作品タイトル不明
139話
まずはよく使いそうな単語から覚えていく。挨拶と、珍しいモンスターは見なかったかってどう聞いたら良いんだろう?
露和辞典をペラペラめくりつつ、ノートに単語を書き出していく。実際口に出して発音してみるが、通用するかは実施してみないとわからないな。
それと喋るのはともかくとして、本場のロシア語をヒアリングできるだろうか? 英語なら映画なんかで耳にする機会は多いが、ロシア語はあまり耳慣れないしな。
何か良い物は無いかと収納を漁る。結構手当たり次第に収納しているから、ヒアリング教材なんか紛れ込んでいないだろうか。
「お、あったあった」
早速CDを再生しながらロシア語漬けになる。英語でカバーできる国も多いだろうけど、通じない所はその国の言葉を覚えていく必要があるのか……モンスターを探すのも大変なのに勉強も頑張らないといけないとは。
現地の人たちと交流せずにひたすらモンスターを狩るという手もあるが、日本でさえ広くて情報提供を求めたのだ。それが世界に広がったら、とてもじゃないがソロ攻略はしんどそうだ。
それに誤解を招いて敵対される恐れもある。現状モンスターは人類にとって敵性存在だが、同時に食料や生き残るためのアイテムを落とす資源でもある。
そこで何の理由の説明もなく、避難所なんかの近くでモンスターを狩りつくそうものなら、何だアイツはとなること待ったなしなのだ。
「ネトゲじゃないけど、よその獲物を狩ったら 大顰蹙(だいひんしゅく) をかいそうだよな」
しかも自分の狩り方だと、レアポップを求めて根こそぎ狩ったりするので尚更だ。ずっとそこに滞在するわけでもないし、海外の避難所事情がどうなっているかもまだわからないので杞憂に終わるかもしれないが、穏便にことが運ぶならそれにこしたことはない。
(しかも海外は日本より治安が悪いっていうしな……ううっ胃が痛くなってきた)
言葉の壁や文化の違い、治安や人種など様々な胃痛要素が頭にわいてきてため息がでる。それでも図鑑完成のためには頑張らなくてはならないのだ。
ゲームと違ってリアルだと考えることの多さにマイナス思考になりかけるが、気を取り直して勉強に集中することにした。
(そういえば何か忘れているような……あっ!)
久しぶりの勉強で疲れて休憩にお菓子で糖分補給をし、コーヒーを飲んでいるとお松さんを収納にしまいっぱなしなのを思い出した。
慌ててお松さんの分のお菓子とお茶を用意し収納から取り出す。
「あら、お兄さん。もう戦いは終わったんですか?」
「ええ、中々強敵でしたよ。さあお松さん、オヤツをどうぞ」
「やったー! この緑のおもち好きなんです!」
ふぅ、どうやら今まで完全に忘れ去っていたことには気がついていないようだ。自分はあまり得意ではないずんだもちを、お松さんが喜んでパクついている。
「シュナイダーはゼロの所ですか? あっ、おもちとお茶のおかわりをお願いします」
「実はですね……」
お松さんにオヤツのおかわりを出しつつ、戦闘後のいきさつを話す。
「お散歩ですか、もう仲良くなったんですね」
「なんだかレベルが上がると動物は賢くなるみたいなんですよね。噛み付いてきたりもしないし、話せる白熊たちですよ。まぁ自分はシュナイダーの通訳がないと何を言っているかわからないんですが」
「本当にキテレツというか、ふぁんたじー? な世の中になりましたねぇ」
と、自分もかなりふぁんたじーな存在のお松さんがお茶をのみながら感想を述べる。
「それでお兄さんは勉強ですか。いつもならシュナイダーたちと散歩と称した狩りにいっているのに、珍しいですね」
「必要なことですからね。図鑑完成の道のりは厳しいんですよ」
やることがなくて暇そうにしているお松さんに追憶の広間に行くか尋ねると、一緒に勉強をするという。もしかしてロシアでも講演会を開くつもりか? もしくは国際結婚も視野にあるということか……凄いなお松さん。
しかし一人でやるよりいくらかやる気が増す。それからはお散歩チームが帰ってくるまでお松さんとロシア語の勉強を頑張った。
なんとか簡単な会話ができるくらいになったころ、時計を確認する。もう日が沈み辺りは真っ暗になる時間だ。
「帰りが遅いですね」
「そうですね。ゼロとシュナイダーセットで出かけているので、ここら辺のモンスター相手なら万一もないと思うんですが……本当に無理そうなら逃げてくるでしょうし」
二人は賢いし結構慎重な性格をしている。それでもいつもより帰りが遅く、心配になったので探しに行こうと準備をする。
その時であった。扉の外からゼロとシュナイダーの声が聞こえた。開けてくれと言っている。
「おかえり。ちょっと遅かったね……」
扉を開けるとやせ細った子供たちを背に乗せた白熊たちと、困り顔のゼロとシュナイダーがおすわりしていた。