軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ep21 Sランク探索者の証明

レイクサーペント。

青白い身体は湖面から出ている部分だけでも十メートル以上。水中に隠れている部分も考慮すれば今まで出会ったモンスターの中で一番巨大なのではなかろうか。

体積ではロック・ビートルに遠く及ばないが、全長では圧勝だろう。

そんなレイクサーペントは獰猛な牙を剥き出しにして迫りくる。

流石水棲生物と言ったところか。

その速さはかなりのもので、仮に水中で戦闘になれば俺は手も足も出なくなる。

魔速型の真骨頂は陸地。

水中ではどうしようもない。

しかしそれは、言い換えると引きずり込まれない限り全く問題ないという事でもある。

俺は右手に氷の剣を生成し、迫りくるレイクサーペントの首を一閃――しようとして、殺気を察知したのか蛇は動きを止めた。

中々知能が高いな、と思ったのも束の間、蛇は水中へと頭を沈めて深く潜り――ぐるりと回転するように起き上がって来た巨大な尻尾が恐ろしい速度で襲い掛かってくる。

並大抵の者なら圧殺してしまう破壊力。

しかし――胸中に焦りはない。

「なるほどね。――『アイスエイジ』」

俺は生成した氷の壁で受け止め、威力が弱まったのを確認して尻尾を切り落とすように右手の剣を振う。

その際、脳裏に浮かべるのは約一週間前に戦った剣聖の姿。

(確か……こんな動きだったか?)

踏み込み、剣を下から上へと切り上げる。腕を振り抜くタイミング、腰を回す位置、今まで意識したこともない剣術に対する第一歩。記憶の中の剣聖の動きを、見よう見まねで再現する。

結果――。

(うん、対象が柔らかすぎてよく分からん)

尻尾は切断され、切り離された先端がごろりと転がった。

これで相手がテスタロッサやルナリア、或いはナイトメア・ゴブリンロードの様な強者であれば、今の攻撃が有用なものになっていたのかどうか一目瞭然だったろう。

だけど、流石にBランク指定のモンスターでは話にならない。

『GYAAAAAAAAAAッ!!』

尻尾を切断されたレイクサーペントは耳を犯すような絶叫を上げながら距離を取り、憤怒と殺意に満ちた瞳で俺を捕らえる。そしてその大口が開かれ――高水圧の水鉄砲が放たれた。

それは湖を割り、地面を粉砕しながら俺へと迫るが、その行く末には先ほど生成した『アイスエイジ』。

レイクサーペントの水鉄砲がアイスエイジを砕く――なんてこともなく、真正面から受け続ける。すると、僅かにだが氷の表面が削れているのが目に見えた。

(へぇ、想像以上の威力だ……)

白木やのの猫が直撃を食らえば、ひとたまりもなかっただろう。

――直撃を食らえば。

攻撃は一直線。

予備動作は大きいし、エイムもイマイチ。

Cランク以上の探索者でこの攻撃に当たる奴は一人も居ないと言っていい。

要はあれだ。

威力を追求し過ぎて使い物にならないロマン武器。

(その威力ですら、ドラゴンブレスの足元にも及ばないのは何とも残念だが)

だけどまぁ、そんなことはどうでもいい。

威力だとか、当たる当たらないだとか。

それよりも論外なのは――。

「氷魔法の使い手に、水の攻撃は悪手以外の何ものでもないだろ。――『フリーズ』」

それは氷属性中級魔法。

しかし魔力を込めれば威力は跳ね上がる。

魔法を唱えた瞬間、高圧の水鉄砲は一瞬にして凍結。

それを放出していたレイクサーペントを、丸ごと巨大な氷像へと変化させた。

はぇ~、中々綺麗な氷像になったじゃないの。

氷は湖面より上の部分のみに展開したが、それでも十メートル近い氷の像は迫力満点。

「すごっ」

とは背後で一連の流れを見ていたのの猫の言葉。

推しに褒められるの最高に気持ちいいね。

心が躍るとは正しくこの事。

そんな俺たちの眼前で、氷像が揺れ動く。

ダンジョンに吸収されていないことから察していたが、まだ死んではいないらしい。

水の中に潜ませた胴体を動かして、何とか氷の像から抜け出そうとするレイクサーペント。俺はこれ以上苦しめるのも悪いと、アイススピアを複数伸ばして巨大な蛇を串刺しにし、引導を渡した。

『GYA――!』

短い悲鳴を上げるレイクサーペント。

『フリーズ』を解除すると、その巨体はダンジョンに吸収されて消えた。

必然、魔石も水中へとさよならバイバイ。

こればかりは仕方ない。

潜って回収に動くのは、余りにも面倒すぎる。

「ふぅ……。帰るか」

モンスターも討伐した事だし、さっさと帰ろう。

今日の食事は何だろな、と考えながら歩きだし――襟首をぎゅっと掴まれた。

「ぐえっ」

え、な、なに?

「ちょ、ちょっと相馬さん!? なにナチュラルに帰ろうとしてるのにゃ!?」

「え? ……あ゛ぁ゛っ! そう言えば今配信中でしたっけ!?」

すっかり忘れてた。

「忘れてたのにゃ!?」

「いやぁ、いつもモンスター倒したら帰って報告って流れだったもので……。ついうっかり」

七規たちと潜っている時は忘れないけど、ソロで戦闘した後だと三船の守護者時代の習慣が蘇ってしまった。

「うっかりって……はぁ、ほんと師匠は馬鹿なのにゃ……。それよりこれ! 見るにゃ!」

渡されたのは配信画面確認用の端末。

当然、配信に書き込まれたコメントも大量に流れており――。

「えぇ……いいですよ。途中から配信ってこと忘れてイキり散らかしちゃいましたし、イタい中学生かよって罵倒されてるのが落ちなんでしょ」

「そんなこと言わずにまず見るにゃ~!」

端末を奪い取り、眼前に差し出すのの猫。

そこに映されていたのは――。

:こマ?

:相馬やべぇええええええ!!

:ふぁっ!? なんですかこれは!

:マジで最強だろこいつww

:これがSランク探索者の本気だぁあああああああああ!!

:うぉおおおおおおお! 相馬最強! 相馬最強! 相馬最強!

:これぐらい誰でもできる定期

:↑そんな定期は存在しない定期。いや、マジで存在しねぇよ…

:正直イキッた言動に見合った実力だったのでくっそかっこよかったわ

:↑わかるマーン!

:切り抜き確定

:おい! 何でスパチャ出来ねぇんだ!

:↑一昨日作られたばかりのチャンネルだから仕方ない

:すこ

:マ~ジでかっこよかった

:やりますねぇ!!

:強すぎィ‼

:これは日本最強Sランク探索者、相馬創ですわ

見たこともない、絶賛の嵐だった。

§

同時刻。

夜叉の森ダンジョンから離れた相馬の自宅付近にて。

黒い乗用車の中で二人の男が言葉を交わしていた。

「カラス、ほんとにやるのか?」

「今更ビビってんのかよ、キツツキ。安心しろ、家主の相馬は現在進行形でダンジョン配信の真っただ中。仮に気付かれたとしても帰ってくるまで時間はかかる」

「でもよぉ……」

「言ったろ? 相手はSランク探索者で、最強であるからこそ自分の家が襲われるなんて思ってねぇ。俺たちはその裏をかくのさ。自分が最強だからこそセキュリティがガバガバなのは確認してるし、その一方でSランクだから金目の物があるのもほぼ確実。これ以上の好条件、他にあるか?」

「ん~、たぶんない!」

「よし、ならどうするんだ?」

「サクッと行って、サクッと盗んで、サクッと帰る」

「正解だ。そんじゃ行くぞ」

そう言ってカラスは小さなナイフを手に取り、乗用車を降りる。

「武器、持って行くのか?」

「念のためだよ、念のため。念には念を、それが俺の流儀だぜキツツキ」

「そうか。……まぁ、念のためなら問題ないな」

そうして二人の強盗が相馬創の家へと向かう。

もう一人の同居人が居る事を知らずに。