作品タイトル不明
ep22 のの猫との共同戦線
絶賛のコメント欄を前に俺は――。
「お、おぉう……」
普通に照れていた。
「相馬さんにしては珍しい反応なのにゃ」
「それはそうですよ。ネット民って言えば無条件で俺のこと攻撃してくるじゃないですか。いきなり優しくされたら、なんかこうギャップ萌えと言うか、ヤンキーが野良犬拾ってるのを見た気分になります」
「ネット民に、ギャップ萌え……?」
理解できない様子ののの猫。
俺も自分で言っていてよく分からなくなってきた。
どうしよう、この空気。
なんて思っていると、真横から亜麻色の髪の少女が抱き着いてきた。
「相馬っちありがと〜!! やっぱ凄いね〜!!」
「ちょ、だから今配信中だって! 顔映るぞ!?」
「あ〜まぁ、それはもういいかな~。なんか前の動画で名前まで全部バレてるって江渡ちゃんに言われたし」
「えぇ……」
そうだったのか。
ちらっとのの猫に視線を向けると、申し訳なさそうな表情をしていたので本当の事なのだろう。
(てか今サラッと江渡の名前も言ったけど大丈夫なの?)
なんて心配は続く言葉で急に終わる。
「それに美少女って言われて嬉しかったから、今度三人で配信しようって話になってたんだよね~」
「何とも単純な。でもまぁいいんじゃないか? 人気出ると思うよ、白木面白いから」
「ほ、ほんとっ!? いやぁ~やっぱりそうだよね~! 美少女で話も上手いなら人気になるよねぇ~!! わっはっはっ、自分の頭の良さが憎いねぇ~!」
「うんうん、ほんと面白くて飽きないよ」
「なんか馬鹿にしてる?」
「してないよ」
「そっか~! 良かった! お馬鹿な相馬っちに馬鹿にされたらどうしようかと思ったぁ~」
「……何だと!? 性懲りもなく魚釣ってたくせに! どうせまた刺身にして食おうとしてたんだろ!? そっちの方が馬鹿じゃねぇか!」
「なななっ、べ、別にいいじゃん! 食べて見たかったんだもん!」
まぁ、俺も食べてみたいかと聞かれれば首肯を返すが。
やんややんやと言い合っていると、気絶していた江渡を草原に寝かせた友利さんが近付いてきて、白木の袖を掴んだ。
「友利ちゃんどうしたの?」
「白木ちゃん、邪魔しすぎ。……二人は配信中」
その言葉に白木だけでなく、俺もハッとする。
二人同時にカメラへと目を向けると、そこにはあきれた視線を向けるのの猫と笹木さんの姿。
「「ご、ごめんなさい」」
二人揃って謝罪を口にするのだった。
:ふえぇ、二人とも馬鹿だよぉ
:相馬っちって呼ばれてるの裏山死刑
:白木可愛い
:二人ともバカワイイ
:相馬お前二回目やぞwww
:猫ちゃんの呆れた表情草
:世界よ、これが日本のSランク探索者だ…涙
散々な言われようだけど、間違いなく自業自得なので何も言い返せなかった。
§
白木たちと別れた俺とのの猫は、以降もダンジョン配信を続ける。
基本的にはどちらかがモンスターを討伐し、もう片方がコメントに寄せられた質問に答えていく方式だ。
と言っても、質問のほとんどは俺に向けられたものばかり。
収入はどれぐらい? 一番ヤバいと思った瞬間は? 一番苦手なモンスターと得意なモンスターを教えてください。別のダンジョンに潜ったことはある? 等々。
Sランク探索者への興味から来る質問から始まり『彼女いますか?』なんてありふれた質問まで。
唯一スルーする質問は『影猫って本当ですか?』というものだけ。
これだけは事前に触れないよう取り決めていた。
のの猫曰く『露骨にスルーしていると一種の内輪ネタに昇華できるから、ネガティブな印象を書き換えやすくできる』とのこと。
個人的にはのの猫へと愛を囁き続けて来たアカウントが、名前を呼んではいけない例のあの人みたいな扱いを受けていて悲しい。
「――ふっ! っと、どうかにゃ。師匠」
「いい感じですね。魔速型としてはもうかなり完成形に近いかと。後は経験を積めばさらに上のランクも見えてくるかもしれません」
「そうなのにゃ? Bより上のAランクって極大魔法の習得が必須だったと思うんだけど……」
「基本的にはそうですね。ただ絶対という訳ではありませんよ。Aランク相当の実力を提示することが出来れば昇格は十分あり得ます。……死ぬほど難しいというだけで。Aランク探索者は全員極大魔法を一つ以上使えますが、だからと言ってその他が弱いという訳ではありません。極大魔法が無かったとしてもBランク探索者とは一線を画す実力を有するからこそ、Aランクとして認められるのです」
簡単に言えば、仮に極大魔法を使えたとしても、戦闘技能がほぼ皆無であればD~Eランク探索者とされる。
要は『極大魔法はあくまでも実力の一端に過ぎない』と探索者ギルドは判断しているのだ。当然だよね。
この辺は、三船ダンジョンで大怪我した際にレイジが言っていたことと通ずる部分がある。雑魚に高ランク与えても、当人と周囲に迷惑をかけるだけ。だから降格させる――と。あの時、彼が言っていたのはそういう事だ。
「にゃ、にゃるほど」
「なので、逆に言えば極大魔法が使えなかったとしてもAランク探索者と同等以上の実力があればAランクとしてギルドに認めてもらうことが出来るんですよ」
:はえ~
:相馬くんが賢く見える
:お前ただの馬鹿じゃなかったんやな
:Aランクってやっぱり化け物なんやね…
:Sランク昇格の条件がダンジョン完全攻略者ってのはマジなの?
俺はコメントの質問に答える。
「そうですね。条件の一つです。ただし絶対ではありません。例えば過去、ジョン・カーター氏、ルキーチ・カラシニコフ氏、アサド・モハメド氏の三名がダンジョンを攻略していますが、彼らはパーティーを組んでいました。しかしSランクになったのはこの三人だけ。それまでの経験や、高ランクモンスターの討伐数、その他多角的な視点から見て、水準を満たした者がダンジョンを攻略した際にSランクに昇格する、という形になります。日本でも水準自体を満たしているAランクは数人いまして、一番有名なのは雲龍礼司氏でしょう」
:やっぱりレイジって化け物なんやね
:てか相馬がレイジの名前出すんか……
:これもうレイジのこと煽ってるだろww
正直全く意識していなかった。
単純に話の流れで名前を出したのだが……ミスったな。
のの猫も一瞬渋い顔をしてたし。
(でも実際レイジは凄い。全属性の魔法を極大魔法まで使えるのは世界であいつ一人だし、その他の実力も申し分ない)
俺の偶発的なダンジョン攻略が無ければ、日本初のSランク探索者が彼だったのは間違いないだろう。
……まぁいいか。
口に出してしまったものはどうしようもない。
若干荒れるコメ欄を無視し、俺たちは探索を続行。
それから三十分ほど。
質問に答えたり、或いは○○の魔法って使えますか? という要望にのの猫と一緒に答えたりしていると、配信終了予定時間が迫ってくる。そろそろ締めに入るべきかとのの猫に目配せすると、彼女は首肯。
「それじゃあ――」
とのの猫が口を開くと同時に、彼女は身を反転させて剣を引き抜いた。
そこには約二十体の群れを形成したコボルトと夜叉百足の姿。
どこか統率された動きに元をたどれば、群れの奥に一匹だけ他のコボルトより二回りは大きな個体が居た。
「コボルト・ジェネラルか。珍しい」
コボルトの上位種族。
ゴブリンがそうであったように、大抵のモンスターには上位種族が存在する。
そしてモンスターは基本的に群れを組まないが、知能が高く強力な個体が出現すれば、集う事もあり得るのだ。
(まぁ、それでも俺たちにとっては雑魚だし、猫ちゃんでも余裕だろうけど……)
「どっちが相手します?」
「ん~、時間的にこれが最後の戦闘だろうし、何より折角のコラボなんだから一緒に戦うのはどうにゃ?」
「最推しと……共闘……っ!? 是非!!」
:むしろコラボ配信なのになぜ一度も共闘していなかったのか
:二人ともソロで十分強すぎるからねぇ
:普通に楽しみ
:魔速型の共闘とかどうなるんや!
盛り上がるコメントを横目に周囲を確認。
他にモンスターの気配はないので、笹木さんを守る必要もない。
今はただ――全力で猫ちゃんと共闘することを楽しめばいい。
「それじゃあ俺が合わせるので好きに動いてください」
「りょ~かいにゃ~。それじゃあ――行くにゃ」
ぺろっと唇を舐めてからのの猫は駆け出し、俺もその後を追うのだった。
§
私、フラウは一人大きく伸びをする。
(この『パソコン』越しだったから何を言っているのかは分からなかったが、あのシーサーペントを討伐した魔法……やはり創はかなり強いな)
元々私では太刀打ちできないオーガの群れを容易に屠ったことから理解していたつもりではあるが、それでもこうして派手な演出込みで見せられると、その感慨も一入。
以降はちまちまとした戦闘で面白くなかったので、フラウは事前に教えられていた手順でタブを閉じると、パソコンの電源を落とした。
必然的に静かになる室内。
エアコンの風を浴びながらソファーに寝っ転がり、思う。
「身体動かしたいなぁ……」
自重トレーニングは行っているものの、双剣を使った型稽古は行っていない。こればかりは部屋の中が狭いから仕方がない。外で行おうにも、万が一にでも見つかれば創に多大な迷惑をかける。
(それは申し訳ない)
フラウはソファーに寝っ転がりながら、電源の入っていないテレビを見つめる。暗い画面には無気力極まる自分が映り込んでいた。
自分の顔だというのに、全く覚えがない。
誰だお前はと言いたくなる程だ。
もしダンジョンで創に出会っていなければ――もし彼も記憶をなくした経験のある人間でなければ――自分はどうなっていただろうか。そんな益体のないことを考える。
聞いたところによると、創は失われた記憶をダンジョンを完全攻略することで取り戻したという。
(私にはまず無理だな。……仮に創に協力を仰いだとしても、何よりも優先して私の記憶を戻すかどうかは分からない)
異世界から侵略を受けているこの世界の人間にとって、私の記憶は喉から手が出るほど欲していることではあるだろうが、問題なのは私がそれらに関する記憶を持っていたかどうかが分からないという点にある。
ダンジョン完全攻略が難しいことは創から聞いて知っている。
それらを強行し、多大な犠牲を強いた上で戻った私の記憶が、私自身の名前や――双剣に刻まれていた愛する者に関する記憶、はたまた家族に関する記憶では何の意味もないのだから。
「……もし、私の存在がバレたらどうなるのだろうか」
創から話を聞いた感じ、大半の人間は私より弱い。
だが、国や世界丸々一つが相手ではどうしようもない。
(まぁ、どうせその時は、あのお人良しが助けてくれるのだろうが)
出会って数日だが、裏切られる未来という物が欠片も思い浮かばない辺り、一種の恐怖すら感じる。だが、事実そうなのだから仕方がない。変に気張っていても疲れるだけだ。
なんて考えていると、ふと玄関方向に気配を感じる。
『タクハイビン』という奴だろうか?
以前私の服と下着を購入した際にも『タクハイビン』が届けてくれた。
(まぁ、来客があっても出るなと言われてるから出ないけど……)
と考えていると『インターホン』が鳴り、数秒後――がちゃがちゃ、がちゃん。
玄関の鍵が開く。
マズい、合鍵を持つ誰かか? と思ったのも束の間、僅かに開かれた扉から見えたのは、顔を隠した男の姿。
それは別の世界の住人である私にとっても異常極まる存在で――。
(……何者だ?)
咄嗟に身を隠した私に気付かず、男たちは土足で家に上がり込んできた。