作品タイトル不明
オプションな僕
姉の行方が判明してから一週間が経過した。
アイテムボックス化した僕の部屋にも慣れたというか、順応したというか。
あの日以来、僕は姉のアイテムボックスのオプション機能的な存在になっている。
「アキヤ〜お洗濯よろしく〜」
設置した棚にあったタオルと着替えがなくなったかと思うと、汚れ物入れのカゴの中にしわくちゃの服と着替えが放り込まれる。
ちょっとハズれて縁に引っかかっているのが気になる。
まぁ、でもこれくらいなら?
少し後にタオルも放り込まれた。
全部に謎の緑の液体が染み付いている。
「これ、なに?」
「ん〜デカデカイモムシの体液」
「うげぇ、落ちるのか?」
「大丈夫大丈夫、いつもの洗剤使ってみて」
「わかった。……なぁ姉ちゃん」
「なに?」
「そのデカデカイモムシの解体って……」
「……」
「おい?」
「任せたぞ、弟よ」
「マジかよ」
うげぇ! と叫んだ瞬間、すぐそこに噂のデカデカイモムシが現れた。
「だから、指定の場所に置けっていつも……」
「ごめ〜ん、こっちからだとけっこう難しいんだよ、それ」
「まったく」
「あ、ご飯よろしくね。今日の希望は生姜焼き!。ビッグボア肉使っていいから」
「あいよ」
そう返事をしてから動き出す。
バイト代ももらっているからな。文句ばっかり言っても仕方ない。
とりあえず、デカデカイモムシをモンスター解体所と指定してある区画に引きずって運ぶ。
アイテムボックス空間だと、物の重さをあまり感じなくなって、どれだけデカかったり重かったりしても、簡単に運べてしまう。
だけど部屋から出ると一気に重くなるから注意だ。
一度、すごく重いというインゴットを持ったまま部屋を出ようとして、その重さに驚いて落とした。
危うく足の甲が潰れるところだった。
戻すのもすごく大変だった。
そんなミスも昔のこと、デカデカイモムシの解体はご飯の後だと決めて、まずは洗濯だ。
キッチンにある洗濯機に服と下着を放り込み、例の洗剤を入れてスタート。
洗濯が終わるまでの間に食事の支度をする。
アイテムボックスに戻って食材棚からビッグボア肉と野菜を選んでまたキッチンに戻る。
こっちに置いておくと、冷凍物だろうがなんだろうがそのままの状態で保存される。
便利なので冷蔵庫の出番がなくなってしまった。
まずは千切りキャベツを作り、そのついでにたまねぎを切っておく。
それからビッグボア肉の生姜焼きに取りかかる。
ビッグボアの塊肉を必要分薄切りにする、それに塩胡椒を振ってから炒める。
途中からたまねぎも投入し、市販の生姜焼きのタレを投入。
後は中に火が通るまで焼くのみ。
出来上がったものをさらに乗せ、その脇に千切りキャベツを置いて完成。
味噌汁は大鍋に、ご飯は炊いてからタッパに分けて置いてあるので、それをよそってお盆に乗せておけば生姜焼き定食の完成だ。
姉の分を食品棚に置いてから、自分もこれで夕食とする。
「美味いわぁ」
見た目はとにかくでかい猪で厳つい顔をしているんだけど、ビッグボア肉って美味いんだ。
豚肉を進化させたような旨味がある。
野生のくせにこっちの人たちが美味しくなるように努力をして育てた豚さんたちより美味しいとか、どういう理屈なのかと言いたくなる。
美味しい無罪なのでいいんだけどさ。
「わ〜い、できてる! さすがアキヤは仕事が早い! いただきます!」
「はいどうぞ」
部屋の机でスマホで動画を見ながらの食事を済ませ、アイテムボックスに戻ると姉の声が降ってきたので返事をしておく。
食事を済ませた後で、洗濯機から洗濯物を取り出して干す。
元姉の部屋を使って部屋干しだ。
僕しか住んでいないって周囲にはバレているのに、コスプレチックな女物をベランダに干すなんて勇者なことはできない。
なんか変な噂とかされそうだ。
扇風機と除湿機をオンにしてから元姉の部屋を出ると、ついにモンスターの解体を始める。
解体所でデンと存在感を主張するデカデカイモムシを前にして、覚悟を決めると解体用の包丁を掴む。
いつだったか偶然に遭遇したマグロの解体ショーで使われていた長い包丁みたいなそれを、デカデカイモムシの側面に差し込む。
グッと押し込んでから引き抜くと、緑の体液が溢れ出す。
それを木製のバケツで受け止める。
このバケツ、気が付いたらあったんだけど、一体どこから?
姉が入れたのか?
それにしてはそんな場面に出くわしていないんだけど。
謎だ。
「まぁ、深く考えるだけ無駄か」
だって魔法だし。
それを言い出したら、なんで俺にモンスター解体の知識があるかも謎だ。
それ以外の知識もね。
それも魔法だしで終わってしまうし、それでダメならもう一つの理由がある。
僕が、アイテムボックスのオプション機能になったからだ。
だからオプション機能として備わっているべき知識や技術が、僕の中にある。
そんなことを考えているうちにバケツが体液でいっぱいになり、次を用意する。
体液はバケツ五杯分になった。
シオシオになったデカデカイモムシを解体包丁で皮と肉と内臓に分解していく。
皮はゴムみたいな使われ方をする。
肉と体液と内臓は薬の材料。
内臓はそれ以外に蛹になる時の繊維袋みたいなのと分ける。
食用にできなくもないけど、美味くない。
実食したわけではないけど、そういう知識が僕の頭の中にある。
分解したそれらを素材棚に置いて、解体は終了。
解体所の掃除と道具の手入れを済ませてから、自分の部屋である和室に足を踏み入れる。
ちなみに、アイテムボックスにいる間は時間が経過しない。
これを利用して無限に勉強することだってできるなと思ったけど、それはそれでいざとなったらやらなそうとも思ったり。
まぁ、とにかく……疲れることは疲れるので、風呂に入って寝ることにする。
さらにちなみに……バイト代はちゃんと現代のお金だ。
謎の団体から送金されるという謎仕様にはちょっと恐怖を覚えるのだけど、まぁこれもいずれ慣れるのかな?