軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243.フェンリルさんは暖を取りたい

243.フェンリルさんは暖を取りたい

「うーん」

チチチチという小鳥たちの鳴き声で目が覚める。

第3の魔王『 月(イルミナ) 』の落下地点へと王国から出発した最初の朝である。

しっかりとした天幕に、組み立て式の簡易ベッドを設えられた部屋の中の居心地は悪くない。

ただ、宇宙癌ニクス・タルタロスの襲撃によって気象は狂っていて、気温は下がっており肌寒さはあった。

いや、あるはずだった、が……。

「あれ? なんだか温かいな」

ベッドの中が妙に温かいことに気が付く。

カイロを入れた記憶もないのだが……。

そう思って掛布団をめくると。

「うーん、まだ眠いです……もう少しだけ眠らせて、すや……」

「……」

絹のような美しい髪と、そこから生える可愛らしい耳がぴょこんと生える生き物がいた。

「うーん、どうしたものか」

俺は冷静になるように努めることにした。

「昨日は特に普通に眠りに就いたはずだ。少女が訪ねて来た記憶もない。ふーむ、これは難問だな」

久しぶりに頭を悩ませた。

そして、

「なるほどな、これは夢か。なら、そろそろ起きないとなぁ」

だが、

「離れられると寒いので、もう少し身体を寄せてください、アリアケ様」

「ん? ああ、すまない」

怒られてしまった。

言われた通り身体を寄せた。

「夢なのに温かいなあ」

「はい」

彼女はモゾモゾと更に身体を俺にくっつけてから、解説するように言った。

「私の本来の姿はフェンリルという地獄の魔獣です。その形態であれば寒さなど感じません。ですが人間形態ですと若干寒さも感じます」

「体毛なくなるもんな」

「それはデリケートさに欠ける発言ですね。以後、禁止とします」

「なるほど」

アリシアみたいなことを言うなあ、と思ったりした。

そろそろ会いたいものだ、と自然と思う。

「くんくん、別の女のことを考えている匂いがしますね」

「いや、妻のことをな」

「なるほど」

ぐいぐいと、更に身体を押し付けて来た。

若干痛いぐらいだ

「痛い痛い」

「それは良かった」

何が良かったのだろう。

ただ、すぐにその痛いのはやめてくれたが。

「で、何でフェンリルが俺のベッドにいるんだ? 自分のベッドがあるだろう?」

「寒かったからです」

えーっと。

「ちゃんと簡易暖炉もあったと思うが」

「そうですね。それも悪くありませんが、人肌で温まるのが一番いいかと判断しました」

「なぜそんな判断に……」

「それは……」

彼女は言いかけながらおきると、潔いほどあっさりとベッドから降りた。

「暖を取るには効率が良いからです。身体的にも。心的にも」

「身体はともかく、心も?」

よく分からん、と俺が首を傾げていると、彼女は答えずにすたすたと出口へと歩いて行った。

「さ、それより、今日も移動です。早く起きて準備しましょう。アリアケ様」

「ん? ああ、そうだな」

彼女の言っていることの99%はよく分からなかったが、俺はすぐに頭を切り替えた。

なぜなら、妻のアリシアが言うことも、時々分からないことを思い出したからだ。

かくも、女性の行動は理解できないことが多い。

きっと複雑な事情や考えがあるのだろう。

何やらすぐ『ボクネンジーン』という波動が届いたような気がしたが、きっと気のせいだろう。

俺は彼女に続いて天幕の外に出たのだった。

月の落下まで、もう時間はない。