軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地方演習の名目で各地の領主を監視下に置くために、ラインドル王国軍の大半を送り出したジーセンは、その夜、行うべき対策を終えた満足感からか、王宮内の仮眠室にて深い眠りへとついていた。そんな彼を眠りの淵から呼び起こしたのは、顔を真っ青にさせて彼の部屋へと飛び込んできた副長の姿であった。

「隊長! た、大変です!」

副長は口をパクパクさせながら、なんとかそうジーセンに告げると、ジーセンは眠い目をこすりながら、彼に向かって問いかけた。

「一体何があったと言うんだ? そろそろ国王陛下でもお亡くなりになったか」

「そんなことを言っている場合ではありません。セーブルが、セーブルが火の海です!」

「な、なんだと!」

ジーセンはその報告を受けるなり、寝間着のまま手近な窓へとかけ出すと、勢い良く窓を開け放つ。すると市内の各所から真っ赤な炎が、煌々と夜の街を明るく照らし出し、焦げ臭い匂いと煙をまき散らしていた。

「一体どういうことだ、なにがあった?」

「分かりません、先ほどから、急に市内の各所に火の手が上がりまして。しかも燃えているのはなぜかムラシーン様直轄の建物ばかりです」

副長の報告を受けると、ジーセンはとたんに眠気が吹き飛び、脳内が思考を再開し始める。そしてすぐに一つの答えに行き着くと、副長を怒鳴りつけた

「馬鹿者! だとしたら原因は明らかだろ。明らかに意図的な放火に決まっておる、くそ、レジスタンスの仕業か!」

「や、奴らがですか?」

「ああ、レジスタンスのクズどもだ。おそらく奴らは、王国軍が半減したこの機を狙って、テロ行為を行っているに違いない。ん、待てよ、タイミングが良すぎる……おい、火事に対し、どう対処しているんだ?」

ジーセンは副長を睨みつけながら、対応を問いただすと、彼は報告すべきことを脳内で整理し、ジーセンに告げた。

「はっ、取り敢えず駐在軍が半分おりませんので、第一、第二連隊を中心に、宮廷魔法士部隊も市内各所の封鎖と鎮火に出向いているところです」

その返答に、現在が危機敵状況の可能性が頭をよぎりジーセンは急に顔を青くする。

「くそ、それこそが奴らの狙いだ! 今の王宮にはどれだけの兵が残っている?」

「近衛部隊と、ムラシーン様直轄の魔法士隊ですが……」

ジーセンの動揺と質問の意図がわからない副長は、やや不安げに回答を行う。

「まずい、まずいぞ。奴らの狙いは我々を分散させることだ。きっと今にもこの王宮に――」

ジーセンがそう言い出したタイミングで、突然王宮内に途方も無い爆発音が響き渡る!

「な、何事でしょうか?」

「おそらく奴らの襲撃だ。いかん、すぐ近衛を集めろ。ムラシーン様が危ない!」

街に火の手が上がり始め、王宮内の兵士の半数以上が、鎮火のために出て行ったことを確認すると、レジスタンスの面々は王宮の東に備え付けられていた枯れ井戸から、次から次へと王宮内の庭へと侵入を果たす。そして彼らが最初に取った行動は、南の正門へと向かい、王宮周りの堀に掛けられたメインの通行橋となる石橋を破壊することであった。

「ナーニャさん! お願い出来ますか?」

「あいよ。砕けな、ビブラシオン!」

ナーニャが振動破壊呪文を唱え、その石橋の繋ぎ目を破壊することで橋を落とすと、カイルはまず一つ目の成功に安堵した。

「これで多少は時間が稼げるはずです。裏側にも通用橋がありますが、少なくとも後背からの追撃はこれで防げるでしょう」

「あの、こんなにあっさりと破壊していいんでやすか? 今後のことを考えると、ここまで派手にやらなくてもいいと思いやすが……」

クレイリーは、なんの遠慮もなく、カイルの生家でもある王宮の橋をなんのためらいもなく破壊する姿に、あの男の悪影響を疑い、一応確認する。

「構いません。どの道この戦いに勝たないと、次なんて無いんです。ですから、せいぜい派手にやりましょう」

そう言って、ニコッと笑みを浮かべたカイルの姿を見て、クレイリーは間違いなくあの男に影響されていることを感じ取り、僅かに顔を引き攣らせた。

「クレイリー、うだうだ言ってる暇はないよ。あれだけ派手に叩き壊したんだ、すぐに近衛の連中が駆けつけてくる。さっさと王宮内に攻め入るよ!」

橋を爆破した張本人は、大魔法を使った影響で、やや肩で息はしているものの、破壊活動の満足感のためか愉悦の表情でそう告げる。そして息が整い次第、さらなる戦闘を求めて、レジスタンスの先陣に立つため、クレイリーたちを置いてその場を駆け出した。

「はぁ、旦那がいないと手綱を握る人間が……まぁ、居たとしても、止められるとは限らないわけですがね」

クレイリーはハゲ頭に手をやりながら諦めの表情を浮かべると、一度ため息を吐いた後に、カイルやナーニャを追うように、カインスを引き連れて駆け出す。そして王宮内に突入するやいなや、既にその中では激しい戦闘が繰り広げられていた。

「雑魚に構うんじゃない。ただ一人、ただ一人ムラシーンの首さえ取ればいいんだ。全員、真っ直ぐここを突破しろ!」

レジスタンス部隊の中央付近で、マルフェスがそう叫び、部隊を少しずつ王宮の中枢へ向けて進軍させていく。もちろんラインドル王家直轄である近衛兵の技量と練度は非常に高く、レジスタンスは犠牲を出してはいた。しかし突然の事態の為、十分な人数の揃わない近衛では、レジスタンスの勢いを押しとどめることは困難であった。

「クレイリーさん、こっちです!」

少し前方にいたカイルが、クレイリーに向けて声を張り上げると、クレイリーはひとつ頷き、カイルの元へと近づく。

「それで、ここからどちらに向かうんでやすか?」

「この王宮は東に王家の居住区があり、北に謁見室や大玉座の間が、そして西に官僚や大臣などの執務室が配置されています。なので昔と配置が変わっていないとしたら、ムラシーンの執務室自体は西にあるはずです」

カイルがかつての生家の構造を脳裏に浮かべながら、クレイリーに説明すると、彼も先日ユイにともなってここを訪れた時の記憶を蘇らせた。

「そういえば、先日旦那に連れられてこの建物に来た時も西館の方へと案内させられやしたね。だが、目の前の近衛の連中はどうも北向きの通路を守っているようですが?」

「ええ、ユイさんが言うには、二つ可能性があるだろうということでした。西の執務室にいる可能性と、北の大玉座の間にいる可能性です。もしムラシーンが事態に早い段階で気づいた場合、おそらく奴の魔法と魔法部隊を有効に使える、広い場所を迎撃地点として選ぶというのが、あの人の予想です」

クレイリーの疑問に対し、先日の作戦会議でユイが話していた内容をカイルは説明する。するとクレイリーは、ある可能性を見落としているのではないかと思い、確認のため口にした。

「しかし奴が逃げる可能性もあるんじゃないですかい?」

「僕もそう尋ねたんですが、それはないというユイさんの返事でした」

カイル自身も、なぜそう考えるかを尋ねなかったため、確信がもてないでいたが、ユイの返答をそのままクレイリーに話す。するとクレイリーは、旦那の言うことだからと、頭を撫でながら納得した。

「……まぁ、旦那が言うのならそうなんでしょうが。で、どうしやす?」

「僕はこの近衛の配置から、北が本命と考えます。ただもう一方にも保険のために部隊を送り込むべきだと、ユイさんはおっしゃっていました。ですので、そちらにはレリム率いる魔法兵部隊に向かってもらうつもりです」

クレイリーはその発言を聞いて当初は怪訝そうな表情を浮かべた。それは、総力戦となった場合、数的不利なレジスタンスの少ない兵力を、なんのために分散させるわからなかったためであった。しかし、発案者のユイの思考を彼なりにトレースすると、とたんに彼の疑問は氷結し、思考をすぐに切り替える。そうして彼は気持ちを切り替えると、眼前の交戦中の敵に視線を向け、自分たちのできることを始めることにした。

「じゃあ、オイラたちも手伝いやすか。カインス!」

「へぇ、任してください」

カインスはそう返事するなり弓を構えると、次々と矢を放っていく。その矢は味方の動きを予測した上で、彼らの隙間をかいくぐりながら、敵の前線の兵士を次々と射止めていった。室内でありながら、その凶悪なまでの矢の正確さに、前線の近衛兵は恐怖し、前線は狂乱状態となっていった。

「今だ、一気に突き崩せ!」

マルフェスの鼓舞に、レジスタンスの面々は突撃という形で答えると、次第に前線のラインを押し上げていき、戦場は次第に王宮の北へ北へと移行していく。そうして、大玉座の間へと続く狭い廊下を、勢いで圧倒するレジスタンスが占拠し、彼らは大玉座の間の前で、厳重な守備網を形成する近衛の本体と対峙することになった。

「さて、これだけここが固められているということは、そういうことだな」

「ええ、おそらくここに奴が居るんでしょう」

カイルはマルフェスの言葉に賛同を示すと、周囲の兵士たちはさらに士気を高めていく。そうしたレジスタンスに対して、対峙する近衛たちは彼らを憎々しげに見やると、指揮を預かるジーセンは、怒号を発した。

「かつての我が軍の者達とはいえ、あんな寄せ集めどもに良いようにやらせてなるものか。宮殿内に分散している、警備の近衛が集まれば、我々のほうが数の上でも優勢だ。そして、市内に出た兵たちが戻れば我々の勝利は約束されている。良いか、絶対ここを死守するのだ!」

ジーセンの言葉に、やや押し込まれ気味であった近衛兵たちは、士気を取り戻すと、それぞれ武器を構え直し、レジスタンスの兵士を睨みつける。そのお見合い状態となった、一触即発の空気に火をつけたのは、当然のごとくナーニャの一撃であった。

「あんたたち、まどろっこしいことしてないで、さっさとそこをどきな。フレイムショット!」

そのナーニャの炎の弾丸が引き金となり、両軍の戦闘がたちまち再開する。その激闘は、当初は勢いにまさるレジスタンスがはっきりと優勢であり、大玉座の間の目の前まで先陣は近づくに至った。しかし王宮内の近衛兵が、警備していた各部署から続々と集結し始めると、ゆるやかに戦況は変化を始める。

「まずいでやすよ。あっしらはこれでほぼ全軍ですが、敵は違う。このまま続けばいずれ疲弊し、飲み込まれやす」

「わかっています、僕達に道はひとつしかない。さあ覚悟を決めましょう。マルフェス!」

「ええ、やるしか無いですね。お前ら、覚悟を決めろ。ただ一人、ムラシーンの首をとることだけに集中するんだ。これより前線の敵を強行突破する!」

マルフェスのその声に、前線の兵士たちは決死の覚悟を決めると、命を投げ出す覚悟で前面の兵士へと突撃し始める。

「カインス!」

「わかっています」

クレイリーの声にカインスは短く答えると、マルフェスたちをアシストするため、残り有るだけの矢を全て使い尽くす勢いで連続して放っていく。そして最後の一矢になったところで、彼はすべての神経を研ぎ澄ませる。そして自分の指先を越えて、矢の先まで神経がつながっている感覚を体が感じた瞬間、敵の一点に集中し、それを解き放った。

「な……」

カインスが解き放った矢は、マルフェスの顔のわずか横を、すり抜ける形で通り過ぎると、次の瞬間にはジーセンの眉間に深々と突き刺さっていた。

「よし、このまま大玉座を占拠する!」

指揮官を失い、動揺を隠せない前面の近衛たちを前にして、マルフェスは高らかと宣言すると、彼らは津波のように近衛たちを押しこみ、そして大玉座の間へと通じる扉を蹴破った。そうして入り口が開かれた瞬間、雪崩れ込むかのようにレジスタンスの面々は中へと踏み込んでいく。

「ムラシーン覚——」

兵士たちの誰からともなく発せられようとしたその雄叫びは、次の瞬間に側面から彼の喉が貫かれたため、虚しく霧散する。大玉座の間に踏み込んだ彼らを待っていたものは、部屋中の全面から一斉に解き放たれる氷の矢であった。

「「アイスランス!」」

次の瞬間、再び巨大な氷の矢が部屋内の各所からレジスタンス目がけて放たれると、彼らの前線はとたんに瓦解した。

「まずい、このままでは……ナーニャ!」

「分かってるよ。クソ、振動破壊なんか使うんじゃなかった……それに防御魔法って苦手なんだよ。マッドウォール!」

ナーニャは残る魔力を振り絞りながら、なんとか小規模な土壁を前面に構築したが、室内の各所から放たれる氷の矢を防ぎ切ることは絶望的であり、レジスタンスは次々とその場に倒れていく。そして彼らから遠く離れた玉座に座る男が、呪文を編み上げ始めた瞬間、その魔力の膨大さに、レジスタンスの兵士たちは敗北を悟った。

「ここまでご苦労。だが、最後の詰めが甘かったようだな。カランバノ!」

勝利を確信したためか、王のために用意された、絢爛な玉座に座る男の声が、部屋中に響き渡る。そしてその声と共に、レジスタンスの兵士たちの頭上に、無数の巨大な氷柱が生み出される。

「くそ、ここまで来たのに。父さん、ごめん」

カイルが天井を見上げ、その絶望的な光景に諦めから目を閉じる。すると、その場に彼を叱り飛ばす声が響いた。

「諦めるな! あいつと一緒に居たことがあるなら、奴の往生際の悪さを少しは見習うべきだろ。ファイヤーストーム!」

後方から部屋の中へと飛び込んできた銀髪の男が、その呪文を唱えた瞬間、落下してきた無数の氷柱は炎の嵐により一気に融解し、完全に霧散した。

「だ、誰ですか、貴方は?」

カイルは突然の事態に動揺し、先ほど自分に声を掛けた銀髪の男にそう問いかける。しかしその問いに答えたのは、その厳しい表情をした男ではなく、彼のあとに続いて入ってきた赤髪の男であった。

「ふふ、助っ人ですよ。ユイから聞いていませんか? 魔法士の相手は私たちに任せろってね」

そう口にした男は、キツネ目をさらに細めながら笑みを浮かべると、カイルの肩をポンと叩いた。