軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244.大賢者による防衛指揮 前編

244.大賢者による防衛指揮 前編

空の彼方。

だが、いつもならばぼんやりとした美しい白き月が、今ははっきりとした相貌を俺たちに見せつけていた。

まだまだ遠い。

だが、本当に近い。

そんな不思議な光景が、俺たちの上空で展開されていた。

「星見どもによれば、ここが月の落下地点の、その中心部分となる」

「ひええええええ……。に、逃げないと……」

「言っておくが、どうせどこに逃げても助からんぞ? 何せあの月が落ちてくるのだからな。ここは一つ、救世主の『障壁作戦』をまんまと成功させようではないか! わっはっはっは!」

「どうしててめえはそんなに楽観的なんだよ!? 月だぞぅ!? もっとビビれ! 俺だけビビってるみたいなのは我慢ならねえ!」

「わははは! 滅亡種の女王ともなれば、世界の終わりなど慣れたものだ! これもその一環である! だが、今回はなんとも心強い味方がおる! しかもとびっきりの、と来た。本当ならば我とて多少ビビッておったかもしれんが、ここまでラッキーな状態でことに向かえたのであるからして、情けない態度など取れぬ!」

「ふ、ふん! まぁ、確かにな。俺のような最強の助っ人が未来から来たとなりゃあ、確かにお前がビビらねえ理由に」

「あまり過大な評価をされてもな。戦うのはお前たちでもある。俺はほんの少し手助けするだけだ」

「ふふふ、世界の危機を未来で何度も救った英雄が、ちょっと手助けしてくれるなんて、胸あつ以外の何物でもない!」

「おい、俺のことを忘れてんじゃねえぞ! この俺こそが超勇者っ……」

「ええ。それに既にアリアケ様はクルーシュチャの民たちの希望となっています。あなたがいなければこの戦いに参戦したがらない兵士たちは多かったでしょう」

俺は頷き、

「まぁ確かにな。人間を動かすのは力だけじゃない。心が伴わなければ、そもそも戦いにならないとうわけか」

「その通りです。良かった。やっとご自身の影響力を少しは理解してくださったようですね」

「ふ。だが、俺だけの力じゃないさ。このビビア」

「そうだ! 俺だ! 俺の存在こそが人々の希望でっ……!」

「子供たちに大人気だ。ああも子供たちと等身大で遊べる英雄などそうはいまい。大したものだろう?」

「あー、えっと、はい……。まぁ確かに私ですと少し怖がられたりしますからね」

「俺もだ。その点ビビアは子供に人気がある。泥団子をぶつけられたら、まるで本気で怒っている演技をしながら、追いかけたりするからな。子供たちも楽しいんだろう」

人魔同盟学校の校長をしている関係上、子供に好かれるのは一筋縄ではいかないことは知っている。

それをあっさりと、しかも見知らぬ土地でやってのけるビビアはさすが勇者を名乗るだけある。

「ふぎいいいいい! 思い出したらむかついてきた! 街に帰ったら俺の特性泥団子を喰らわせてやる!!!!」

「ふっ。まったく、子供相手の遊びにこうも真剣になれるのだからな。俺などは遠巻きに眺められるか、握手を求められる感じで少し寂しいと思っているくらいだというのに」

「いえ、アリアケ様。それは子供相手に 真剣(しんけん) なのではなく、マジ、になっているだけのように思うのですが……」

「?」

フェンリルがよく分からないことを言う。

聡明な彼女のことだ。きっと哲学的な意味合いなのだろう。

さて、それはそれとして。

「魔法使いたちの配置は完了済みだな?」

「うむ。34人の人類に残された魔法使いたちを連れてきた。月の落下まであと12時間だが、所定の位置で既に待機を命じている。何が起こるか分からぬゆえな。そして、アリアケ、そなたの支援スキルを待っている状態だ」

「了解した。っと、それはともかくとして、早速来たようだ」

俺が察知するのと同時に、フェンリルも何も見えない空の彼方を見た。

「ああん? 何が来たってんだよ? なーんにも見えねえぞ~」

聖剣にもたれかかって、ぞんざいな口調でビビアが言った。

「気配察知スキルに反応した。レッドドラゴンだ。恐らく100匹程度」

「私の耳も同じ気配を捉えています」

「うむ! やはり来おったな! 魔王イヴスティトルの因子に支配されたモンスターどもであるが、別の魔王にも加勢するということがこれで証明されたというわけだな!」

「あわ、あわわわわわわ!」

「まぁ予想できたことだ。そのために勇者パーティーがここにいるのだからな」

「然り! 楽勝で退けてくれようぞ!」

「ええ。接敵まで1分。そろそろ肉眼で見えます。全軍! 反撃準備!!」

「はわ、はわ、はわわわわ!!!」

全員が、各々の武器を構える。

そして、フェンリルが言った通りおよそ1分後、100匹以上のレッドドラゴンが、第3の魔王『月』への迎撃作戦を邪魔するために、襲来したのであった。

「うむ! 現場は久しぶりだが、やはり運動は良い! 見よ、この冥王ナイアの深紅の鎌の切れ味を! あとで全部ドラゴンステーキにしてむしゃむしゃしてやろうぞ!」

「スキルもまだ使っていないのによくやる。無茶をするな。≪攻撃力アップ≫≪スピードアップ≫≪竜殺し≫」

「おっと、久しぶりなのではしゃぎすぎたの! だが、これは凄いな! 見よ、冥王ナイアちゃん、ここにありじゃ!」

掛け声はまるではしゃいだ子供のようであるが、彼女が宙を舞い、大鎌を閃かせるたびに、レッドドラゴンたちの首が次々と胴体から離れる。彼女だけで10体以上を既にしとめた。

「よし! ノルマ完了である!」

着地すると同時に大地に鎌をドンと大地に突き立ててメイアが言う。

周囲はレッドドラゴンの亡骸と、彼らの屍山血河、何よりその中央にたたずむ冥王ナイアの存在によって、紅一色に染まる。

見る者が見れば、悍ましい光景だ。

だが、人類の危機にあって、これほど勇気を与える光景はない。

「ふざけんな! もっと働け!」

ビビアが文句を言う。

気持ちは分かるが、

「そなたが働かんか。我だってちょっとは手を抜きたい。いつも頑張りすぎるとワークライフバランスが崩れちゃうじゃろ?」

「そんな場合か!?」

「そんな場合よ。これくらいは雑魚ではないか。そなたが何とかせい」

そんなことを言っている彼女へ、単体で突撃してきたドラゴンが大口を空けて丸のみにした。

「ひえええええええええ!? だから言ったのにー!?」

ビビアの叫び声が響くが、

「だから、我はお休みじゃと言っておろう? そなたらは英雄。役割が違うじゃろうに」

何もなかったかのように、彼女の身体が現れる。

彼女を飲み込んだように見えたドラゴンの肉体は両断されて、その間に立つナイアは微動だにしていない。

「アリアケの支援スキル凄いの。我の攻撃、見えんくらい早かったわ、ぬわははは!」

「……」

呵々大笑するナイアにビビアが絶句しているが、余りぼーっとしている余裕はない。

「ん。とりあえずドラゴンどもが距離を取った。遠距離戦に切り替えるつもりだろう」

「な、なにい!? も、物陰にっ……!!!」

「フェンリル、ビビア、頼むぞ」

「承知した」

「へ?」

「先ほどのスキルに加えて……。≪回数付き回避≫付与、≪火属性攻撃耐性≫付与、≪即死無効≫」

「ありがとうございます、アリアケ様。よし、行くぞビビア」

「い、いやだ! お前の背中になんか乗りたくない!!」

ビビアが首をブンブンと振る。すると、フェンリルが呆れた声で、

「私の背中にお前など乗せるわけないだろう。私の背中はもうアリアケ様と決めて……ごほん。ともかく、お前は自分でドラゴンたちの所まで行け」

「む、無理に決まってるだろう! それに前みたいに無理やり突っ込ませようとしても無駄だからな! 俺は行かねえ! 命大事になんだぁ!」

ふ~む、どうやら。

「ビビアは一番困難な最終防衛戦で戦うことを希望しているようだ。さすがの覚悟だな」

「はぁ、まぁ、そういうことですかねえ。ですが分かりました。攻撃する方が楽なのですが」

「へ?」

俺とフェンリルの会話に、なぜかビビアはキョロキョロと視線を行ったり来たりさせる。

今更、確認するほどのことではないというジェスチャーだろう。

ふ、さすがだな。

俺は彼の覚悟をすぐに理解して、次の行動へ作戦行動へ移った。