軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

191.神の影

191.神の影

神殿は広大な敷地に建てられており、庭も相当に広大である。

よく手入れされた中庭のその向こうには、更に広い庭が続いている。

この広い庭の後方には、美しい山の稜線がうっすらと見える。昼間ならばはっきりと見えるだろうが、今は既に黄昏時。夜の帳もじきにおりようという時刻だ。

「本当に誰もいないな」

「よ、よく平気だな、アリアケ先生は。何だかあたし、ゾクゾクするんだけど」

「わたくしもですわ。何だか今まで感じたことがない感覚ね」

「わ、私はへっちゃらです! エルフは勇敢なので!」

「と言いつつ、私の後ろに隠れるのはやめていただけるかしら? コレット先生やフェンリル先生の後ろに隠れてはいかが?」

「べ、別にいいじゃないですか!」

「なに? 私の方が安心するのかしら?」

「そ、そんなじゃありません! ふざけた授業態度のあなたを好ましいとは一度足りとも思った事なんて、ないんですからね!」

生徒達のやりとりを、教師陣の俺たちは聞くともなしに聞いている。

「ちなみにピノは平気そうだな」

「んなぁ?」

というか何も考えていなさそうである。

そんな様子を見ながら、コレットが口を開く。

「それにしても、ソラとキュールネーか。エルフとドラゴンとは。むむ、意外なところがくっついていて、何だか尊いかんじなのじゃ♡ ちょっといいな、これ」

「他種族ごった煮というのも悪くないのう。なかなか良い光景で眼福であるぞえ」

「「そういうんじゃないから!」」

二人がつっこみを入れる。さてさて。

「みな、余裕があって何よりだが、油断はするなよ。他のみんなも、な」

「は、はい!」

孤児のミハイルは緊張した面持ちで頷いた。

庭には、アリアケ神官室の全員で行動していた。戦力の逐次投入が良いケースもあるが、俺の直感的にピンとくるものがあったのだ。なので全員を連れてきている。

「やはり、こんな時分に、この場所に来る人間はほとんどいないんだな」

だが都合は良い。

夕刻になれば、神の祈りや、神殿の閉鎖などの仕事が、お傍付きにも神官にもある。

ゆえに、黒い影がこの場所で出現するという噂は、本当にたまたま通りかかったお傍付きの間だけで噂になっているものなのだ。だから取り締まりの衛兵が来る心配もない。

と、そんな話をしていた時である。

ついに黄昏時から、夜の帳が大地に落ち、しばらくした時だった。

「せ、先生あれは!」

「!」

フィネの声が指し示す方向に、暗闇に紛れるようにして、黒い影が庭を横断するようにゆっくりと歩いていた。

その姿は黒闇のせいで黒色なのかと思っていたがそうではない。

そもそも、黒衣のドレス姿をしていた。

髪の色は銀であろうか。後ろでくくるシンプルな姿なのに、月に照らされたそれは妙に美しく映える。

同時に、肌の色も真っ白で、まるで精気がない様子なのだが、その黄金色の瞳に宿る意思の力が、そうしたすべての印象を上回り強烈な印象を残した。

金色の瞳とそこから噴き出す権威じみた雰囲気。

腰に携えた禍々しい長剣。それからは明らかに闇の力を感じた。

「アリアケ・ミハマか」

意外なことに、その影ははっきりとした口調で俺へと話しかけてきた。

その堂々とした口調は、まるで王か神といった、権威の最上位に位置するそれだ。

「幻覚はきいていないようだな」

「いや、きいている。だが、この場所にやってくるとすればお前ぐらいしか思いつかぬだけだ。人の王よ」

「俺はそのようなご大層なものではないが……」

「そうか。ならば単にアリアケ王と呼ぼう。こたびの働きは大儀であった。私は本体ではないが、代わって礼を言う」

「本体ではない?」

「影だ。かの邪神も影を現世に降臨させて色々と企みごとをしていたように、私もその方法を好んでいる」

「本体を守るためにだな」

「いや、単に面倒なだけだ」

「……」

「仕方ないだろう。私はそういう側面の神なのだから。攻めるなら私ではなく、このようになった経緯や環境を恨むべきだ」

「ちょっとよっと!」

と、俺と謎の影との会話に、フィネが我慢ならないとばかりに割り込んだ。

「さっきから何をしゃべってるか分からないよ! 何より、あたしはルギが心配でここに来たんだから! 情報を集めてもルギの情報がない! あんた、ルギのこと何か知ってるんじゃないかよ!」

ドストレートな叫びに、影はふむと頷いてから、

「あれは今回の悪だくみの重要な要素でな。我が操り人形として働いてもらう予定だ」

「なんだって! あれはあたしの、その、うーん、と、友達だぞ! 今のところ!」

「そうか、ならば都合が良い」

その影は……。いや、明らかに黒き騎士とも見えるその女性は禍々しいオーラを放つ剣を抜くと、

「お前たちが舞台に上がる資格があるか、試させてもらうとしよう」

「やっぱりこうなるのか」

俺はため息をつきながら、杖を構える。

「みんな、戦闘準備! 油断するな!」

「そう緊張するな。これは露払いだ。禊のようなものだと思え。無論」

彼女は酷薄な様子で、皮肉気な笑みを浮かべた。

「場合によっては命を落とすだろう。気を張るが良い。はぁ!!!!!」

黒き影が剣を振るう。

それだけで、大地がえぐれるほどの烈風が周囲をなぎはらった。

「ほう、今のを防ぐか」

「合格でいいのか?」

「冗談はよせ。たまには退屈をまぎらわさせよ、人の王よ」

黒き影が動く。

「光栄というべきかな。ワイズ神の影よ」

「はへ?」

「ワイズ神……様?」

フィネとキュールネーの唖然とした声が聞こえたが、俺とコレット、フェンリルは構うことなく、彼女の動きに呼応して戦闘行動に移行していたのだった。