作品タイトル不明
186.目立つなよ……目立つなよ……
186.目立つなよ……目立つなよ……
「さて、ここが聖都マリードに到着したな。皆、聖衣に着替えたか?」
「うむ、儂としたことが似合い過ぎて自分が怖い! アリシアと同じくらい可愛くない?」
「お前が可愛いのはいつものことでは?」
「ぐはっ!? クリティカルヒット! ゲシュペントドラゴンは倒れた、のじゃ!」
騒がしいコレットは置いておくとして、
「フェンリルは……。まぁ似合うだろうな」
美しい絹のような髪に、ワイズ教の薄紫を基調とした聖衣はよく映えて、彼女を神秘的に見せていた。
「その誉め言葉もなかなか良いのう。主様は罪なお方よ」
今は人型の彼女は、聖職者のいで立ちで妙にあでやかに微笑んだ。
今回は引率の先生として、この二人を連れてきた。
「あの~、はばかりながら、ですが」
ソラがおずおずと挙手し、口を開いた。
「コレット先生は潜入には向かないんじゃ?」
「なんちゅー率直な感想を言う 小娘(ソラ) じゃ! じゃが、その通り! なんで儂なん?」
「お前はここぞというときの直感が鋭い。ドラゴンゆえの直感は予知に匹敵する。フェンリルは理知的だが、予知までは出来ない。ということで頼りにしている」
「うおおおおおおおお! 愛してる! どうじゃ 小娘(ソラ) ! 儂の力を思い知ったか!」
「潜入に向いてなさそう、という印象はますます増大しましたが、アリアケ先生のご意図はよく理解しました。以上です」
「それで~」
キュールネーが頬づえをつきながら言った。
「コレット姫……コレット先生とフェンリル先生がアリアケ神官の『見習い』。私たち生徒は先生方の『お傍付き』という立場でいいんですね?」
「ああ。バシュータが手配は整えてくれている。俺はスキルを使用して現在の神官と入れ替わる。神官は数人の見習いと傍付きを置く慣例のようだ」
「でもさ、いきなり新しい神官が来たら目立つんじゃないかなぁ?」
フィネがもっともな質問をする。
「スキル『幻覚』を使用する。だからいきなり来た神官とは認識されない。文字通り入れ替わるわけだ。問題は、俺たちはワイズ教の教義や風習を知らない。出来るだけ目立たないように努めて調査する必要がある。そこで、ミハイルにも参加してもらうことにした。色々教えてくれ」
「わ、分かりました」
緊張した様子でミハイルが頷いた。ちなみに、無言で遊んでいるだけだがピノも連れて来ている。
「うむうむ、任せるのじゃ! 気に入らないやつが来ても、ブレスではなく、グーパン程度にしてやろう!」
「のっけから破綻しそうですね! 確信を得ました!」
「なんじゃと、ソラ!」
「まぁ我がそのあたりはフォローしようぞ。それで良いかえ、コレット?」
「む? まぁフェンリルが言うならいいけど。じゃが、お主らは分かっておらんようじゃな! この中で一番、潜入に向いていない人物が誰なのかを!!!」
「「「え?」」」
「おお、おお。予知が発動したのう」
フェンリルがおかしそうに言った。
「簡単に予知にするんじゃないのじゃ。これは単なる傾向なのじゃ!」
「ふふふ、なるほどの。かしこきかなドラゴンや」
「うむ!」
二人がそんな会話をした。
潜入に一番向いていない人物? さて、さすがにコレットが一番向いていないと思っていたのだが、一体誰のことを指しているのだろうか?
そんな作戦会議をしているうちに、聖都マリードの中央に堂々と鎮座する神殿。
まさにワイズ教の総本山。
ワイズ教大神殿までやって来たのだった。
入口には見張りがいるが、既にスキルは使用している。
「アリアケ神官様。お帰りなさいませ」
「ああ、開門してくれ」
「はは」
門番が扉を開く。
と、その時であった。
「この役立たずめが!」
「ひっ!? も、申し訳ありません!!」
「うるさい! このっ……!!!」
神官服を来た男が、おそらくお傍付きの少女に手を上げようとしていた。
「いきなりだな。って、あれ? アリアケ先生?」
「ほら、の?」
「うむうむ」
音もなく立ち上がった俺を見て、コレットとフェンリルは『やれやれ』と首を横に振った。
「誰が一番目立つかなど議論の余地はないのじゃよなぁ」
「そうであるなぁ」
そんな声を聞きながら、俺は瞬時にスキルを使用してその男性神官の傍まで移動すると、
「あぎゃ!? いでえ! いででででででででで!」
その振り上げた手をひねりあげたのだった。
「おっと、すまない。虫がついていたものでな」
「誤魔化せてるつもりならすごいわね~」
キュールネーのよく通るハスキーな声が、後方から聞こえて来たような気がした。