軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46.祖父母登場です(第四話)

祖父母が公爵邸に来て翌日のこと。リデラインとジャレッドは、魔法の訓練のため訓練場にいた。

二人の訓練の進み具合は異なっているため、本来であれば共に訓練をすることはない。リデラインは魔力暴走の危険があったので、安全性を考えてのことでもあった。

その心配は魔力が平均以下となった今のリデラインにはほとんどないけれど、訓練内容が異なることに変わりはないのだ。だというのに、今回は二人揃って朝食の一時間後のこの時間に訓練が組まれていた。

普段と違うのはその点だけではない。

この場に先生であるモーガンがいることはまったくおかしなことではないけれど、なぜか母と祖父母、そしてヘクターがいる。訓練場の端のほうにわざわざ椅子を置いて、明らかに長居するつもりなのが窺えた。

「なんでお祖父さまたちがいるの?」

訓練場の中心で、リデラインが背伸びをして声を潜めてジャレッドに訊ねると、ジャレッドは少し屈んだ。

「俺たちの訓練を見学したいんだと」

「だから一緒に?」

「そういうことだろうな」

いわゆる授業参観的なことになっているようだ。母と祖母は穏やかな雰囲気だけれど、祖父は相変わらず無表情である。どんな気持ちでそこにいるのだろうか。

ちなみに、デイヴィッドは仕事らしい。

「ギャラリーはあまりお気になさらず、訓練に集中していただければと思います」

モーガンが苦笑している。

魔法は命の危険に繋がる事故も起きるため、集中力がいる。見学者がいる程度で心を乱すような集中力しかないのであれば、一人前の魔法使いには決してなれない。

リデラインとジャレッドなら大丈夫だと判断されたために、見学も許可が出たのだろう。

「お嬢様は体調が回復されてから初めての訓練ですので、慎重にいきましょう。違和感など、今までと異なる感覚があればすぐにお教えください」

「わかったわ」

リデラインがこくりと頷くと、モーガンはにっこりと笑ってジャレッドに向き直る。

「お嬢様の魔法の実践は今回からになりますので、まずはジャレッド様がお手本を」

そう言われたジャレッドはちらりとリデラインを見た。その意図がわからずにリデラインが首を傾げると、ジャレッドは何やら楽しそうに口角を上げる。

ジャレッドが魔法を発動させると、頭上に水が現れた。それは次第に量を増し、大きな球体となる。

(おお……!)

リデラインが水の球を見上げていると、その水の球は分散した。そしていくつもの魚の形をとり、水の魚群はリデラインを囲み、周りをゆったりと泳ぐように回る。動きに合わせて光の反射の仕方も変わる。

「わあ……!」

神秘的な光景に、リデラインは目を輝かせた。

(そうそう! 魔法ってこういうのだよね!)

興奮冷めやらぬ様子で水の魚群に夢中になっていると、魚群は上空へと昇っていき、弾け飛んで消えた。

「お兄さますごい!」

リデラインが手放しで褒め称えると、ジャレッドは得意げな顔で笑う。しかし、モーガンの感想にジャレッドは顔を赤くすることになった。

「お嬢様への見本なのでもう少し簡単なものでもよかったのですが、気合が入っておられましたね。かっこいいところを見せたかったのですね」

「うっせぇ」

余計なことを言うんじゃねぇ、と言わんばかりにジャレッドがモーガンを睨む。図星のようだ。

可愛いなとリデラインが思っていると、「ではお嬢様」とモーガンは今度はリデラインに向き直る。

「昨日確認させていただきましたが、基本的な魔法は頭に入っていますね」

「はい」

「では、氷を出してみてください」

風属性ではなく、いきなり氷属性に挑戦させられるらしい。

(まあ、風って基本属性の中でも難しいほうではあるんだよね。目に見えないから)

魔力の関係で自然の風と異なり多少は色がついていたりするけれど、風は形もなく無色に近いので、扱いが難しいのである。

言われたとおり、リデラインは手のひらを上に向けて両手を前に出し、魔法を発動させる。魔法陣が浮かび、その上にピキピキと音を立てて氷が出現した。手のひらサイズにまで大きくなったところで維持する。

「初めてでとてもスムーズな発動です。余分な魔力もありませんね。素晴らしいです」

物質を作り出すことは属性魔法の基礎中の基礎なので褒めすぎのような気もするけれど、賞賛は素直に受け取った。褒められると当然気分はいい。

「次は氷の質量を増やして、何かの形を再現してみてください」

何かを再現と言われて、リデラインは考える。

無難なのはやはり、ジャレッドが最初に見せたような球体だ。まずはそれだろうと、リデラインは氷で球体を作り出す。

「本当に無駄がないですね……」

その様を注意深く見ていたモーガンが驚きも込めてそう呟く。

魔力操作の訓練でも同じことをするけれど、ただの魔力を操るのと、魔力を変化させて作り出した物質を操るのとでは、その難易度には差がある。魔力ではできていたことが魔法になるとできない、ということのほうが最初は多いらしい。

リデラインは魔力で木まで再現できたので、この程度は大して難しいとは感じないレベルの技量が身についていた。

「今度はもっと複雑なものを作ってみてください」

球体よりも複雑なものは色々と思いついたけれど、リデラインは今一番目にしたいものを再現することにした。

氷の球を縦に大きくしていき、地面に立たせる。それは人の形を成し、――見覚えのある像ができあがった。

(うん、我ながらいい出来)

氷像を眺め、リデラインは心中で自画自賛する。

「これは……ローレンス様、ですね」

モーガンは先程よりも驚愕しつつ、氷像を食い入るように観察した。

彼の言うとおり、リデラインが作ったのはローレンスの氷像だ。リデラインの記憶にあるローレンスそのままである。

「無駄に精巧だな……」

まじまじと氷像を凝視しているジャレッドは、感心すると同時に少し呆れているようにも見受けられる。

悪戯心に火がつき、リデラインは氷像のローレンスにジャレッドの頭を撫でさせた。ジャレッドはすぐさまその手を払う。

「冷たいだろ、なんなんだよ」

「ふふ」

ご機嫌に笑うリデラインに、ジャレッドがムッとする。

「つーか、氷像作るのはともかく、動かすのって魔力は大丈夫なのか?」

「魔力すごくへったなぁっていう感じはないよ?」

僅かにしか魔力の減少は感じられないし、ローレンスを再現するのも氷像を動かすのもかなり簡単だった。

しかし、突然氷像との魔力の繋がりが切れた感覚があって、リデラインはぱちりと瞬きをする。モーガンが魔法で断ち切ったようだ。

「氷をただ標的に向けて一直線に飛ばすような魔法と異なり、自在に操るのは魔力消費が多くなります。これ以上は危険かもしれません」

「はぁい」

大人しく返事をしたところで、氷像がぐら、と傾いた。そのまま地面に倒れた衝撃で氷像にヒビが入る。それも頭の部分に。

そして――パキッと、音を立てて割れた。

魔力の繋がりが切れて、氷像は自立できずにバランスを崩したのだろう。

事故だ。そう、事故である。決してモーガンが意図したことではない。こうなることにまで考えが及んでいたら、対策は取っていただろう。

なんとも言えない空気が流れる。

気まずそうなモーガンが恐る恐るこちらを見るけれど、リデラインはそこを気にする余裕などなく、顔色を悪くさせながら震えていた。氷像から目が離せない。

「……ローレンスお兄さまの頭が、割れ……頭……」

「おい、リデライン!?」

氷とはいえ、『ローレンスが割れる』という視覚的な情報から受けたショックは非常に大きく、リデラインは意識を失った。

◇◇◇