軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

241.第3の魔王 月

241.第3の魔王 月

「大変じゃ! 大変じゃ!」

どたばたとした様子で深紅の少女が玉座の間へ駆け込んでくる。

誰あろう冥王ナイアだ。

だが、こうした姿は珍しい。

常に冷静……ではないが、余裕があるのが彼女の特徴だ。

それがこうも慌てふためくとは。

「んだよ。てめえが集まれっていうから、こうやって『深夜』にも関わらず、多忙な超勇者であり救世主たる俺が来てやってんだぜ~。くはははは! 大船に乗ったつもりでいろや! 慌てる必要なんてまったくねえ!」

「さすが初級勇者ビビアだ。それくらいの余裕が初級勇者には必要だ」

「初級初級言うんじゃねえよ! 超勇者かつ救世主様だっつってんだろおおおおおおおお!!?!??!」

「いや、救世主はアリアケ様のことだ。お前はその不出来な弟子。あるいは御付きの者として民には認知されている。光栄なことだな。初級勇者よ」

「誰が御付きの者じゃ、くそがぁあああああああ!?」

ビビアは相変わらず騒がしいが、おかげでナイアは少し冷静になったようだ。

「しょんべん太郎の様子を見ていたら、何だか余裕が出て来たわい。褒めてつかわす! さすがアリアケの弟子である! 道化役もこなすとは! いっそ、勇者はやめてピエロ役で就職するか? 給与もはずもう!」

「道化役なんてこなしてねえ! 俺は勇者だ! 勇猛果敢さで俺の右に出る奴はいねえ!!」

勇者の自覚があることは良いことだ。

それに、

「確かにビビアが強敵に恐れをなさず、まるで無防備でつっこんでいく様子は勇猛そのものだ。時に蛮勇にすら見えるその姿は俺の予想すら上回るからなぁ」

そうしみじみ言う。

「それは本当に相手の実力が見えていないだけだと思うのですが、アリアケ様」

「ははは」

フェンリルが冗談を言うので俺は思わず笑った。

そんな訳はあるまい。

ビビアの死をも恐れぬ勇気には俺も評価しているのだから。

「で、何があったんだ、ナイア。俺たちを緊急で呼び出したのだから、相当のことが起こったんだろう?」

俺の言葉に、ナイアは冷静に頷く。

既にこの場に慌てている者はいない。

ビビアのおかげだ。冷静に問題に対処する心構えが出来ている。

「星見と学者どもの報告によれば、月との距離が急速に縮まっているようなのだ。このままでは時を置かずしてこの星と衝突する」

「なるほどな。ふ、それはナイアも驚いただろうな」

「そうなのだ。さすがに想定していなかったのでな。まさか次の魔王が 月(イルミナ) だとは思うまい」

二人して頷く。

「落下してくるのですか、あれが」

フェンリルは若干固唾をのんだようだが、さすが歴戦の 兵(つわもの) 。

やはり冷静な様子で天を指さす。

神殿の壁は一部開け放たれている。

そこから天空が見えた。満天の星空の中に、 煌々(こうこう) と血のように赤く光る 月(イルミナ) があった。

この 星(イシス) との距離が変化することで、そう見えるだけなのだろうが、それはこれから起こる凶事を暗示しているとしか思えない。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいい!? つ、月が落ちてくる!? あばばばばばばばば!? に、逃げないと!? で、でもどこへ!? ひ、ひいいいいいいいいいいいいい!! ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!」

「おいおい、ビビア。道化のフリはいい。俺たちは冷静だ。ふ、まぁそんな鼻水と涎と涙を流させるような、生き恥のような姿をさせてしまう俺たちが不甲斐ないの言われればそれまでだがな」

「我にはガチのマジにしか見えぬが、救世主がそう言うのならそうなのであろう! うむ! その生き恥の演技! 天晴である! だが、そのままでは『体液全部抜く』みたいになるので、そこそこにしておくのじゃぞ、ビビアよ!」

「何だか初級勇者のことがちょっと可哀そうになってきました……。あまり英雄の中に一般人を放り込むものではありませんね。私でさえ、少し緊張しているのですから……」

なぜかフェンリルが同情の視線をビビアに注ぐが、彼はそんなことを気にせず、やはり道化の演技を続ける。

体液が全部抜けないか心配だな。迫真の演技だ。

まぁ、それはそれとして。

「いつ落下する? 自由落下なのか?」

「いや、軌道がおかしい。明らかに星に『意思』があるように見えるとのことである。それを踏まえて、星見の意見では1週間後。学者どもの意見も一致しておる!」

「ひいいいいいいいいい!? しょ、しょんなにすぐに!?!?」

「そうか。余裕があるな。準備を整えよう。民たちにも落ち着く時間があるから助かった」

「うむ! こういう時にパニックになるのが一番困るからな。そこな演技には見えぬ演技をしているションベン太郎のようにな!」

「ああ。まずは民たちの心を落ち着かせる。魔王 月(イルミナ) 落下阻止作戦の立案も同時に進めるとしよう」

「うむ! 我もそれで良いと思う! いや、それにしても大賢者がいると楽じゃな! 公務二分の一って感じ! どうじゃ、我と 番(つがい) になるか? この神代を救うのに最高効率である!」

「済まないが愛する妻がいるのではな」

「そうかー。冥王が 妾(めかけ) というのはアレじゃからな! 諦めよう! またの機会に宜しく! その点、フェンリルにはチャンスがあるな! うらやま!」

「何をおっしゃるのですか……。別に私はそんなんじゃないですから」

フェンリルが不愉快そうにプイっと顔をそむけた。

やれやれ。

「変なからかい方をするから拗ねてしまっただろう。フェンリル、冗談だから、気にするな」

俺は苦笑しながら言う。

しかし、なぜかフェンリルは尻尾を立てて、ますます不機嫌そうになる。

なんでだ?

「おー、ボクネンジンボクネンジン~♪ らっららー♪」

隣で変な歌を冥王が歌っていた。

「ひいいいいい、デリアー! デリア―! プララ―! エルガー! おおん! おおん! おおおおおおん!!」

伴奏するように、ビビアの悲鳴(の真似だろう)が神殿に鳴り響いていた。

「やれやれ。月が落ちるというのに、気楽な奴らだ」

だが、だからこそ頼もしい。

俺は微笑む。

この大賢者アリアケが支援するに足るメンバーだと思ったのである。

……とはいえ、少しだけ物足りなさも感じるのだが。

それがなぜなのか。

疑問に思うまでもなかった。

だが、今はこのメンバーで何とかするしかなかった。

「では第3の魔王『月』討伐作戦を開始するとしよう」

救世主の俺の声を皮切りに、戦いの 火蓋(ひぶた) は切って落とされたのである。

ところで、

「第3の魔王で良かったんだよな?」

「うむ! もちろんである! どうかしたのか?」

「いいや」

俺は微笑みながら、

「度忘れしたので確かめただけさ。なぁ、ナイア?」

「うむ! 誰しも忘れっぽいからな! 我も時々忘れる! ぬわっはっは!」

俺は彼女の笑い顔を見て、同じく笑う。

なるほど。

第3(・・) の魔王か。

「まぁ、了解した」

俺は早速次の行動に移ることにしたのだった。

俺が思った通りだとすれば、ジタバタしても始まるまい。