作品タイトル不明
190.子供に大人気のアリアケと、コレットたちの神殿での生活
190.子供に大人気のアリアケと、コレットたちの神殿での生活
「そうなのです。ビューズ神官は非常に気性が荒いお方ですね。お傍付きたちも困っている子が多いみたいです。そうだったわよね、ミミルク?」
「うん。テールちゃん。しかも人使いも荒いし、気に入らないとすぐに折檻してくるんだ。この前も痣が出来ちゃったよ」
「可哀そうに。君たちのような子供につらくあたるとは、よほど心が狭い輩のようだな。神官の資格などなさそうな奴だ」
俺が眉根を寄せて、幼い少女たちの頭を撫でると、二人はぱちくりと目を丸くした。
そして、なぜか頬を赤く染める。
「ア、アリアケ神官様がお優しすぎるような気がします」
「そうか、子供にやさしくするのは普通のことだろう?」
「そんなことないです。理不尽なことが多くて、結構滅入ってしまってる子も多いんです。あっ、もう少し私の頭も撫でて下さい」
「いいけど。俺になでられて嬉しいものか?」
「それはもう……。今日の昼食の出席権をかけて、お傍付きの子供たちの間で争奪戦が発生しましたし」
「なぜそんなことに」
「それはやはりアリアケ様の人徳というやつでしょう。あの、私ももう少し撫でて頂けますか?」
「テールずるいよ。あなたは毎日来てるんでしょ? ちょっとは遠慮したほうがワイズ神の教義にそってるんじゃないかな?」
「そんな教義は聞いたことがないわ。それに、いいじゃない。別に。たまには。あなたこそ初対面のくせにずうずうしくない? もうちょっと遠慮されたら?」
「どうして喧嘩になっているのか分からんが……。必要なら幾らでも撫でてやるから、仲良くしてくれ」
「「きゃー♪」」
お傍付きの子供たちの会話はこんな風にして進んでいった。
どうやら、神殿でお傍付きの身分は低いものらしく、俺の様に普通に接してくる神官が珍しいようで、こうして妙になついてくれる。
「すぐに打ち解けてくれるいい子たちばかりで良かった」
俺は微笑む。
しかし、
「朴念仁」
「アリシアにちくってやろうぞえ。将来の禍根の種をまいておるとなぁ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
という感じで、半眼に目を細めながら、なぜか冷たい視線を俺に向ける双眸が幾つか。
「コレット、フェンリル。何を言っているんだ?」
俺はきょとんとする。
二人は、
「「は~~~~~~~~~~~」」
と深々とため息をつくのだった。
「さすがといいたいところじゃが、旦那様が子供にここまで大人気じゃとは、このゲシュペントドラゴンの目をもってしても見抜けなんだ、なのじゃ」
「よく考えればそなたも子供みたいなものであるし、この事態は想定しておいても良かったのかもしれんのう」
「?」
二人の会話は半分以上、理解不能だが、とりあえずうまく情報収集が進んでいることを褒めてくれているのだろうと解釈する。
それはそうと、コレット、フェンリルたちもお傍付きということになっているので、いちおう神殿での仕事が割り当てられている。
それにしても、
「二人とも、ワイズ教の聖衣がよく似合っているな」
俺は改めて言う。
二人の普段の恰好とはまた違った印象で、美少女なだけあってよく似合うのだ。
「くっ! こうやって何気なく服を褒めてくれる旦那様! これくらいでトキメいてしまって、今日一日頑張れちゃう自分がちょろすぎなのが分かる! のじゃ!」
「我ものう、もう少し老成しているつもりだったのだが、わりとグッと来るのよ。本当に罪深い男よの。アリシアにちくっておこう」
「思ったことを言っただけだろうに」
「「そういうとこだぞ」」
二人が呆れたような、しかし微妙に頬を染めて外に出て行った。
コレットは訪問客の案内。フェンリルは夕食の仕込みだろう。ちなみにフィネたちはまだ小さいので掃除が役目だ。
さてワイズ教は国教ではなくなったとはいえ、根強い信者がいる。
というか、無理やりブリギッテ教を国教にしたから、当たり前と言えば、当たり前だが。
なので、コレットの訪問客受付の仕事というのは多忙である。
それで、神官の仕事のうちの一つにいわゆる懺悔を聞き、それを許す言葉をかける、という仕事がある。
俺たちの正体はスキルによって、幻覚を見せるようにしているが、懺悔は神官に順番に割り当てられるので、俺を訪ねてくる訪問客がいるということだ。
テールたちとのいつもの昼食が終わると、俺はその仕事を始めることになる。
懺悔を聞く部屋へと入ると、コレットが案内してきた訪問客が、壁越しにやってきた。こちらの姿は見えないし、こちらからも見えない。
「……まさかお主が来るとは想定外なのじゃ」
「? 何かおっしゃいましたか?」
「なんも言っておらんのじゃ。さっさと懺悔するのじゃ」
「えらそーな、下働きですわねえ」
何やら訪問客の女性とコレットが話しているが詳細は聞き取れない。そうこうしているうちに女性は懺悔室に入り、懺悔を始めた。
「神官様。わたくしの懺悔を聞いて下さい」
「ええ、いいでしょう。神はすべてをお聞き届けくださいます」
「ありがとうございます。実はとある男性のことなのですが……」
「ええ」
「彼の性格が最悪なのですが、どうも私はそんな彼のことが気になって仕方ないのです。それで、先日実は世界を救ったのですが、その際に人生で一番の窮地になった時に」
「ん?」
「わたくし、どうやら彼に恋していることに気づいたのです。ですが、彼は性格は最悪で女癖も悪い最悪男なのです。今も金のために悪に加担してるみたいでして……。そんな彼を好きになってしまった私をお許しいただけますか?」
世界を救った?
「奇遇ですね。私も世界を先日救ったりしたんですよ」
「まぁ。うふふ、神官様も冗談を言われるのですわね」
冗談ではないが、そう受け取ってもらったほうが都合がよい。話を続ける。
それに、何だか他人事ではないような気がして、ついつい親身になってしまう。まるで俺のよく知る二人のようだ。
「俺の友人にもよく似た知り合いがいます。あくまで友人の話ですが、その友人もそんな悪徳男を好きなようなのです。本人は気づいてないようですが」
「まぁ」
「しかし、お似合いだと俺は思っています」
「そ、そうなのですか? でもその男もありていにいってクズなのでしょう?」
彼女の言葉に俺は頷きつつ、
「ええ。ドクズで、まったく周りが見えていません。金遣いも言葉遣いも、女癖も悪い。強きに流れて弱きをくじくような輩です」
「あはは。それはまあ、最低ではないですか」
「ええ、しかし、どうでしょうか。そんな人間の悪性の塊のような男でも、俺たちに最低とは何か、決して真似してはいけないダメ男とはどんなものか、そういったことを教えてくれる」
「!? そうなんです!!」
女性はハッとしたように言った。
「もう、ほとんど最低なのですが、そこがたまらないんです! むしろ、正義とかまじめに何かやるなんてつまらないのですわ! 彼が無茶苦茶やっていると、死にかけることとかもあるのですが、何だかワクワクするのです! 正論ぶってるやつをぶっ飛ばしたりしてる姿を見てると、スカッとするのですわ」
「暴力は反対ですが、そういうダメな男を支えてあげるのもまた、恋の形なのではないでしょうか?」
「そうか。私はダメ男が好きな女だったのですわね」
「ええ、ダメ男にはダメな女が寄るともいいます。そのことを自覚されるといいのかもしれませんね」
「ややディスられている気もしますが、私の本心をまるで見て来たかのように指摘される神官様はさすがですわ」
「たまたま友人に似たような者たちがいたのでね。あなたがたより何倍もクズだとは思いますが。ははは」
「そうなのですわね。私も彼も、それほどのクズではありませんが、参考になるお話を伺うことができて本当に良かったですわ。神官様のお名前をお伺いしても?」
「申し訳ない。私は懺悔を聞き、それを許すための神の御使いにすぎません。名を名乗ることは許されていません」
「そうでしたか。これほど的確なご助言を頂けたので、またお話を聞きたいと思ったのですが……」
「お二人はお似合いだと思いますよ。ぜひ、積極的にアプローチをしてみてはいかがですか?」
「そ、そうですわね。……先を越されたけど、あの澄まし顔の聖女にでもコツを聞いてみようかしら。男の落とし方を」
「?」
なぜか身近な女性の顔を次々に思い浮かべることになったが、女性が席をたったので思考はそこで打ち切りとなった。
代わりに、案内役のコレットがやってくる。
「何だか俺の不出来な弟子を思い浮かべながら、ついつい親身になって話し込んでしまった。いやぁ、ダメンズが好きな女性と言うのは結構多いんだな」
「そ、そうじゃなぁ。いや、しかし旦那様がビビアらのことをドクズと認識しているとは意外だったのじゃ」
「ん? ああ、あれは話を合わせただけさ。相談しに来た彼女とその好きになった男は、話を聞くにドクズに違いないと思ったが……。ビビアたちは不出来な弟子、といった程度だろう? ははは」
「あ、あ~、まぁ、うーん、そうじゃな~。まぁいっか。にゃはは」
何だか呆れたようなコレットの笑い声に、俺は首を傾げたのだった。
そんなこんなで本日のお勤めが終わる。
夕刻5時には終わり、自室へと引き上げると、フェンリルが料理を用意してくれていた。
テールたちは昼食時と夕食時に毎回来るわけではないので、今日はコレットにフェンリル、そして、
「うおー、めっちゃ美味しそう!」
「さすがフェンリル様ですわねー。良妻賢母感半端ありませんわね」
「ソラも料理習おうかな、と思わせるほどの腕前ですね!」
「間違いなくおいしー」
「こんな美味しい食事を毎日とらせてもらえて、僕は幸せです、フェンリル様」
生徒達も絶賛するほどの料理がテーブルに所せましと並んでいた。
「よく噛んで食べるのだぞ?」
「はーい! いただきまーす!」
完全に母親モード・フェンリルなのであった。
さて、そんな食事に舌鼓をうっていたところで、フェンリルが話し始めた。
「そう言えばのう。今日、厨房で料理の仕込みをしていた時に、たまたま別の料理好きのお傍付きと話をする機会があったであるが」
「テールのおかげでずいぶん馴染めているみたいだな」
「主様のおかげよの。でな」
彼女はグラスを傾けてから、ゆっくりと言った。
「最近、神殿の庭に黒い影が現れるというそういう噂がたっているようであるな。だが近づけば消えてしまうそうな」
「ふーん……。幽霊みたいなものか?」
「それに近いが、消える瞬間に一言呟くとのことだ」
「話す幽霊なんているの!?」
フィネがびっくりするが、同感だ。そういう意思を持つ霊はいるにはいるが、非常に珍しい。
「うむ、その幽霊はな、人が近づくとこう言ってから消えるらしい」
彼女は微笑みながら、
「『ブリギッテを殺すにはまだ足りない』となぁ」
そう言って目を細めたのだった。