軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45.祖父母登場です(第三話)

祖父母の同行者は、ヘクターのもう一人の弟子である医者とパトリシアの侍女で、あとは護衛の騎士がいるだけだ。

ヘクターの弟子とパトリシアの侍女には休むよう伝え、騎士たちには警備の任務にあたるよう告げ、デイヴィッドと祖父は話があるからと執務室に向かった。リデラインとジャレッドは、パトリシアとヘンリエッタのお茶会に誘われて同席することになった。

お茶会はヘンリエッタの部屋で始まった。丸いテーブルを四人で囲む。

女性の中に一人だけ交ざっているジャレッドは居心地が悪そうだ。

「本当はローレンスがいる間に来るつもりだったのだけれど、わたくしが体調を崩してしまったの。あの子にも会いたかったわ」

雑談の中で、パトリシアはそう話す。

もっと早くにこちらを訪れる予定だったらしい。それにしても体調を崩したとは、年齢が年齢なので心配だ。

リデラインは祖母を観察しながら紅茶に口をつける。

「もう回復なさったのですわよね。安心しましたわ」

「ええ。そうでなければ外出の許可が出なくて、窮屈なのよ」

「お義母様の身を案じてのことですもの、仕方ありません」

ヘンリエッタは侍女が用意した紅茶にミルクを入れ、マドラーで混ぜる。それをパトリシアの前に置いた。

「ローレンスはとても元気に育っていますのでご安心ください。一年の成績はずっと首席だったようです」

「それならよかったわ」

パトリシアは紅茶を飲み、「あら、美味しいわね」と零す。そしてティーカップとソーサーを持ったまま、リデラインたちのほうを見た。

「ジャレッドとリデラインは、もう体は平気なの?」

そう訊くということは、魔力欠乏症の件が耳に入っているということだ。ジャレッドが体を固くして「はい」と返事をしたあと、リデラインも同じく返事をする。

パトリシアは「そう」と呟くと、もう一度紅茶を飲んでから、青い瞳でジャレッドを射抜く。

「さんざん叱責されたでしょうけれど、魔法の危険性は理解しているはずなのに魔力欠乏症になるまで魔力を消費してしまうなんて、本当にとても愚かなことだわ。二度としてはいけないことよ」

ティーカップとソーサーをテーブルに置き、パトリシアは続ける。

「焦る気持ちはわからないでもないけれどね……。貴方は貴方なのだから、他の誰かと過剰に比較して卑屈になっては、それこそ成長の機会を逃すことになるわ。自分のペースに合った方法を模索なさい」

「はい」

神妙な顔でジャレッドが返事をしたあと、パトリシアの視線はリデラインに向けられる。

「リデライン」

「は、い」

びくりとしたリデラインを見て、パトリシアは苦笑した。

「ごめんなさいね、緊張してしまうわよね」

あまり接してこなかったという自覚があるからか、申し訳なさそうな言い方だ。

「わたくしも、あの人……貴女たちのお祖父様も、あまり貴女たちには干渉すべきではないと考えていたわ。当主はすでにデイヴィッドになっているから、引退した身のわたくしたちがフロストのことに口を出しすぎては、傍系に甘く見られてしまうの」

引退した者が当主のやり方に口を挟みすぎると、傍系たちも当主はまだ家門を任せるに相応しくないと判断し、彼らに付け入る隙を与えてしまう。

デイヴィッドは急遽、若くして公爵位を継ぐことになったので、それこそ甘く見られがちだったという。だから尚更、手助けはしなかったそうだ。

「それに、貴女については……貴女がわたくしたちを怖がっているようだとヨランダから報告があったから、極力接しないようにしていたわ」

ある程度予想できていたことではあるけれど、やはりヨランダはそちらにも手を回していたようだ。

「でも、きっとわたくしたちは、すべて間違っていたのね。ごめんなさい、リデライン」

申し訳ないという気持ちが強く伝わってくる謝罪だった。

◇◇◇

デイヴィッドとオーガスタスは、執務室でテーブルを挟み、ソファーに座って向かい合っていた。

「モーガンの件は、ジャレッドとリデラインには伝えないことにしたそうだな」

「ええ。二人はモーガンに懐いていますから」

あえて心に傷を負わせる必要はないという判断で落ち着いた。しかし、オーガスタスは賛同できないようだ。

「傷つくだろうが、それでも受け入れられるだけの強さは持っているのではないか?」

そう訊かれて、デイヴィッドは僅かに目を見開く。

「頑固な父上が意外ですね。孫の教育には口を出さないのではなかったのですか?」

答えではなく質問で返すと、オーガスタスは口を閉じた。デイヴィッドはその様子を眺め、紅茶に視線を落とす。

「子供たちのためにならないものを徹底的に排除して甘やかすだけでは間違いだと、そこは理解しています。しかし、二人はまだ幼い。向き合うのはもう少し大きくなってからでいいと感じたのでこの結論に至りました」

ただでさえ、リデラインはヨランダのせいで孤立していたし、ジャレッドもローレンスへの劣等感で苦悩していた。もう少しゆっくり歩ませてもいいはずだ。

「不満ならまた今度、改めて聞きますよ。本題に入りましょう」

オーガスタスとパトリシアがこちらに来た理由は、リデラインに謝罪したかった、孫たちの顔を久しぶりに見たかったというのもあるけれど、目的はもう一つ。

「確証があるんだな」

「はい。父上もこちらの説明に納得なさったから彼女を同行させたのでしょう? ――母上の侍女であるグウィネスがヨランダに協力しています」

パトリシアの侍女グウィネスは三十代。商家の跡取りと結婚したものの子ができないことを理由に離縁されたという過去がある。

現在は伯爵領の領主邸で働いている彼女は、以前はフロスト公爵家で働いていた。話しかけやすかったのか、ヨランダに仕事を教わっている光景がよく見られた。ヨランダを慕っている使用人だ。

「ヨランダの追放後、最初にモーガンのもとに届いた薬草は追放前に手配されていたものでした。しかし五日前、ヨランダがグウィネスに手紙を出し、薬草が新しく手配されたことが確認できています」

薬屋も突き止め、モーガンの証言の裏付けもとっている。

「ヨランダの指示は薬草に関するものだけではないと考えるのが妥当だな」

「はい。まだリデラインに何かする気でしょう。おそらくジャレッドにも」

恐ろしい執念深さである。オーガスタスに会うことよりも、リデラインやジャレッドを排除することに力を入れているようだ。彼女の中ではフロストに相応しくない二人を。

ジャレッドまで標的にされていたと知った時は驚愕したけれど、ヨランダはどこまでも自身の考えが正しいと信じているのだろう。

「泳がせるのか」

「ええ。傍系のどこかと手を組んでいる可能性が浮上したので。ヨランダ一人で用意するには値段が高すぎます」

慰謝料徴収のために調べた際、ヨランダの貯金は相当なものだったので、薬草の購入については他にも資金源があったことが推測できる。是が非でもローレンスを当主に据えたいと考えている者たちが一枚噛んでいるかもしれない。

「処罰はローレンスに一任するという話だったか」

「はい。本人の希望です。ローレンスはヨランダをもっと厳しく処罰するべきだと最初から言っていましたからね。実際にそうすべきだったのでしょう」

ローレンスもヨランダにはそれなりに懐いていたはずだった。しかし、ヨランダがリデラインを蔑ろにしていたと判明した瞬間、思い出や親しみは即座にただの塵となり、綺麗さっぱり消えたのだろう。そういう切り替えができる人間なのだ。

ローレンスの中では優先順位が決まっていて、揺らぐことはない。弟妹が第一で、それ以外は二の次。弟妹のためなら他のものを容赦なく切り捨てることができる。

『甘いですね』

モーガンの処遇に対して、ローレンスがそう評価した際の表情は記憶に新しい。

「ローレンスは当主に向いているとつくづく実感します。魔法の才能もですが、上に立つ者としての資質が備わっている。生来のものでしょう」

弟妹に傾倒しすぎているところは心配な面でもあるけれど、自身の役目を疎かにすることはない。

「……本当に、よく似ています」

思わず零れたデイヴィッドの呟きに、オーガスタスは「そうだな」と同意した。