軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

陛下

「一体お前たちはどこの手の者だ?」

必勝の確信を持っていた自らの魔法を消し飛ばされたムラシーンは、奇妙なその二人組に対して、苛立ちを隠せずそう問いただす。

「はは、僕達ですか。お分かりだと思いますが、やる気のない上司がいる国のものですよ」

アレックスはムラシーンにそう返答すると、口角を釣り上げた。

「国……だと? まさかクラリスの侵攻か!」

「はは、そんな無粋な真似はしませんよ。単純に困った上司に呼び出されただけです。だいたい貴方ごときを叩き潰すのに、わざわざ国を挙げる必要がありますか?」

小馬鹿にしたようなアレックスの口調に、ムラシーンは怒りを募らせる。

「ふん、貴様らは近衛と私たちによって包囲されているのだ。たかが二匹ほど虫が増えた程度で、調子に乗るとは笑わせる」

「包囲? 僕たちをですか?」

アレックスはムラシーンの言動を嘲笑するようにそう口にすると、隣のリュートの方を見やった。

「おい、あの俗物が何か勘違いしてるようだから、そろそろ現実を教えてやれ、ユイ」

リュートは冷笑しながら、彼らを呼び出した当人の名前を口に出す。すると近衛が密集して固めていたはずの入り口から、ややくたびれた初老の男に肩を貸しつつ、作戦の発案者が悠々と歩み寄ってきた。

「いやぁ、ごめんごめん。ちょっと予定より時間がかかっちゃって、遅くなったかな。あ、お久しぶりですね、宰相殿」

「……イスターツか。やはり貴様が今回の絵を描いたということか。しかし貴様一人増えた程度で、どうということがある?」

苦笑いを浮かべながら空いている左手で頭を掻いている男に対し、ムラシーンはあざけりの笑みを浮かべながら、そう挑発する。

「はは、私一人じゃどうということはないですよ。だけど、私の連れてきた人が増えると、話は別だと思いますけどね。あれ、宰相閣下は見覚えないですか?」

ユイはそう言って、わざとらしく首を傾げる。すると彼の行動に疑念を浮かべたのか、ムラシーンはユイの隣に立つ自分で歩くことできない男へ視線を移した。

「ん、連れてきた人だと? そこの薄汚いジジイがどうし――こ、国王陛下!」

「……ふふ、久しいのう、ムラシーン」

その声の主は、ユイの肩を借りねば歩くこともままならなかったが、彼の全身から鈍く放たれる威厳は、王者のみが持つことができるものであった。そう、ユイに肩を借りて立っている男こそ、この国の王アルミム・フォン・ラインドルその人であった。予測外の事態に、惚けたように口をポカンと開けたままのムラシーンを見て、アルミムはやや満足げに笑みを浮かべる。

「へ、陛下。お体は?」

「ふむ、二年も身動き取れぬよう寝転がされておれば、ジジイにもなるじゃろうから、良いとは言えんがの。そうそう、貴様に掛けられた呪術は、先ほどこの男に解いてもらったよ。なかなかうまくやったようじゃが、もう少し早くわしの息の根を止めるべきじゃったな。聞けば、王宮内もほぼ掌握しておったようであるし、慎重にことを運んでおったつもりじゃろうが、貴様のその慎重すぎる性格が裏目に出たな」

アルミムは、笑みまで浮かべながらムラシーンにそう告げると、ムラシーンは動揺の極みとなった。

「くっ、くそ。イスターツどういうことだ。貴様一体なにをしたのだ?」

「なにをって言われても……ちょこっと貴方の呪術を解呪しただけですよ」

ユイは苦笑いを浮かべて、簡単に答えると、ムラシーンは頬を引きつらせながら、何とか声を紡ぎ出す。

「な、なんだと。馬鹿な、どうやって……貴様の術は既に発動している魔法に対しては干渉できないはず……そんな馬鹿な」

「はは、だいぶご丁寧に調べてくれたみたいだね。ワルムからの報告とこの間の学生君たちの戦闘記録から類推したのかな? さすがに私の魔法もどきを隠すのもそろそろ限界かな」

「まぁ、あれだけ派手な事件を起こしていれば当然だろ。さすがに他にも調べている諜報機関は少なくないさ、ケルムやフィラメント、あとキスレチン共和国あたりは怪しいな」

リュートが帝国や魔法公国そして東の巨大民主国家の名前を挙げると、ユイは大きくため息を吐く。

「はぁ、とりあえず今はその辺のことは考えないことにしよう。ともかく私の魔法もどきだけど、貴方が調べたとおり、私は魔法の発生点を見なければ、その魔法にアクセス出来ないのは正解だよ。といっても、これは私の魔法の性質上仕方ないことなんだけどね。ただ今回はちょっとズルをさせてもらってね、えっとどこにやったかな……あ、あった」

そう言って、ユイは苦笑いを浮かべながら懐から一つの手鏡を取り出すと、ムラシーンはその魔道具を見た瞬間にすべてを悟り、驚愕とともに両目を見開いた。

「そ、それは過去写しの鏡!」

「そう、貴方の弟子のワルム君が持っていたものだよ。まぁ、いろいろあってさ、今は私の手元にあるんだけどね。これを彼が持っていてくれて助かったよ、これがなかったら陛下にかけられている呪術の魔法式の発生点と、その構造式は見ることができなかったからね」

ユイはそう言って、壊れてしまった過去写しの鏡をその場で放り投げる。過去写しの鏡は一度しか使うことができず、いわゆる消耗品であったため、使い終わったその鏡は既に価値を有していなかった。

「……そうか。それを使って、過去の事象発生時の映像を見て、魔法式を書き換えおったということか」

「いやぁ、さすがですね。もっとも、貴方が掛けてしまった呪術は既に完成しているから、後から干渉できないので、実際には貴方の呪術を上書きする形にはなりましたけど……まあ要するに、貴方が描いた魔法式を元にうちの魔法師に同調を行なってもらい、そこからアルミム様の全身に停滞する魔法をハックしたというわけですね」

ユイはそこで一度話を切ると、後ろを振り返る。そこにはレイスの後に続くように、やや恥ずかしげにアンナとエミリーが部屋に入って来たところであり、彼は彼女らに一度微笑みかけた後に、再び口を開く。

「でも、呪いなんて書き換えるのは初めてだから、構造式を読むのがかなり面倒だったんですよ……しかしあんな構造式は初めて見ました。陛下の体内の信号を抑制する魔法? 一体どういう仕組みか、サッパリですよ。消すだけじゃなく、書き足したりしなければならなかったら、お手上げだったでしょうね」

そう言ってユイは首を左右に振り、一度頭を掻いた。一方、よくわからない魔法の解説を行うユイに対して、隣に立つアルミムは一度コホンと咳払いをして話を引き戻すと、ムラシーンに哀れみの視線を送りながら口を開いた。

「……宰相、わしは其方を高く買っていたのだがな。このような結末となるのは非常に残念だ。既に近衛はわしが抑えた。ムラシーン、観念するんじゃな」

「くくく、ここまでということか……」

ムラシーンはアルミムの発言にて、自分の敗北を理解した。しかし彼は玉座に腰掛けたまま、一切動こうとせず、その場で引き笑いを続ける。そんな彼に向かって、ユイは降伏を勧告する。

「さて既に近衛がアルミム様によって抑えられた以上、現時点で包囲されているのは貴方です。というわけで、大人しく降伏してくれませんか。ちなみにうちの魔法科の子たちの解放も行ってもらえると助かりますが」

ユイはそう言って、薬剤と呪術により、モノ言わぬ戦闘マシンとされてしまった、かつての学生たちを順に見ていく。そして彼が十二人全員の顔を確認し終わると、ムラシーンがいつの間にか玉座から立ち上がっており、怒りのままに口を開いた。

「降伏しろだと? ふざけるな! 私がここまで来るのにどれだけ苦労したと思う。私の研究を認めないフィラメント公国を出て、はや二十年。馬鹿な国王に取り行って、周囲を出し抜き、ようやくここまでたどり着いたのだ。これで私を認めなかったフィラメントの馬鹿どもを見返すだけの魔法国家作りが始められる、そう考えた矢先であったのだぞ。それをイスターツ、貴様は……こうなれば我が夢尽きようとも、貴様たち一人でも多くを我が夢の道連れにしてやる」

ムラシーンは憎悪に満ちた目でユイを睨みつけると、片手を上げ他の魔法士たちに合図を行った。

「なんかどう考えても逆恨みだよね……なんでこう、魔法士って感情的なのかな?」

ユイが目の前の事態を見て、弱ったようにそう呟くと、彼の側に居たリュートとナーニャが抗議の声を上げた。

「俺を馬鹿にしているのか、ユイ」

「あたいのことも馬鹿にしてるのかい?」

「いや、そういうところが、かんじょ――すいません、嘘です。そんな目で見ないでください」

二人の視線の圧力にユイは早々と白旗を上げる。そんな三人を見ていたアレックスが、笑いながらユイに向かって報告した。

「さて、剣士の僕としては、ムラシーンが魔法の準備をしているので、そんな感情的な話をしている場合じゃないと思うけど」

その忠告を受けてユイは、再び表情を引き締め前方を見やると、まさにムラシーンが魔法を練り上げるために集中を始めた所であった。

「助かった、もとい、まずい状況だな。ならアレックスとリュートで、学生たちを頼む。連れてきた連中を使ってもいいから、できるだけ怪我のないようにな」

「わかったよ、それでユイは?」

アレックスが言外に働くよねという意思を乗せてそう尋ねると、ユイは頭を二回掻いて返答した。

「仕方ないから、私はあの魔法を使うおじさんの相手をするさ」

ユイはそう言って、アルミムをレジスタンスの一人に預けると、覚悟を決め玉座で待つムラシーンに向けて駆け出した。