作品タイトル不明
248.冥王ナイアが語る人類滅亡のロードマップと賢者の余裕
248.冥王ナイアが語る人類滅亡のロードマップと賢者の余裕
「滅亡の定義か」
ナイアの言葉に俺は脳裏に幾つものパターンを浮かべた。
すると、すぐにビビアが言う。
「はぁ!? まさに今かそれだろうが!! 魔王が圧倒的な戦力でせめて来て、俺たちは殺されちまうんだ、うわーん! デリア―! デリア―!」
「お口にチャックしておけ、まったく」
「ふがー! ふがー!」
フェンリルに口の中へ襤褸雑巾のようなものをツッコまれて黙らされたビビアであった。
彼の意見は分かりやすくて、正しいように思えるが、
「それは違うのだぞ、ビビア」
「ふんぎー! はにはひがふってんだほ!」
何を言っているか一切聞き取れないが、何を言っているのかはよく分かった。
ナイアは独り言のように呟く。
「人を滅亡させるものは、圧倒的な戦力などではない。強大な敵などではないのじゃよ、ビビア。なぜなら」
ナイアは言葉を続ける。
「最後、人を最後滅亡させるのは、人自身に他ならないのだからの」
「すみません、私には分かりかねます。どういう意味なのですか?」
フェンリルが素直に聞いた。
分からないのも無理はない。俺は少し補足する。王の話というのは分かりにくいというルールでもあるのだろうか?
「滅亡や全滅と聞けば、それは魔王や邪神などの、人間の及ばない破壊力によって、人間が滅ぼされることをイメージするのが普通だ」
「はい」
「だが、人間を圧倒する敵が幾ら存在したとしても、人間は滅亡などしないんだよ、フェンリル」
「え?」
俺の意外な言葉に、フェンリルは唖然とした。
我の説明の番を取るなとナイアが言いたげな表情をしたので、俺は肩をすくめて言葉を止める。
「人類にはリーダーがいない。もちろん、今ここに、冥王たる我がいるが、もし我がいなくなっても次のリーダーが立ち上がるだろう! もし、滅亡種人類王国クルーシュチャが亡国の憂き目に遭おうとも、人間はどこかに隠れ住むなりして、決して絶滅などせぬ! そして、いつかまたその力を取り戻すであろう!」
「なら、この魔王どもとの戦いには負けたって絶滅しないってことかよ!?!??!」
襤褸雑巾を吐き出したビビアが叫んだ。
しかし、
「いや、何を言っとるのじゃ。今回の魔王どもに負ければ人類は滅亡する。それは間違いないぞ? じゃから必死に抵抗しておるのじゃし」
「はぁ!? 今言ったこととちげーだろうが!」
「違わぬぞ。なぜなら……」
ナイアは天を蓋する月を見上げ、笑いつつ、
「この魔王どもは人間を直接倒しに来たことは一度もない。ただ『全てから切り離そうとしている』だけなのだから!」
「全てから……」
「切り離すぅ……?」
フェンリルとビビアが疑問符を浮かべる。
俺は簡単に説明した。
「魔王イヴスティトル。あれはイヴの因子によってモンスターを強化して人々を襲わせた。だが、本来の目的は他にある」
「他に、ですか?」
「ああ。あの魔王の目的は、他種族との交流を断絶することだろう」
「あっ、確かに!」
そう。
友好的だった獣人族やエルフ、他の種族たちの交流は、道中モンスターに襲われることから不可能になっていた。
人間は他種族から切り離され『孤独』になったのだ。そして、
「魔王地母神ナンム。かの女神が人類滅亡に寄与した役割とは、人々から神という存在自体を奪うこと。心の支えである信仰と祈りを取り上げることだ」
「し、七面倒なことしやがるっ……!」
「確かにな。だが、見えて来ただろう。魔王の役割が」
「いや全然」「そうですね」
ビビアはちんぷんかんぷんといった表情だが、フェンリルはまさか、といった驚愕の面持ちになった。
ナイアが説明を続けた。
「そして今回の第3の魔王じゃ。 月(イルミナ) の落下は、天の喪失である。当たり前にある空がいかに人類の平穏に貢献して来たことか」
「それについては一つ疑問があるが、まぁ後にしよう」
「えー、なんじゃろ。気になるのじゃ、その言い方。賢者の悪い所が出とるな~」
ナイアはぼやきながら、
「最後に、さっき出て来た、第4の魔王枯死ユグドラシル。人々の魔力の源……というか、そなたらには想像もつかんじゃろうが、このこの神代においては空気のような存在なのじゃよ。それが奪われることの重大さは、恐らく現代を生きるそなたらには計り知れない喪失感であろうな」
と続けたのだった。
「さて、と言う感じなわけでは。人類滅亡の条件とはなんであるか、割と自明になってきたであろう?」
だが、ナイアの問いに、ビビアは疑った調子で言った。
「今の話を総合すると、『孤独』な状態に追い込まれるってことかぁ!? よわっちーあいつらは、一人じゃ生きていけねーってのかよ!?」
「まさに、その通りよ! しっかし、よくそんな言い方が出来るの。人の心がないんか、そなた?」
ナイアは呆れた表情を浮かべつつ、
「まぁ、その通りである。滅亡種人類を本当に滅亡させるのは、強大なモンスターや魔王ではないと、こたびの魔王出現によって確信した!」
俺も同意見なので頷く。
「ああ。人が生きて行くための『環境破壊』。それ自体が目的なんだろう。他種族との交流や見守ってくれる神の存在、青い空と静寂の夜、世界に満ちる生存の源マナ。それらを順番に『破壊』し人類種を『孤独死』させることが魔王に与えられた目的だ」
「お、おい! っていうことは!」
「おお、ビビアにしては鋭い! 気づいたな!」
「俺にしてはってのが余計だ!!」
ビビアの激高をよそに、ナイアは言う。
「うむ、確かに、魔王イヴスティトルは打倒した。しかし、既に目的は達せられておるということじゃな。人類種は既に他種族から孤立し、孤独になった。他の魔王でも同じである! 魔王地母神ナンムは自らこの地を去り、人を見捨てた。目的はちゃんと達したことになる! そして、第3の魔王月が落下することが判明した時点で、もはや人類は安心して空を見上ることは出来ぬ! 空を見上げるたびに以後は絶望が襲うであろう! そして! 第4の魔王は既にマナをほとんど吸収しておる。目的が達成された今、倒しても意味はあんまりない!」
「じゃ、じゃあ! なんで俺たちはここにいるんだよ! 月の落下を防ぐのに意味なんてねーならすぐに逃げてっ……!」
「いや、意味はあるさ。それに……希望もある」
俺の言葉にビビアが驚いた表情を浮かべ、フェンリルも顔を上げた。
俺は言う。
「月が堕ちれば人類は滅亡こそしないだろうが、甚大な被害が出ることに違いはない。それを防ぐことは意味のあることさ。第4の魔王枯死ユグドラシルにしても同じことだ。倒してもマナは戻らないだろう。だが、倒さなければ永久にマナは吸収され続ける」
「なんだよそりゃ! やっぱり意味がねえんじゃっ……」
「いや、それによって大きな成果が得られるんだ」
「へ?」
「アリアケ様。一体それは……」
彼らの問いに、微笑みながら言った。
「魔王の目的はナイアが言った通りかもしれないが、ちょっとな『観念的』過ぎると思うんだよな。巨視的すぎるというか……」
「どういう意味ですか?」
つまりな、と俺は続ける。
「魔王の目的は人類生存のための『環境破壊』。それはまんまと達成はしている。だが、同時に魔王は討伐され続けている。それは人類にとって『希望』に他ならないんだ」
「なるほど! だとすればアリアケ様が!」
「いや、俺と言うか。この勇者パーティーが」
俺が言いかけるが、フェンリルは言う。
「アリアケ様という救世主が、人類存続の希望として、存在する限り、人類は滅びないというわけですね!!」
いや、勇者パーティーの存在が、が正解なんだが……。
しかし、ナイアも口を開き、
「ふうむ、確かにそうじゃな。幾らこうして様々な魔王が放たれ、人類を『孤独』に追い込んだとしても、アリアケという英雄がいる限り、人間は滅びぬし絶望もせぬだろうな」
「冥王ナイア様の存在もそうでしょう。お二人がいれば人類は滅びません」
「おお、そうじゃったな! 我も結構頑張ってる! ぬわっはっはっは!」
ナイアが自分のことを忘れていたと、呵々大笑した。
と同時に、
「だあああああああああああああ! 俺のことを忘れんじゃねえええええええ! 俺だ! このハイパー勇者ビビア様がいなけりゃ魔王討伐はありえねえんだからなぁ!! 俺こそが人類の希望! 英雄! 救世主なんだあ!!」
ビビアの絶叫が鳴り響いた。
「うむ! まぁ、そんなことはどうでもいいか。とりあえず今は、目の前とかちょっとエルフの森とかにいる魔王を討伐することが先決である!」
「そうだな。失敗したら死ぬしな」
「ええ、やりましょう。ナイア様、アリアケ様」
「ひ、ひいいいいいいい! そうだった! は、はやく逃げねえと! マナがねえから月を迎撃できねえんだった! し、死にたくねえ! 俺だけでもっ……!」
それぞれが思い思いの言葉を口に出した時であった。
「第3の魔王・月の落下! 早まっています!!!」
伝令兵の緊迫した声が荒野に轟いたのである。