軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

VS月丸

月丸の目がなめくじのそれと同じ色になると、周囲の景色も澱んだ灰色に変わった。

モールで体験したあの結界と同じか?

「人間の癖にヘビと縁を持ったのがお前の負けだぁ! ナメクジの土地でぇヘビが勝てると思うなぁ⁉︎」

「いまどきじゃんけんの関係にそんな必死になるなよ」

「黙れぇ!」

腹や胸の奥でジクジクとしたイヤな感触がある。

前回の感覚を思い出してプラシーボ的に気持ち悪くなっているだけなのか、それとも本当に侵食されているのか。

異世界技術で製作されたこのスーツでも、妖術は防げないのか。

僕の煽りに激昂する月丸だけれど、近寄ることはなく跳躍して本堂の屋根に上がった。

「お前はそのまま苦しんで死ね!」

月丸がそう叫ぶと、地面のあちこちから灰色の煙が上がり、それがナメクジ人間に変化する。

「斜九字の大妖怪、月丸様を侮ったのがお前の敗因だ!」

こちらに向かって群がってくるナメクジ人間を払うためにぶん殴るしかない。

鍛冶修行とスーツの補正による筋力のおかげで、一発で一体を吹っ飛ばすことができるけれど、ナメクジ人間は次から次に溢れてきて、しかも恐れ知らずにやってくるから、すぐに身動きが取れなくなった。

「離せ!」

縋り付いてくるナメクジ人間を吹き飛ばす。

一箇所にいたらダメだ。

動き回りながら倒していこう。

殴ったり、蹴ったり、走り回ったりして追いかけてくるナメクジ人間から逃げ回ることになりながら、月丸を探す。

月丸の狙いは、時間を稼いで結界の毒で僕を殺すことだ。

そしてそれはおそらく、真白にも及んでいる。

時間は月丸の味方でしかない。

この状況をどうにかするには月丸を倒すしかない。

その月丸は僕がナメクジ人間に群がられている間に、本堂の屋根から姿を消していた。

逃げた?

いや、隠れたのか。

時間稼ぎだけしていればいいって思ってたら、そうするのは当たり前か。

だけど……それなら……。

僕は本堂に向かって走る。

ナメクジ人間たちが追いかけてくるけれど、全力疾走の僕には追いつけられないでいる。

前の方にいた連中を体当たりで吹き飛ばしたり、本堂に到着する。

なんか妙に気持ち悪い仏像が正面に飾られている。

それを無視して、僕は床を全力で殴る。

床板が弾けて、その下に猫とかを入れるような鉄の檻に入れられた白蛇姿の真白を見つけた。

「旦那様」

「真白!」

背後からナメクジ人間たちが迫っているのでのんびりしていられない。

鉄の檻ごと掴み上げると、いやらしい顔の仏像の背後に周り、全力で蹴る。

土台が砕ける音がして、仏像が前倒しに垂れていく。

それを見届けることなく、仏像の後ろにあった壁を破って外に出る。

さすがにここにはナメクジ人間はいなかったので、鉄の檻を壊して真白を救い出す。

「旦那様、すいません」

「いまはいいから。とりあえずこの中に」

「はい」

弱々しい真白の声を聞くと、心臓がギュッとなる。

一度変身を解いて、制服の内ポケットの中に入れる。

それからまた変身する。

そして、呟く。

「月丸」

なんで真白の位置がすぐわかったって?

それは探し物ができる魔法のメガネ、ダウジングアイをずっと着けていたからだ。

そのダウジングアイの目標を月丸に変更した。

太い線は、僕が倒した仏像に向かって伸びていた。

仏像の中?

あるいは仏像そのもの?

「そこかぁ!」

どっちにしろこの仏像を殴ればいいと、本堂に戻るとこちらに向けた底面に向けて全力の拳を当てた。

「ぎゃああっ!」

本堂に悲鳴が響くとともに、仏像が縦に裂ける。

すると灰色の煙とともに仏像が消えて、激痛でジタバタともがく月丸の姿が残った。

「があっ! ぐあっ! お、お前ぇぇぇぇ‼︎」

「隠れたって無駄だ」

「なんでぇ、くそぅ、なんでだよぉぉっ!」

狼狽する月丸に近づいていくと、もがきながら逃げようとする。

さっきまでの強気な態度がない。

「あいつ、かなり弱ってます」

スーツの中で真白が告げる。

「結界内にいたたくさんのナメクジは、ほとんどこいつの分体です。それを作るだけで妖力をたくさん使っていたのに、溜め込んでいた器を旦那様に壊されてしまいました」

「器って、さっきの仏像?」

「はい」

「なるほどね」

「普通はあんな綺麗に割れるなんてできないんですけど。さすがは旦那様です!」

あっ、なんか真白の声が元気になった気がする。

「このスーツの中、前よりも居心地がいい気がします!」

そんなことを言う。

翼を作る時に姉がなにかしたのかな?

「それはよかった」

それなら後は……。

「こいつを倒せば終わりだ……」

「ひうっ!」

怯えようと関係ない。

かなり形が人間から崩れている月丸の端っこを踏みつけて、拳を向ける。

「あっ!」

真白が声を上げたのと、頭にのしかかる重い圧のようなものを感じたのは同時だった。

なんだと思った時には、視界を守るバイザーに白い膜がかかった。

「氷?」

冬の朝に駐車された車の窓が凍っているような、そんな現象がバイザーに貼り付いている?

「母様」

真白が呟く。

「母様が怒った」

「母様? 堂城さんが?」

「はい」

周囲を確認してわかった。

穴だらけになった本堂の外側で雪が荒れ狂っていた。

吹雪だ。

外の光景が見えないぐらいに雪が舞い踊っている。

「え? いま春だよね?」

肌寒い日があるとはいっても春だよ。

こんな雪が降るなんてありえない。

いや、この辺りだと、真冬でだってこんなに雪が降ることはない。

雪は真上から落とされるように降り注ぎ、地上に当たる前に一度舞い上がっている。

突然に降り注いだ冷気と地上に残っていた熱気が絡み合って強風が起きて、本堂の中を冷やしていく。

「あ、ああ……」

虹色の髪色を残したまま、月丸の体がナメクジに戻っていく。

そして、その体が見る間に霜に覆われていく。

これが堂城さんの力?

車の中を寒くしていたのは片鱗だったのだろう。

怒らせたらこんなことができるんだ。

「怖いな」

「はい。母様は怖いです」

スーツがなかったら僕たちまで凍っていたんじゃないだろうか?

そんなことを思いながら、僕たちはナメクジ人間の姿で凍りついた月丸の姿を見下ろした。