軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep23 種族進化

のの猫との初めての共同作業。

こんなのもう結婚式じゃん。

そんな妄想を脳裏に浮かべつつ、俺はのの猫をバックアップするように動き回る。本来、誰かと一緒に戦うという行動にはそれなりの練習が必要になる。

しかし、俺はのの猫のガチ恋勢だ。

のの猫の細かな癖や重心移動、それに加えて敵の配置などからどう動きたいのかなどは手に取るようにわかる。後はそのサポートをするように立ち回ればいいだけだ。

のの猫がモンスターを倒し、僅かに生じた隙を埋めるように交代。

「……っ」

微かに息を飲む音が聞こえる。

ちらりと視線を向ければ、まっすぐな瞳と目が合って——彼女はにやりと口元を歪めて見せた。

「気持ち悪いぐらい合わせるのが上手いにゃ~」

「気持ち悪いって……ちょっと酷くな~い?」

そんな軽口を叩きつつ、俺は氷の剣を振るってのの猫と入れ替わる。魔速型二人による超高速の連携による戦闘。そこに一切の隙は無く、モンスターの群れは成すすべなく削れて行く。

一方的な虐殺。

相手が俺やのの猫にとって雑魚同然のモンスターであることを除いても、今まで感じたことのない快感が胸中を満たす。本来ソロで戦うことの多い魔速型という歯車が、初めて噛み合ったような感覚。

きっと、戦力としてのバランスを見れば七規や幸坂さんと組んだ方が強いだろう。だが一方的に敵を殲滅するという『戦闘における 爽快感(・・・) 』は他の追随を許さないと本能が悟っていた。

:はっえぇぇぇぇええええええ!!

:こいつらヤバすぎやろww

:魔速型ってソロ向きの戦闘方法ってイメージやったが、二人揃うとこうなるんか!?

:↑普通はならん! こいつらがヤバすぎる!ww

:この二人がパーティー組んだらダンジョン攻略も余裕なんじゃね?

:流石に二人はきついかも、と思いきや相馬はソロでのダンジョン攻略者って事考えたら有り得そう。

まるでダンスでも踊っている様な心地よさに溺れ、俺とのの猫は敵を殲滅し——残すはボスであるコボルト・ジェネラルのみ。

このまま一気に攻め切ると言わんばかりにのの猫は駆けだして——、ジェネラルは足元に落ちていた仲間の魔石を蹴りつけて来た。

「――っ!?」

まさかの反撃にのの猫は攻撃の手を緩め、その隙にジェネラルは手にしていたバトルアックスを振り上げる。即座に俺がカバーに回り、アックスを受け止めてカウンター。――刹那、コボルト・ジェネラルは大きく後ろへ飛びのいた。

「……へぇ、強いなこの個体」

モンスターには個体差がある。

ダンジョンにより産み落とされたばかりのモンスターは比較的弱く、一方で長い時間生存しているモンスターは、経験と知識を身に着け、戦闘技術も高い。先程のレイクサーペントも、おそらくは長い間あの湖に生息し続けていた個体だろう。

今までレイクサーペントの話を聞かなかったことからも、誰にも見つからずあの巨大な湖で生存し続けてきたことが窺える。

そして、眼前のコボルト・ジェネラルも同様。

他のコボルトやコボルト・ジェネラルとは一線を画す。

――が、あくまでもそれだけ。

結局のところ、どれだけ強かろうとコボルト・ジェネラル相手に俺が苦戦することは無いし、それはのの猫も同様。彼女は僅かに目を見開くも、直ぐに唇を舐めて闘争心をみなぎらせる。

俺が出る必要も無いだろう、と一歩下がろうとして——。

『GA! GAGYAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――ッッ!!』

突如として奇怪な雄叫びを上げるコボルト・ジェネラル。他者を威嚇するために行われる、生物としてごく当たり前の行動。しかしのの猫に一切怯えた様子はない。

彼女は剣を構え直そうとして——次の瞬間、コボルト・ジェネラルの肉体が 変化(・・) する。

身体は大きく肥大化し、スラリとした体躯ながらも無駄のない削ぎ落された筋肉を有する姿。牙が伸びて、獰猛な赤い瞳がのの猫を射抜く。

コボルト・キング。

夜叉の森ダンジョンであれば通常五十階層付近で見られるコボルトの上位個体だ。

モンスターが進化した。――その異様な光景にのの猫が一歩後退る中、俺は胸中にあふれる興奮を隠しきれなかった。

「すげぇ…… 種族進化(・・・・) とか初めて見た」

「えっ――種族進化って、あの!?」

「はい。昔から目撃例はあったものの、つい最近まで眉唾、噂の産物として扱われていたモンスターの性質の一つ。今から二十年前、エジプトのSランク探索者のアサド・モハメドが撮影に成功したことで証明された、奇跡」

アサド・モハメドの時はブラックサーペントと呼ばれる巨大な蛇が、バジリスクと呼ばれるSランク指定のモンスターに変貌する瞬間をとらえていた。これにより『モンスターは進化する』という性質が確定されたのだ。

馴染み深いモンスターで言うと、ゴブリンジェネラルはゴブリンが種族進化した姿だと言われている。が、全てのモンスターが種族進化しているわけでは無い。

大多数のモンスターは生まれた時から姿が決まっており、死ぬまでそれは変わらない。ゴブリンは生まれた時からゴブリンで、ゴブリンジェネラルも生まれた時からゴブリンジェネラルだ。

その中で発生する例外。

それこそが種族進化個体。

おそらく、何かしら一定の条件を満たしたモンスターが、種族進化を行うのだろうというのが昨今の研究結果だ。進化する個体は0.01パーセント以下。また、その瞬間に立ち会うとなれば、とんでもない確率である。

「いやぁ皆さんラッキーですね! こんな光景を生で見れるなんて一生に一度あるかないかなんですからッ!」

:相馬くんウキウキで草

:わい一般人。興奮具合が分からない。

:探索者やってる身からするとマジてとんでもない奇跡やわ

:初配信で種族進化撮影とか相馬運良すぎるやろwwww

:種族進化とか初めて見たンゴ

:よく分からんがやべぇことは分かった!

:ネットで調べたら種族進化する個体って0.01パーセント以下って書いてたわ。

:↑しかもあくまで『進化する個体』の確率やからな。進化の瞬間を、それも配信してるとか前代未聞すぎりゅ……

「そうなんですよ! とにかくめちゃくちゃレアな瞬間なんですよ!」

「え、えーっと……あれ倒していいにゃ?」

「それはもちろん構いませんよ! ただ……気を付けてください。種族進化したばかりの個体は、通常種より圧倒的に強いですから。戦ったことが無いので正確な強さは測りかねますが……コボルト・キングは通常個体でもBランク指定のモンスター。それより強いと考えて挑んでください」

Aランク指定とは、通常Bランク探索者が複数で挑む相手。のの猫はBランク相当の実力を有しており、そう遠くない内に昇格するとはいえ現状はまだCランク。

多少脅すような言い方となる俺に対し——しかし彼女は臆する様子も見せずに、ぺろりと唇を舐めて濡らした。

(……まぁ、そうだよな)

武器を握り直すのの猫。

その表情は、先日ロック・ビートルと戦った時と同じ。

「見ててね、師匠」

「あぁ、見てる」

俺の首肯を横目に、のの猫は駆けだした。

この時、俺たちは完全に『相馬創のSランクとしての実力を示す』という当初の目標を忘れていたのである。

§

室内に侵入してきた男たちを見て、私は創の部屋の押し入れに身を隠しながら思考を巡らせる。

(念の為に武器は回収しておいたが、あいつらは何者だ? 考えられる可能性としては盗人の類か……あのお人好しが心変わりして私をこの国に売り渡すことにしたか)

脳裏に浮かんだ二択に対し、私は自嘲。

有り得ないとして後者の説を切り捨てる。

決して感情的な判断ではない。

彼がこれまで見せていた私を隠そうとする動き。おそらく彼が強く信頼しているであろう『シモツキ』に対しても秘匿する徹底さ。そして、その一方で私を——ある程度戦うことも出来る敵国の者を一人で留守番させるという間抜けさ。

それらを考慮すれば、彼が売り渡した可能性は極端に低くなる。

むしろどこかでボロを出してしまい、彼も気付かぬうちに目を付けられていたと考えた方がよっぽど利口だ。

だがどちらにせよ、彼らの話し声でも盗み聞けば状況を把握することは容易だ。

(幸い、言語理解の魔道具もあるし……)

スッと首筋の魔道具に触れると同時、話し声が聞こえて来る。

「クリア」

「こっちもクリアだカラス。誰も居ねぇ」

「予定通りだな。まぁ、居たとしてもSランクに股開く馬鹿女ぐらいだろうとは思ってたけどよ。さっさと金目の物を探し出すぞキツツキ」

「だな」

そうして家の中を物色し始める男たち。

やはり盗人の類で間違いはなさそうだ。

問題なのは、これからどうするか。

この世界の人間がどの程度の強さなのかは不明瞭な部分が多いものの、私より強い者はおそらく少ないだろう。創に聞いた話によると、彼はこの国で一番強く、そして世界で見ても稀有な存在だとか。

(先ほど玄関口から一瞬だけ見えた立ち姿は隙だらけだった。……仮にも盗人である以上、侵入の際には最大限の警戒を行うだろう。つまり、最大限の警戒をしても、私にとっては隙だらけに見えるほどの格下であることは間違いない)

手元には双剣もある。

いざという時、私の身体が害される可能性は少ないだろう。

あとは彼らが去るまで息を潜めて待つか、それとも―― 殺すか(・・・) 。

(私が記憶している限り、何処の国でも盗人は殺しても構わなかった。十中八九、この国でも同様のはずだ。何しろ、生かして返す理由など一つも無いのだから)

そう考えた私は双剣を握る手に力を込めて——。

「……」

潜伏することを決めた。

殺害することを辞めた理由は、この国が『異世界の国』である点と、相馬創から感じた『誰も殺したことがないであろう柔らかな雰囲気』だ。

(あいつは『血の気の多い者はこの国では嫌われる』と言っていた。なら——殺害しない可能性も……あるのか? 殺すだろ、普通は。……あー! もう、めんどくさい!)

考えている内に自分の結論に自信が持てなくなった私は、一度思考を切り替える。

(そもそも、隠されている身の上である都合、盗人とは言え殺人の様な目立つ行動は避けるべきだ。うん、納得した)

独り相撲を繰り返して出た結論はそれ。

色々と考えたいことは他にもあるが、兎にも角にも方針は決まったのでこのままやり過ごそうとして——。

「にしても、流石はSランク探索者だよなぁ」

キツツキと呼ばれた男の声に、カラスが疑問を返す。

「何がだ?」

「だってそうだろ? 誰も居ない部屋の中でもこんなにエアコン効かせておくなんて、やっぱ金持ちは考えることがちげぇや。俺なんか電気代気にして必死に我慢してるってのによぉ~」

「……」

「エコはどうしたエコは! 地球にやさしくないぜ~! そうは思わねぇか? ……って、どうしたんだよカラス」

「いや、自分の馬鹿さ加減に嫌気が差していた所だ。……はぁ」

「か、カラス?」

「もう一度くまなく家中を捜せッ! 鼠――いや、相馬の連れ込んだであろう女狐がどこぞに潜んでるはずだ!」

「ま、マジかよ! でも、見つけたらどうするんだ!?」

「どうするって、そりゃ…… 殺す(・・) に決まってんだろ?」

底冷えするような声色で告げ、捜索を開始するカラスとキツツキ。

その会話を押し入れの中で聞き届けた私は、膝を抱えて思うのだった。

(……なるほど。血の気の多い奴は嫌われる――つまり、嫌われ者は血の気が多い者ばかりという事か。……はぁ、どうするか)

小さくため息を吐き——しばらくして。

カラスとキツツキが相馬創の私室に侵入し、その押し入れへと手を掛けた。