軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

242.三十四重障壁作戦立案

242.三十四重障壁作戦立案

「月はこのイシス星に比べればはるかに小さくはある。4分の1くらいじゃな。うむ、どうじゃ、楽勝感、出てきたであろう?」

「出て来ねーよ! 絶望感が増して来た! 星がぶつかるなんて聞いたことねえよお~。そんなの勇者の仕事じゃねえよ~。俺は(よわっちー)魔王を倒して英雄になってチヤホヤされるために勇者をやってるんだぞ!!」

「だから今回は落下する月が魔王なのだ。受け入れろ」

「そんなのありかよ!? っていうか、マジなの!? 本当にあのお空に浮かぶお月様が魔王なの!? なぁ!?」

ビビアが悲痛な声を上げる。

「アリアケ様……。あの、本当にこいつは勇者なのですか? 前々から疑問の思いが脳裏を高速で掠めまくるのですが」

フェンリルが半眼で、ビビアを指さしながら言った。

俺は微笑みながら鷹揚に頷く。

「ははは。正直、体液を色々垂らしていて、みっともないうえに勇者の風格は消失しているが、嘘偽らざる本音なんだろう。こんな風に皆の前でも本音をさらけ出せるというのも才能の一つだ。一見情けないかもしれないが、さすがビビアだ」

「一見というか、百見してもそういう感想にはならないのですが……」

「うむうむ、そなたらは余裕じゃな。では場も温まったところで作戦会議を進めようではないか。と言っても、やることは単純なので悩むことはない。安心せよ!」

「マジかよ!? さすがナイア女王だ! ばんざーい!!」

「うむ! だって、月が落ちてくるだけなんじゃもん。作戦も何もないのだ。『受け止める』。ただこれだけである」

「このクソ女王が!」

「口を慎め初級勇者。後でパクパクの刑な」

「ひい!?」

そんなやりとりを横目に俺は作戦の具体化を口にする。

「だが、並みの障壁では受け止められないだろう? 少なくとも数十の障壁がいる」

「うむ! その試算をしているのだが、よく分からぬ! どれくらいの衝撃になるのであろうか。それによってなけなしのリソースをどれだけつぎ込むか決まってくる」

「うーん。4分の1と言ったな。だとすれば質量としてはこの星の64分の1だ。それが超高速で落下してくる」

「ほうほう」

「A級冒険者レベルの魔法使いたちが全力の魔法障壁を展開することを前提にしてだが、34重の魔法障壁が必要だろうな」

「す、すごいですアリアケ様。今、一瞬で計算されたのですか!?」

「これくらいは勇者パーティーのポーターとしては当然のことさ」

「当然ではないと思いますが……。そんなことが出来る方は見たことがありません」

「ははは、大げさだな、フェンリルは」

俺は反射的に彼女の白磁のような美しい髪を撫でる。

「ア、アリアケ様……」

「おっと、すまない。嫌だったか」

未来のフェンリルとは違って可愛らしい少女の姿で、なおかつ、どうにも撫でやすい箇所に頭があるので、つい撫でてしまった。

だが、年頃の少女にしてみれば、俺のような年上の男に触れられるのは嫌だろう。

しかし、

「もっとしっかりと撫でてもらわないと困ります。義務を果たして下さい」

「へ?」

「フェンリルの頭を撫でるのは 主人(リーダー) の役割ですから」

なぜか少し頬を染めながら、少女は言った。

「おいっ、真の勇者パーティーのリーダーたる俺はっ……!」

「至福の時間だ。邪魔をするなら丸のみにするぞ」

ひいっ、という悲鳴が轟くが、フェンリルは構わずに俺の手を取って、頭を撫でさせ続けた。

やはりフェンリル=狼なので、頭を撫でられるのが好きなのだろうなぁ。

「うむうむ。良いな、心が温まる光景である。同時に朴念仁の波動も感じる。まぁ、そのまま続けて良いで良いのでもう少し作戦を詰めよう。三十四重障壁は何とかしよう。リソースはほとんどなくなるが滅亡種となるよりはマシであるからな。して、アリアケよ」

「なんだ?」

なでなでしながら、俺は返事をした。

「そなたはどうする? 障壁の展開を補助するのか? 今作戦立案者として後方から全体を指揮するのも良いであろう」

「もちろん補助はするさ。それ込みの三十四だからな。だが」

俺はウインクをしてから、

「最終障壁の担当もしよう。俺の命をかけて、人類を滅亡から救済しようと思う」

「それは過重労働ではないか? そなたの負担が重すぎるのでは?」

ナイアが言うが、俺は微笑みつつ、

「俺は救世主だからな。後ろでのほほんとしていたら、余計に居心地が悪いのさ」

その言葉に、一瞬ポカンとしてから、ナイアは呵々大笑しつつ、

「わはははは! それは民たちの支えになろう! 救世主が最後の砦となってくれるならば、皆、本来の力を出せるに違いあるまい。さすがはアリアケ。その役割を心得ておるな!」

「はい、さすがアリアケ様です」

ナイアとフェンリルが賞賛するようなことを言うが、俺は肩をすくめながら。

「人類最大のリソースを使わない手はないだろう?」

「言われてみればそうであるな、うわはははははは!」

「頼りにしています。アリアケ様」

ナイアとフェンリルが笑う。

俺も微笑みながら、

「落下地点はここから南へ100キロか。そろそろ部隊を移動させる必要がある。魔王イヴスティトルの因子に汚染されたモンスターも出るから護衛兵も必要だしな」

「うむ、早急に準備にかかるとしよう。誰かある!!」

伝令兵が飛んでくる。

「救世主アリアケによる「三十四重障壁作戦」が立案された! これを我が滅亡種人類王国は採用し、断固として成功させる。詳細を指示する。まずは……」

矢継ぎ早にナイアが指示を下していった。

「さて、では俺たちも準備にかかるとするか」

「あ、ああん!? お、俺たちぃ!? お、俺もぉ!?」

なぜかビビアが意外そうな表情をする。

俺は首を傾げながら、

「おいおい、当たり前だろう?」

淡々と言った。

「初級勇者パーティーとして最終障壁の担当をするんだから」

「え"?」

当たり前のことに、ビビアは再度驚いた顔をした。

「さっき言ったじゃないか。リソースは限られていて無駄にできないと。お前ももちろんついて来るんだ。というか、お前がリーダーだからな。最終障壁を担当するから、一番死亡確率が高い。まぁ、いつものことだから、お前は気にも留めないだろうがな」

俺は微笑みながら言う。

「そ、そんな!? お、俺はいかねえぞ!? そんな危険な場所になんて行くもんか。きええええ!!!」

ビビアが奇妙な鳥のような奇声を発するが、残念ながら選択の余地などない。

「お前としては銃後という最終防衛ラインで民をを守りたい気持ちなんだろうが、さすがに今回の最終防衛ラインは星の落下地点そのものだ。勇者の自覚があるのは結構だがな。フェンリル、すまないがお前の力も借りたい。宜しく頼む」

「お任せくださいアリアケ様。ビビアと一緒にあなたの盾になりましょう。あと、責任をもって、こやつを月落下地点まで連れて行きます」

「や、やめろおおおおおおおおお!?!??!」

「ははは。そうだぞ、フェンリル。ビビアが責任を破棄して逃げる訳ないからな」

「はぁ、ええ、まぁ、、そうですねえ」

フェンリルがなぜか遠い目をしながら言った。

その理由は分からないが、ともかくこうして俺たちは第3の魔王『月』から星を守る『障壁作戦』を開始したのである。

俺の立案した作戦に人類の命運がかかっていると言えば重く聞こえるかもしれないが、

「まぁ、いつものことか」

俺は苦笑しつつ、出発の準備を整えるのであった。