へぇ、つまりいまの姉は、けっこう美人になってるんだな。
そんな姉は弟がセクハラ攻撃されて困って……ないだろうな。
むしろ、自分が話題の中心からズレたことにホッとしてるぐらいか。
「ていうか、アキヤは一体どんな存在なんだい?」
うん、それは気になるよね。
というか、まだ説明してなかったのか。