作品タイトル不明
252.救世主の甚大なる加護
252.救世主の甚大なる加護
~ナイア視点~
「救世主様から魔力が送られてきたぞ!」
「ああ! 力がみなぎるようだ!」
「さすがアリアケ様だな!! こ、これなら月を防ぐことだって出来る!!」
兵士たちの驚愕と喜びの声が響いた。
「うむ! それにあいつときたら当たり前のように≪魔力アップ≫≪攻撃力アップ≫などの超強力なスキルを重ね掛けしてくれておる! これならば三十四分割された月を障壁魔法によって弾くことが出来ようぞ!!」
我も確信をもって言う。
兵士たちの言う通り、その力は膨大なものであった。
あやつはこのような絶体絶命の場面にも関わらず、余裕を持たせるほどの状況を作り出していたのである。
まったくどれだけ規格外なのだろうか、あの救世主は!
「よし、行くぞ!!!」
「「「「「「おう!!!!」」」」」」
集められた魔法使いたちは一気に詠唱を開始した。
『多重障壁展開!!!!!!!』
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……!!!!!
三十四の障壁魔法が一斉に展開され、分割された月の欠片の落下を見事受け止めることに成功する!!!
「す、すごいっ…‥‥! これがアリアケ様の力か!!!!」
「ああ! まったく何を恐れいたのだか!!」
「さすが救世主様だ!!!!」
兵士たちの歓声が上がった。障壁に阻まれた月は押し戻され、再度 宙(そら) へと押し戻されて行く!
「おお! 月が!! 俺たちが月を押し戻すことが出来るなんて!」
「アリアケ様万歳!!」
「救世主様万歳!!」
地上に 救世主(アリアケ) への賞賛と歓喜の声が湧き上がったのであった。
まったく、さすがアリアケと言わざるを得ぬな!
が、ここで一つだけありあえない出来事が発生した!
兵士たちが4つ目の月の欠片をアリアケによる 加護(スキル) により押し戻すことに成功していた時である!
「おい! おかしいぞ! 押し戻したはずの一番目の月がっ……!」
「えっ!??!?!」
「戻ってきているだと!?!?!?」
混乱するのも無理からぬことであろう。
防いだはずの月の破片の落下。宇宙へと推し戻したはずの月が舞い戻って来たのだ!
だが、あ奴の凄さはまさにそこにある。
その舞い戻りし月すらも押し戻すほどの魔力と加護を兵士たちには与えていたのだから!
ゆえに、
「落ち着け! 落ち着いて対応すればば押し戻せよう!」
我は兵士たちに叫ぶ。
だが、もう一つだけ誤算があったのだ。それは……、
「しかし、俺たちだけで大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫だろう。これだけの力があるんだ!」
「そ、そうだな。だが、やはりアリアケ様が傍にいてくださるのと、そうでないのとでは、その、あれだな。気分が違うな」
「う、ま、まぁな」
兵士たちは少しだけ不安に感じ始めていたのである。
我はあくまで王であり、魔法使いではない。前線に立つこともできるがそれはあくまで王としてである。
アリアケは戦士であり、救世主。
そのことは決定的な誤算を生み出す。
それこそが、アリアケの弱点と言って良い箇所そのもの。
そして、ナイアもフェンリルも言っていたことであった。
それは、
『アリアケは自分の存在を過小評価しすぎている』
そう。
アリアケがいるからこそ、月の落下を防ぐなどという普通不可能と思えることを、A級とはいえ、一般の兵士たちも可能だと思えていたのである。
だからこそ、当初の作戦で、アリアケが自分たちの一番後ろですべてをバックアップしてくれるという作戦を聞いた時、兵士たちは絶対成功するという確信と安堵を得ていたのだ。
月が落下しようが何であろうが、救世主アリアケが何とかしてくれるだろうという無条件の信頼があったればこそであった。
だが、第4の魔王 枯死ユグドラシルの出現によって、作戦は急遽変更された。
一瞬にして作戦をアレンジし、この局面を打破する計画を実行に移したアリアケの力はもはや神の如くである!
だが、あやつは一つだけ重要なことを忘れていたのだ!
それは、アリアケが兵士たちとともにいないこと!
英雄が一緒に戦うということが、どれだけ兵士たちの心の支えになっていたか、あやつは自分の能力とカリスマに無頓着であり、そして、それゆえに兵士たちが全幅の信頼を抱き、恐怖を克服しているという事実に気づいていなかったのである。
自分の影響力が余りに甚大であることを察しえないのが、アリアケの唯一の欠点であった。
そして、それはこの局面においては致命的な隙を生む!
いかに膨大な魔力とスキルによる支援があっても、士気の低い兵士は戦えないのだ!
三十四『分割』障壁作戦は兵士たち全員の障壁魔法の発動が条件。そして、魔法の発動の可否は精神の状態に大きく依存するものであった。ゆえに、一人でも恐怖にのまれてはいけなかったのだ。
しかし、
「はねかえした月を何度も俺たちが止めるなんて……」
「お、おい。何を弱気になってる」
「だが、確かに……。本当にもう一度とめられるのか……。それにあと何十という月が続けて降って来るんだぞ!?」
兵士たちは堕ちる星屑の前に恐慌をきたそうとしていたのである。当初の作戦通りで、アリアケさえいればこのようなことは起こらなかったであろう。
が、今ここに救世主はいない。
あやつが自分の偉大さに無自覚なことが、まさか致命的な危機を招くとは、さすがのあやつも予想できない事態であったろう。
そんな、意外な危機に陥っていた人類たちに対し、
「あれ~、なんだか急いで来てみたら、なんですか、ここ? 雨の代わりに星が降って来るんですか? やっぱり物騒な時代ですね~」
そんな場違いな声が響いたのであった。