作品タイトル不明
嗜好のスイッチが入る音
真白は動かないのではなく、動けなかったのだそうだ。
ヘビとカエルとナメクジの三すくみの関係は、術の効きにくさなどにも影響を与えるし、相手が強大であれば側にいるだけで動きを縛られたりもするのだという。
「まだましろが未熟なばかりに旦那様にご迷惑を」
「無理はしなくていいんだけどさ」
しゅんとうなだれる真白を慰めながら帰宅。
団地の部屋に戻ってきた頃にはすっかりお腹が空いていた。
夕食にはちょっと早い時間だけどさっさと食べることにする。
アイテムボックスの中にある出来合い料理の中から選んできたのは、ファイアブル牛丼。
真白にはコカトリスの生肉。
箸でつまんで口に運んでやりながら話を聞く。
「ただ、他にもなにかあるんなら聞いておいた方がいいかな?」
「そうですね。できる限り説明します」
食事をしながら聞いた話はこんな感じだ。
日本では昔からヘビとカエルとナメクジの争いがあったそうだ。
堂城家がヘビに仕えることになった理由である鬼蛙退治もそうだし、それよりも昔からずっと、それこそ神話の国造りとかからあったらしい。
素戔嗚尊の八岐大蛇退治だってその争いの一つだと言うんだけど、本当かなぁ?
だってそうなると素戔嗚尊がナメクジの一派ってことになるんだけど?
え? そこは微妙に違う?
はぁ、素戔嗚尊がナメクジに騙されたと……ううんでもなぁ。
「ちょっと先祖のことを盛りすぎてない?」
「そんなことはありません!」
「ごめんごめん」
ムキになって否定する真白に謝りつつ、牛丼に生卵を追加する。
あ、この卵は普通に市販品だよ。
それをじっと見る真白。
「いるの?」
「ウズラ卵が好きです」
丸呑み派らしい。今度買ってあげよう。
コホンと……白蛇の姿で咳払いをして真白は続ける。
「そんな、かつては日本中で行われていた三すくみの争いも最近では分断されて、各地で小さく行われているだけのようです」
「その一つが」
「はい。この地域ではそれがヘビの『断鬼』、ナメクジの『斜九字』そしてカエルの 『悪角』(おづの) になります」
「悪角?」
「はい。角のある鬼蛙です」
「倒したんじゃないの?」
タチキの成り立ちの話に出てた妖怪でしょ?
そう思って聞いてみたんだけど、真白は首を振る。
「全てを倒したわけではありません。奴らは住む場所を変えて、こちらに復讐の機会を伺っています」
「ふうん」
奴らが住んでいる場所もだいたいわかっているらしい。
どこもタチキみたいな田舎だった。
僕が虹色美少年と出会ったような場所は、人が多すぎて妖怪の縄張りにはできないらしい。
なので、虹色美少年との遭遇はかなりレアなことだったようだ。
「というか、あんなところで出くわしても普通はしかけたりしないものですから、あいつが異常だったんです!」
「そっか」
あんなバイオレンスがいつもあったら困る。
どこにも出かけられなくなるよ。
「それより旦那様!」
「なに?」
食事が終わると真白は白蛇から少女の姿になった。
「あの時の姿はなんだったのですか⁉︎」
「あの時って?」
「ナメクジを倒す時に見せた姿です!」
ジャケットの中にいたのになんでわかるのかなぁ?
「秘密」
「旦那様には謎が多すぎです。教えてくれてもいいと思います。夫婦ですから!」
ううん、大興奮だ。
「まぁ、あれはね……」
どうしたもんかな?
「……謎の存在から授かったんだ」
「そうなのですか⁉︎」
信じた⁉︎
「うん、僕もよくわかっていなくてね」
とにかく、よくわからないけどできるということにした。
「だからまぁ、宇宙人の力なんじゃないかな?」
「宇宙人!」
「そうそう。わからないけどね」
「では、あの姿がなんなのかわからないんですか?」
「ああ、それは……」
ええと、今日の朝なら新しいのが観れたんだけどな。
とりあえず、ヒーロー系が見れるサブスクは契約してたから真白に見せてあげた。
姉のお古のスマホが比較的新しいから、それを渡して見せてみた。
「あっ、これはなにかちらっと見たことがあります」
「だよねぇ」
さすがに全然知らないってことはないか。
最初は「はぁ」とか「ほう」とか言いながら見ていた真白だけど、段々とその表情が真剣になってきた。
あっ、これはハマったな。
そんな真白を置いて、アイテムボックスに入る。
今日の姉は家で研究をしているようで、いきなりアイテムがドカドカ増えるということはないようだ。
これは静かに片付けに集中できるなと、あれやこれやと動かしていく。
「ねぇ、アキヤ」
「どうかした、姉ちゃん?」
「変身スーツは使ってみた?」
「……使う場面があるわけないじゃん」
「ええ? それはそれとして、部屋で試しに変身とかぐらいするでしょ? 変身できるとなったらするよね。だってアキヤも好きだもんね、ヒーロー物」
「……」
普段ならそうだったんだろうけどね。
いまは部屋に真白がいるからね。
使うことなんてしばらくないだろうなと思っていたら、いきなり実用する場面にでくわしちゃったんだよな。
「いやぁ、そっちもけっこう派手派手しいんだねぇ」
僕の沈黙で色々察したのか、姉が笑う。
「姉ちゃんは、こっちが意外に平和じゃないって知ってた?」
「もちろん! 知らなかったよ!」
力強く断言された。
堂城さんとの出会いも小さな頃だったみたいだし、本当なのかな?
でもそんな姉が異世界転生して、そしてその残り物である遺体がとんでもないことになっている。
なんか信じきれないよなぁ。